【第一話】真鶴茉夏について。
真鶴茉夏は、いわゆるクラスのマドンナだった。
と言っても、才色兼備、秀外恵中というわけではなく、僕たちのような一般男子高校生から見て、クラスで一番可愛い女子生徒というだけである──けれど、やはりその容姿は整っていて、初めて見た時は、僕も目を奪われた。
顔のパーツ一つひとつが外国人のようにハッキリとしているわけではないけれど、確かに綺麗で、その控えめな顔立ちが清楚な印象を与える。
けれど笑った顔はまさに『女子』という感じで、すごく可愛かった。
常識的に考えて、授業で指名されなければ言葉を発することのない僕のような人間とは無縁の存在だった。
高校二年生になってから毎日のように見ている彼女の後ろ姿も、芸能人やアイドルを見ているような、憧憬や断念という視線で見つめることしかなかった。
そんな真鶴茉夏の名前が、今、僕のスマートフォンに映し出されていて、スマートフォンは軽快な音を鳴らしながら振動を続けていて、それはつまり彼女からの着信を示していて。
あまりに唐突で、現実味のない出来事だった。
事実を認識するまでに2コール、事実を受け止めるまでに1コール使った──4コール目で、僕は緑色の受話器のマークをタップする。
「も、もしもし」
「あの、芽ヶ崎くん?私、同じクラスの真鶴です。クラスのLINEグループから勝手に登録しちゃった。急にごめんね。あのね、今日、クラスで委員会を決めたんだけど、芽ヶ崎くん今日来なかったから、伝えておこうと思って。私と芽ヶ崎くん、学級委員になったから。だから、その、よろしくね?」
「え?」
──残念。
僕の名前は、茅ヶ崎だ。