第一章 憂鬱
君は直視できるか
血塗られた光景を
君は受け入れられるか
自分と・・・仲間たちが死ぬ運命を
時折、僕は思うのだ
苦しみの呪縛から解放されたらどれだけ良いかと
幸福かと
でも戦い続けなければならないのだ
何があっても・・・
武器を手放してしまうと命の灯火が消えてしまうのだから
西暦3000年代。
ある病気が進み、世界中の人口が減りつつあった。
通称:感無伝染発熱病。南アフリカ共和国からのもらい病だった。
この病気の初期状態は、たまに、惚けるか熱が出るだけで、一応、生活に支障は出なかった。
しかし中期状態になると、喉をかきむしったり、大声で喚いたりする。
でも、それで終わったら良かった。
その病が流行り始めた数年後に、運悪く、地球を襲ったのが、宇宙人だった。
彼等は、ここぞとばかりに地球人を殺し始め、自分たちの楽園を築いていったのだ。
ある国を除き、全ての国が崩壊した。
しかし、全人類を殺したのではなかった。
そんな中でも生き残った人類はいたのだ。
たった数万人の人。地下に住処をつくって、細々と生きていた。
約七億ほどいた人類とは、ほど遠い数。
やがて、子供を授かれない者たちが出たり、感無伝染発熱病にかかってしまう者が増加。
その病も、末期状態になると絶望するような光景になる。
末期は無差別に、人に襲い掛かるのだ。
老若男女関係なしに、残酷に。
次第に万といた人類は、二桁の単位まで下がってしまう。
時間が経つにつれ、その地下も宇宙人たちに見つかってしまい、すべての人類は、ほろんだ・・・と思われていた。
その中でも生き残った者はいた。
知恵で繁栄してきた人類たちが考えた策で一部の人間は、外の世界へ逃走。
おとりだった者等は死亡した。
それから数年後。
四人の子供が生まれる。
その後、三になると同時に食料が尽きてしまう。
彼等はいつでも宇宙人に対抗できるよう、武術をそれぞれの親から学んだ。
一人は軍刀の扱い方を。
一人は格闘技を。
一人は、弓の操り方を。
一人は銃の打ち方を。
四人はありえないほど、うまくなり、ついには各親の力を抜いてしまった。
才能・・・だった。
しかしその数年後。
各親も、片方が末期になってしまい、死亡する。
つまり・・・四人の五歳児をおいて旅立ってしまったのだった。
それから数十年。
彼らの物語をしばし、聞いてもらいたい。
あまりにも苦しく、悲しい物語を。
寒緋桜が咲く季節。
辺りは思わず震えてしまいそうな、冷たい風に見舞われていた。
静かなある家の中、アラームの騒音が響き渡る。
布団の中から手が出てくる。
手を彷徨わせて、何かを探しているようにも見える。
やがて、腕が痛くなったのか布団に腕を引っ込めた。
ふたたび、彷徨わせる。
それを繰り返し、何度目かでアラームの音が止められた。
人物が、ゆっくりと体を起こす。
彼の名前は薫。
明後日で16の誕生日を迎える少年だ。
黒髪茶目を持つ少年で、祖母が外国人らしい。
性格は、無口でドライで生真面目。
それが彼の印象だ。
数分後、また敷布団に身を寄せようとしたとき、大きな音が家の中に響き渡った。
バタバタ、という足音。
二つだということがわかる。
その事がわかると薫はうっとうしそうな顔になった。
「かっおるー!お早う御座いますよー!それとも、昨日と同じく寝坊ですかぁ~?」
笑いながら部屋に入ってきたのが、梨乃。
夏に誕生日を終えている16の少女だ。
珍しいことに、彼女は茶色い髪と緑の瞳を備えている。
容姿端麗な少女だ。
背も160はあって、すらりとした長い脚はすべての者を魅了するほど美しい。
まあ、思っても口には出さないから、本人も自覚がないのであろう。
「梨乃ぉ・・・。少しぐらい待ってぇ・・・。」
苦しげな声を上げて入ってきたのが。美奈。
彼女も秋に誕生日を終えている、16歳だ。
彼女は梨乃の方ほどまでしか身長がない。
よく食べていつも元気だから、小動物と重ねてしまうことが多々ある。
金髪碧眼。
アメリカ合衆国という国で、よく見かけた色だという。
少し、うらやましく感じたこともあった。
「もう!もう少し運動しなきゃ、おなかにお肉ばっかりついちゃいますよ!」
「ま。まぁ・・・もう宇宙人が見当たらなくなったし・・・」
美奈の言う通り、最近は見かけていない。
しかし出てきてほしいわけでもないから、今の状況が続いてくれるといいが。
でも今はそんなことより・・・。
「それより、なぜまた来ているんだ?自分からそっちに行くといったはずだ。いちいち来なくて・・・」
そこまで言って梨乃に言葉を遮られてしまった。
「だーめー!早寝早起き早朝ごはんは基本中の基本ですから!」
「梨乃?早ご飯とは言わないと思うよ?」
「え?そうなのですか!?」
まったく・・・毎朝、人の家に上がり込み、漫才みたいな風景が繰り広げられる。
・・・拷問のようだ。
こうしている間も、眠気が僕を襲う。
また、布団に潜り込み目を閉じた。
しかし、誰かが僕の体をゆすったせいで、安らかな時間は終わりを迎えた。
「ほらぁ~。美奈、薫・・・また寝ちゃいましたよ?」
「だねぇ。お寝坊さなんだよ」
決して寝坊なんかではない。
二人が来る前に起きていたし、来た後もきちんと目を覚ましていたからだ。
寝たのは、二人が勝手なことを始めたからだ。
そこを自覚してほしいと、毎回毎回思うのだ。
後、注意してほしいのだが、この会話は16歳の会話である。
5、6歳ではない。
「・・・・・・・・・。」
「あっ!起きたよ~!」
「じゃあ、行こうか!私たちの秘密基地へ!」
二人は、片手を上にあげた。
僕はため息をついてしぶしぶ、片腕を上げたのだった。