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8月19日
夕方部屋で勉強をしている私の元に電話がかかってきた。
「もしもし。」
『あ、君島くん。高野です。』
「なんだかものすごく久しぶりという感じがするな。」
電話の主は高野だった。私達は、今月初めの一ノ宮での花火大会の日に、お互いの想いを打ち明け合い、晴れて恋人同士となった。
かといって、正直何をしていいかも分からず、夏休みなので学校へ行くこともほとんどなく、付き合い始めてからもう2週間以上が過ぎてしまっていた。
『ほんと。久しぶりに君島くんの声を聞いたよ。一年ぶりくらいの気持ちかも。』
「それは大げさではないか?それにメールはちょくちょくしていたしな。」
さすがにお互い毎日音信不通というのもどうかと思い、気がつけばどちらからともなくメールでのやり取りはするようになっていた。なので日々をどういう感じで過ごしていたかなどはなんとなく把握している。
『えー?そうかな・・・。だって今日まですごく長く感じたよ?』
高野の声は少し寂しそうだ。私の事を想ってくれていたのかと思うと、こちらもグッときてしまう。ましてや自分の好きな女の子にそんなことを思われて一瞬にして幸せな気持ちに押し上げられた。
「あー。まあ。・・・実は私もだ。」
『・・・。』
途端に沈黙になる。電話越しに息づかいは聞こえてくるので、そこにはいるようだが。
「高野?」
『君島くん。』
「ん?どうした?」
『好き・・・だよ?』
「・・・!」
な・・・なるほど。そういうことか。
先程の高野の沈黙は黙ったのではなく、言葉を失っていたのだ。
「う、おほんっ!あーあのだな!それで、高野!実家からはもう帰ってきたのか?」
私はたまらず話題を帰ることにした。これ以上は心臓がもたない。
『へっ!?あ、あー、うん。さっき帰って来て、この後お風呂に入ろうかな、なんて。』
高野も少し早口だ。何だかお互いに自爆し合っているのでは?とも思ったが、今は黙っておく。
「そうか。長旅だったな。疲れただろう。」
『うん。あ、それで、あの、君島くん、明日って空いてるかな?』
「うん?明日は大丈夫だぞ?」
友達付き合いの乏しい私は基本的に夏休みは暇だった。学校の図書室を開ける当番も今月は合計3日程しかなかったので、基本家で宿題と勉強の毎日だ。お盆だけはちょっと予定をいれたのだが。
「あの。じゃあ明日・・・デート、しませんか?」
「・・・!」
デート。私は高野の口から放たれるデートという言葉に動揺してしまう。今まで2人だけでどこかへ行くことはあったのだが、あくまでもそれは『お出かけ』であってデートではない。と思う。
そもそもデートとは何なのかということすら私としては定かではないので回りから言わせればそれデートだろう、と言われることもあったかもしれないが、少なくともダイレクトにそんな単語を2人の間で使用したことはなかった。
それを今しがた、高野の口からはっきりと宣言されてしまったのだ。これが動揺せずにいられるか。自慢ではないが私は恋愛経験など皆無なのだ。
「で、デートとは?」
私はなんとか気を持ち直して高野に白々しく訊ねてみた。
「あの、毎日暑いし、一緒に水族館でも行かないかなって。」
「ふ、ふむ。構わないぞ。」
何だか声が若干震えている。思えば高野のことが好きだと実感してから私はいちいちあたふたしっぱなしなように思う。落ち着け!私!ただの2人のお出かけだ!
「あ、じゃあ明日魚ヶ崎駅に10時でどうかな?」
「よし。了解した。」
「うん。君島くん、じゃあまた明日ね。」
「ああ。また明日。」
そう言って電話を切ろうとすると、電話口から再び「あ!君島くん!」と高野の声が聞こえてきたので、電話に耳をつけると、
「あの・・・大好き。」
と言って切れた。
・・・。
「隼人さん。先にお風呂に入ってしまいなさ・・・どうしたの?その顔。親の私が言うのもなんですけど、なんだか気持ち悪いわよ?」
「・・・。」
母さん。部屋に入るときはノックぐらいしてほしいのだが・・・。




