Tray.
こぼしたものは返らないし
失くしたものも戻らない
消し去ろうとした思い出は
いつまでも思い出のままで
ならばと現実に手を伸ばしても
一年という日が過ぎるたび
それが積み上がり
積み重なり
何年
何十年という月日が過ぎるたび
現実というものは否応無しに伸びていって
そして感覚というものの上でどんどんと縮んでいく
僕はレシプロの双発が
空を飛んだ時代を知らない
知識としては識っていても
経験としては知らないし
ジェット機が家のすぐ上を
通過する家で育ったけれど
それが僕の上に何かを落とすのか
それとも僕を守ってくれるのか
そんなことを考えたことなんて
そのころは全くなくて
ただ空というものにあこがれていた
墓参りをしても
知った顔は帰ってこない
水を溢した人たちはなんて
失礼な言い方だけど
盆にも出合えないのなら
覆水盆にもなんとやら
そんな季節。
ありがとうございました。