【第四話】ペンと二人
第一回目の学級委員会は、概ね順調に終了した。
半ば勢いで副委員長になってしまった僕は、みんなが帰ったあとも二年A組の教室にいた。
目の前には、委員長になった真鶴茉夏がいて、僕に背中を向けながら、熱心にペンを進めている。
二人きり、である。
学級委員長、副委員長というのは、それなりに重要な役目(全委員会の代表会議に参加したり、生徒総会で登壇したりする)らしく、二人で残っていくつか書類を書かなければならないらしい。
そう告げた教師も、書類を僕たちに投げやりに渡しては、書き終わったら届けに来るようにと、職員室へ行ってしまった。
委員長と副委員長か。
任期は一年。
ただそれだけのことなのだけれど、あの真鶴茉夏とペアになって活動するということが、ただならぬときめきを感じさせる。
ついに僕にも青春というものがきたか。
大袈裟かな。
「はぁ〜、終わった」
書類を書き終えたらしい彼女が、大きく伸びをする。
健全なエロスとはこのことか。
「ねぇねぇ」
と、彼女は身体をこちらに向けて、椅子の上で足を折り畳んだ。
椅子の上で正座って。
「ここ、この書き方でいいんだよね?」
書類の住所記入欄を指差して尋ねてきた。
都道府県、市区町村、番地、建物名がそれぞれ分かれている、記入しづらいタイプのやつだ。
我が家は一軒家なので、建物名の記入は不要だったけれど、真鶴茉夏の書類には、建物名が記入されており、最後に703号室と書いてあった──マンション住まいらしい。
さらっと彼女の住所を見せてもらってるけれど、いいのかな。
覚える余裕はない──なぜ僕は覚えようとしているんだ。
「うん、合ってると思う」
「じゃあ、職員室に持ってこ」
「あ、俺がまとめて持っていくから、先に帰って」
「何言ってるの、委員長と副委員長になったんだから、一緒に帰らないと!」
どうやらこの学校には、委員長と副委員長は一緒に下校するという伝統があるらしい。




