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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

鈍く光る赤

作者: AlexAx

こんにちはPepper(ペッパー)と申します。

どうぞ出来ましたらタイトルの色を想像しながらお読みください。

目標までの距離は15メートル。

武器(エモノ)は長いのが1本、短いのが2本。

標的は3体。


与えられた時間は――5秒。


男は今、単身での奇襲に踏み込もうとしているまさにその瞬間にいた。




   *****




西暦XXXX年、地球。


人類は今、いまだかつてないほどの大規模な争いの最中(さなか)であった。


その争いは私人同士の闘争でも、地域内の紛争でも、国家間の戦争でもない。


それどころか、人間対人間の勝負ですらなかった。


対するは地球外生命体。つまるところ、宇宙人であった。




数年前、上空に飛来した謎の飛行物体が観測された。

突如 地球大陸に着陸したその飛行物体は、テレビや漫画で見るような宇宙船の形そのものだった。


この世の物とは思えない、なんとも形容し難い不思議な光沢を放つ船体。


亜音速で走行し、煙や光を一切発さずに、荒地にいとも容易く着陸するオーバーテクノロジー。


これらのことは、人々に畏怖の念を抱かせ、不安を掻き立てるには十分過ぎる材料であった。


そして、その宇宙船の扉が開く。


ひょっこりと顔を出したのは、これまたテレビや漫画で見るような、にょろにょろとした指を持ち、つるつるの体に細長の頭の宇宙人――ではなかった。


中から現れたのは、体長2メートル前後の筋肉質なヒト型の生物だった。


手足は2本ずつ生え揃い、目は左右に各1つ、服さえも着用しており、その姿は完全に人間であった。


しかし、ただひとつ、人間とは違い体表が不気味に鈍く光る赤色であった。


そんな宇宙人が、船の中から数十名。


更に、よく見ると各々が武装している。


この宇宙人達は地球を侵略しに来たのではないかという考えは、助長されるどころか確信に変わっていった。




予想にもならなかった予想は予想通り、その日のうちに侵攻が始まった。


数十名いた宇宙人達は世界各地に散らばり、圧倒的な力により、地球の原住民である人間達を虐げ殺した。


始めは逃げ惑った。しかし、逃げたところで生きる場を追われ、結局は殺されるのだと悟った人間達は、窮鼠猫を噛む、応戦の態勢に入った。


技術と資源の全てを注ぎ込み、新たに武器や兵器を製造し、力は拮抗するまでに至った。


激しい攻防を繰り返す戦いは数年に渡り続いた。



そして最終決戦。

永かった戦いもようやく終わりを迎えようとしていた。




   *****




男は戦闘の要員としては唯一の健康体であった。

他の戦闘員も戦えなくはなかったが、どれも手負いであり、下手に隊を組めば全滅を招く恐れがあった。

そうして男は単身での乗り込みとなったのだ。


互いの力は拮抗している。

まさか、手負いの戦闘員達の回復を待ってはくれまい。

この男を失えば、確実に負けてしまうだろう。


こちらは相当に追い詰められたが、こちらが追い詰めもした。


初め数は多かったものの、現在、目の前の3体を仕留めれば相手の無力化を図れるというところまできた。


それをするのがこの男。まさに最後の希望、運命の分かれ道である。



男は静かに無線を入れた。

本部で待つ他の戦闘員との連絡である。


「……こちら9番。これから任務を執行する。指示を頼みたい」


『こちら6番。そっちの状況を教えてくれ』


「標的となる3体が目の前にいる。今は物陰に隠れている状況だ」


『そこから敵の姿は視認できるか』


「可能だ」


『3体のうち、1体だけ少し大きめの個体がいるはずだ。見えるか?』


「見える。あいつがなんなんだ」


『おそらくそいつが敵の長だ。情報によれば体長は230センチメートルらしい。いけそうか』


「いけそうかどうかはわからない。だがやれるだけやってみる。……しかし、アレが厄介だな」


『……ああ』


アレというのは、奴らが持っている特殊な銃のことだ。

その銃は生体細胞を爆裂させる強力な銃弾を発射する。無論、当たればひとたまりもない。


『だがその銃は照準を合わせるのが困難なうえに、連射が不可能らしい。つまり速攻で片付ければ問題ない。具体的には5秒だ』


「……」


『短時間の決戦なんてここに辿り着くまでに散々やってきたじゃないか。それで、おまえは現に生きている』


それにしても、あまりに時間がなさ過ぎる……が、しかし、生存と死滅とが天秤にかけられている今、悠長なことは言っていられない。


やるしかないのだ。


男は腹を括った。


「わかったよ。必ず成功させる」


通信を切る。


男はもう一度だけ相手の後ろ姿を確認した。

3体横に並び、全員こちらに背を向けている。


こちらに気付いている様子はない。



目標までの距離は15メートル。

武器(エモノ)は長いのが1本、短いのが2本。

標的は3体。


与えられた時間は――5秒。


男は今、単身での奇襲に踏み込もうとしているまさにその瞬間にいた。



男の足が動く。


男は、ここで気付かれぬよう、全力で走りながらも物音と気配を消していた。


距離を詰め、自分の攻撃できる間合いまで近付く。


制限時間はたったの5秒。

男は、この5秒に全身全霊をかけるつもりだった。


男は、剣を抜いた。



――刹那として、一閃。


手には相手の体を自分の剣が貫く感触。

手応えは十二分。


最初に狙ったのは勿論、真ん中にいた敵の長だった。


刺したのは2本の短剣のうちの1本。


刀身は真っ直ぐと垂直に、体の中心である腹部を背中側から貫通していた。


その短剣を相手の心臓の位置まで一気に引き上げ、確実に息の根を止める。


敵は不気味に鈍く光る赤色の血を噴き出し前へ倒れた。



ここまでで2秒。



その短剣を相手の体から引き抜いて再利用する時間はない。

新しく長剣を抜いた。


剣をしっかりと握り、片足を軸に半歩踏み込み体を反時計回りに回転させる。


裏拳の体勢から、そのまま相手の首を勢いよく撥ね飛ばす。

相手から鈍く光る赤色の液体が弾ける。



ここまでで3秒と半分。



最後の短剣を手に持ち、残る1人を仕留める。

予定だった。

しかし、相手の力量を見誤ったらしい。


床に転がるはずの最後の1人は、既に距離を空け銃を構えていた。


この一瞬の出来事にも動揺を見せず、あくまで冷静に、瞬時に状況を判断し対応するあたり称賛に値する。


こちらから攻撃するには距離がいささか足りない。

刀剣では完全にリーチ圏外だ。


相手の指が銃のトリガーに掛かる。

あの指がもう数センチメートル引かれれば、間もなく男の体は肉片となり弾け飛ぶ。


もはや勝敗は既に決した。



だが。


だがしかし。


男の方が一枚上手だった。


このような激戦が予想される中、飛び道具を携えずに戦いに挑むわけがない。


男が今握っている短剣はただの短剣ではない。


相手の指が曲がるよりも早く、男は短剣の柄を強く握った。


すると短剣の刀身が高速で射出され、一直線に空を走る刃はまるで吸い込まれるように、見事に相手の頭を射抜いた。



正と死との間に生きた、あまりにも長い5秒間。


これにて、決死の戦いは幕を閉じた。


自分の目の前に広がる鈍く光る赤を一瞥。


男は相手の持っていた銃を回収し、その場を後にした。



『通信があるということはーーつまり、そういうことだな』


「ああ、そういうことだ。俺達の勝ちだ」


『ちゃんと銃は回収してきたか?』


「……しかし、危なかった……。最後の刃を射出するあの短剣がなかったらやられていた」


『おい、銃は。戦利品はちゃんと取ってきたのか』


「取ってきたよ、忘れずにな」


『ならいい。刃を射出する短剣?そんな武器、うちにはないぞ』


「いやこれは俺達の物じゃない」


『ああ……そうか、いつのだったかも忘れたなあ』


「ああ、ほんとになあ……生物ってのは追い詰められると頭がよく回るんだ。この銃も、この短剣も……おっと」


『どうした?』


「いや、なんでもない。少し怪我をしていただけだ」


『そうか、舐めておけば治るさ』


「それもそうだな……」


「さて、『次』はどこに行こうか」


男はにたりと笑い、不気味に鈍く光る赤色の肌から滴る緑色の液体を舐めた。

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