【第6話】偶然と秘密
日が明けて、木曜日。
昨晩は気持ちが高ぶって、あまり寝れなかった。
重いまぶたを擦って教室の席に着くと、昨日同様、生が話しかけてきた。
「昨日の話、聞かせろよ」
やっぱりな。
周囲の視線が刺さる。
前の席に座る男子も、こちらに向きはしないものの、読んでいた本を捲ろうとする手が止まった。
僕と真鶴のことは、クラス内では珍事のように扱われているようで、みんなそれなりに気になるらしい。
教室には真鶴茉夏本人もいるし、あまり下手なことは言えないな。
自慢してやりたい気持ちを抑え、僕は答える。
「一緒に委員長と副委員長になった、くらいかな」
もちろん、各委員会の委員長と副委員長は全生徒に公開される情報だ。
このことはいずれみんなわかることだし、大丈夫だろう。
しかし、これ以上のことは、言えない。
放課後の教室で二人きりになったこと。
一緒に帰ったこと。
──あの表情。
これらを言いふらす訳にはいかない──そんなことをすれば、僕はたちまちクラスの除け者だ(現時点で除け者にされているという可能性は考慮しない)。
それにきっと、真鶴だって望んでない。
僕と真鶴が学級委員になったのは、あくまでも『たまたま』なのだ。
なんだか僕たちはもう、その偶然を超える関係を築いているような気がする。
必要以上に仲良くしていることが露呈すれば、真鶴の評価にも関わってくる。
せっかく友達になれたんだ──迷惑はかけたくないから、人目のあるところではあまり親しくない方がいいかもしれない。
いつも通り──今まで通り。
さて、今日の昼休みには全委員会の代表会議がある。
四限の授業が終わったら、弁当を持ってこそこそと、そそくさと移動しよう。