【第三話】委員長と副委員長
その日の放課後、早速、一斉委員会が行われた。
学級委員会は僕の所属する二年E組と同じ階の、二年A組の教室で行われる。
今日は一日中、落ち着かなくてソワソワしていた──この委員会が行われるからだ。
覚束無い足取りで教室へ入ると、既に何人かの生徒が席に着いていて、その中に真鶴茉夏もいた。
縦六列あるうちの、窓側から二番目の列、その前から三番目の席に、彼女は座っていて、その隣に座っている女子生徒と楽しげに話していた。
ちょうどこちら側を向いて話していたので、僕たちはすぐに目が合った。
「あ、芽ヶ崎くん、ここだよー」
彼女は優しく微笑みかけて、彼女の座る席の後ろの席をトントンと叩いた。
この笑顔が僕に向けられる日が来るとは。
僕が席に座る頃には、彼女はまた隣の女子との会話を再開していた。
僕はただ、楽しげに話す彼女の横顔を眺めていた──夢みたいな時間だ。
しばらくして、生徒も集まり、二人の教師が教室に入ってきて、委員会は始まった。
委員会は各クラス二人で、クラスはAからFの六クラス──つまり、二年生の学級委員は全員で十二人である。
集まった面子の中には、いかにも真面目そうなメガネ男子や、気が強そうなボーイッシュ女子、ノリでなってみたというようなチャラめの男子などがいた。
まとまりのなさそうなメンバーだ…。
そもそも、学級委員会はなにをする委員会なんだろう。
中学にもあったけれど、なにか活動をしているところを見たことがない──文化祭や体育祭などのイベントには、それぞれの委員会があるし。
そこで、僕の考えを汲み取ったように、一人の教師が学級委員会の仕事内容についての説明を始めた。
どうやら、学級委員会の仕事は、簡単に言って雑用らしい。
集会のときの点呼とか、掲示物の貼り出しとか、そんな感じだ。
それだけのために学級委員会が存在するのか…無駄というか、都合がいいというか。
続いて、委員長と副委員長を決めることになった。
各委員会は、それぞれ委員長と副委員長、これもまた男女一人ずつを決めなければならない。
今まで説明を続けてきた教師が立候補を促すけれど、誰も手を挙げようとしない。
それはそうだ。
学級委員会に入るというだけで、ややめんどくさい仕事を請け負っているのに、さらに仕事を増やそうとは、誰も思わない──真面目そうな男子も、立候補を渋っている。
その時、唐突に、前の席に座っていた真鶴茉夏がこちらに振り向いた。
「ねえねえ、芽ヶ崎くんが副委員長やるなら、私、委員長やろうと思うんだけど」
彼女は小声で告げてきた。
近い。
近いし、囁くような小声の威力が半端じゃない。
さらに僕の嗅覚を襲ういい香り──香水のように強く甘ったるい匂いではなく、温かみのある香り。
いい匂いのする女子は存在した──!
思わず顔が熱くなる。
そして何より、『芽ヶ崎くんが副委員長やるなら』という言葉。
なんだそれは、それじゃあまるで、僕が特別みたいな、副委員長になれるのは僕だけしかいないみたいな感じじゃないか。
「わかった、やるよ」
その言葉は、僕を副委員長に立候補させる魔法の呪文としては、あまりに出来すぎた代物だった。