緊急召集 勇者、警官、怪人
灰色の曇り空、その下には腰ほどの高さで生い茂る草原の中に、とけ込むような緑色のフードをかぶった少女がいた。彼女は急ぐように草原を一直線に走る。
やがて、彼女は草原の中で立ち止まり、腰を下ろすと背の高い草をかき分け始めた。そこには、地面にぽっかりと落とし穴のように開いた穴があり、少女はそこから地面の中へと叫んだ。
「ボーガ! 来て!」
彼女が呼びかけると穴の中から男の声がする。
「シレーナ!? まさか奴らか!」
穴から聞こえた青年ボーガの声に少女シレーナは首を横に振った。
「違うの! ついに咲くのよ!」
「本当か!」
ボーガは穴から上半身を出す。彼もまた少女のと同じようなフードをかぶっていた。
「ええ! 早く行きましょう!」
「ああ!」
ボーガは穴から出るとライフル銃を片手に、シレーナが来た方へと草むらの中を走り出した。
彼らの前に赤、青、黄、白、色とりどりの花が広がり始める。草原から花畑へと走り続ける彼らはまだ咲いていない一つの白いつぼみの前へとやってきた。
そのつぼみの内側からまるでホタルのように淡い光が漏れていた。
ボーガは花を見つめシレーナの手を握る。
「花が咲くのをこんなに待ちこがれるなんて三日前までは考えもしなかったよ……」
「私もよ、ボーガ。……お願いホープフラワー! 咲いて! 私たちに奇跡を!」
ホープフラワーのつぼみが開く。
つぼみの中の光が解き放たれ、大きく広がっていった。そして光の中から三人の人間が飛び出す。
「「どわぁは!」」
勢いよく飛び出してきた三人の人間は団子のように一丸となって花畑の中へと頭から突っ込んだ。
三人を出した光は消え、ホープフラワーは力つきるように枯れていった。
花畑に伏す三人は手をつきながら立ち上がる。彼らは少女一人に若い男性二人の三人組で、着ている服装はまちまちだった。
「あいたたた……」
白と赤を基調とした鮮やかな細工が施された鎧に身を包み、白い剣を背中に携えた少女と。
「一体何が?」
黒いスーツをラフに着る男性と。
「突然何だよ、くそっ!」
赤いチェックシャツとジーパンを着る男性。
「これが私たちの希望……?」
三人の姿を見てシレーナはそう呟く。ボーガは腰のライフルをいつでも構えられるように持ちながら、三人に尋ねた。
「あなた達は一体……?」
「私、サユ! 勇者です!」
鎧を着た少女、サユは元気良く腕を上げて答える。
「あ、僕はカジン課クレーム対策のトリカイ ヨリヒトって言います」
そう言ってスーツの男、ヨリヒトは胸元のポケットから警察手帳を取り出した。
「なんでそんな事を聞く?」
チェックシャツの男はボーガを睨む。
「俺の名前はボーガ、こっちの少女はシレーナと言います。お願いします、あなた方にこの星を救って欲しいんです!」
その言葉を聞いたサユとヨリヒトは笑顔で答える。
「任せてください! 私、勇者ですから!」
「困ってる人を救うのは正義の味方の役目です!」
対して男は顔をしかめていた。
「言ってる意味が分からないな。何が起きたんだ?」
男の質問にボーガは答える。
「三日前、この星、有人彗星ヒトスームに宇宙海賊ヒドーノがやってきたのです。彼らはこの星にあるホープフラワーと呼ばれる特別な花が持つエネルギーを奪うため、この星を侵略し始めたのです。俺たちは必死に抵抗したのですが、元々この星では争いが起きません。戦う術がほとんど無い俺たちでは奴らにはかなわず、ほとんどの花を奴らに奪われました。……ホープフラワーには願いを叶える力、わずかな奇跡を起こす力があります。俺たちはホープフラワーに願いました。この窮地を救ってほしい、と。するとあなた方が現れたのです」
シレーナは三人の前に出ると祈るように救いを求めてきた。
「お願いします! この星をヒドーノの手から守ってください!」
「断る」
「え!?」
男の答えにシレーナとボーガがうろたえる。
ヨリヒトが男に叫ぶ。
「何でそんな事を言うんですか! この人たち、困ってるじゃないですか!」
「勝手に呼び出して、いきなりこの星の為に戦えって言われて『はい、わかりました』なんて言うほどお人好しじゃないんだよ」
そう言って男は花畑の外へと歩き始めた。
「ちょっと! どこに行くんですか!」
「そんなもん俺の勝手だろ」
ヨリヒト達から離れていき、男の姿はだんだんと見えなくなっていった。
「なんなんだあの人は!」
「まあ落ち着いてよ」
サユは怒るヨリヒトにそう答えた。
「サユさん、あなたはあの人の行動を見てなんとも思わないんですか!」
「大丈夫だよ、きっと」
「……どうしてそう思うんですか?」
「だって、あの人もホープフラワーに選ばれた一人だから」
「……それではサユさん、ヨリヒトさん。早速で申し訳ないのですが、ヒドーノの宇宙船へ案内します。俺についてきてくれますか?」
ボーガが二人に尋ねた。
「はい! じゃあみんなで鬨の声をやりましょう!」
「鬨の声ですか……いいですねそれ。やりましょう」
ヨリヒトはサユの提案に答える。
「分かりました。でもその前に……」
ボーガはシレーナの方へ顔を向ける。
「シレーナ、君は隠れ家にいるんだ。分かるだろ?」
「……うん、分かったわ。それじゃあ気をつけてね」
シレーナは頷くと隠れ家のある草むらの方へ向かって歩き始めた。
「じゃあ、行きますよ……」
「「「えいえい! おー!」」」
三人は曇り空へと拳をつきだした。
ボーガ達三人と別れたシレーナは草原にある穴へと向かって歩く。そんな彼女を空に舞う鳥が見下ろしていた。
シレーナは前へと進み、鳥には気づいていない。
鳥の影は一気に急降下するとシレーナの背後から近づいていく。
シレーナが風の音に気がついた時、獰猛な鉤爪が彼女へと襲いかかっていた。
チェックシャツを着た男はヒトスームにある街の廃墟へと来ていた。
ひび割れた道路、その傍らにある家は爆発があったかのように壁が大きく破壊されている。ビルのように高かったであろう塔のような建物は上の方がぽっきりと無くなっていた。
「さっきの話は本当だったようだな……」
男は廃墟の中を見て回りながらぽつりと呟く。
「誰か! 誰か助けて!」
その時、彼の耳に子供の悲鳴が届いた。彼はすぐさま音のした方へと走り出す。
こわれかけの道路の上を麻のマントをはおる子供が息を切らしながら走る。その子供の上へ大きなものが覆いかぶさってきた。
子供は地面に倒れ込む。彼の上に乗っかってきたのは針のような鋭い口を持つ丸い虫の頭をしたノミ人間だった。
「ノミノミ、うまそうな晩飯ゲットだぜ」
「離せ! 離せよ!」
子供は虫人間の下で暴れ回る。すると虫人間は子供の頭を掴んで道路にこすりつけた。
「俺様の好物のアドレナリンを晩飯前に出すんじゃねえよ」
「ぐっ! あっ!」
道路に顔を打ち付けられた子供が抵抗をやめると、虫人間は手を離した。
「ノーミノミノミノミ」
「おい……」
「ノ? ミイィ!?」
虫人間の顔に拳が入る。虫人間の体は吹っ飛び、建物の壁にのめり込んだ。
「お前、立てるか?」
チェックシャツを着た男が子供に手を差し伸べる。
「あ、ありがとう……」
「礼はいいから、早く逃げろ」
衝撃音と共に壁が崩れ、虫人間が姿を現す。
「狩りの邪魔すんじゃねえ! 誰だてめえ!」
子供は虫人間のいる方と反対側に逃げると建物の裏に隠れて様子を伺い始めた。
「俺か、俺は……」
男は右手を腰の前に添える。すると腰に銀色のベルトが突如として現れ、男は叫んだ。
「鳥羽転成!」
その言葉と共に男の体が黒色の毛で覆われていく。顔からくちばしが、背中から翼が生え、男の指から鋭い爪が伸びていった。
「俺は空を駆ける電光、トリバーだ!」
男は黒い鳥人間、トリバーへと姿を変えた。
「おまえが宇宙海賊ヒドーノか?」
「ノミノミ、聞いて驚け! 俺はヒドーノの幹部、ノミスタ様だ! 幹部だぞ! 偉いんだぞ! ノミノミノミ」
「なら倒すだけだな」
「ふざけたこといってんじゃねえぞ!」
ノミスタは空高く跳躍する。そして空からトリバーを見据えると鋭い口を向けて急降下しはじめた。
トリバーは翼を広げ、膝を曲げる。
「リバース……」
そして翼を一気に下ろすと、トリバーの体が空のノミスタへ向かって急上昇する。
「ライトニングパーンチ!」
トリバーの拳はノミスタの口をすり抜け、頭に入る。
「ぐふぅえは!」
トリバーは身を翻しながら翼を広げ、落ちていくノミスタを見下ろす。ノミスタは道路へと背中から落ちた。
「く、くそ!」
道路にめり込んだノミスタは土埃をかぶりながら立ち上がると、空にいるトリバーを辛そうに見上げる。
「これで終わりだ!」
トリバーは空の上をジグザグと高速に移動し始める。
「ま、まずい!?」
「ライトニングキーック!」
トリバーは右足をノミスタに向けて急降下した。
「うおおお! 集まれ! 我が兵団」
ノミスタはそう言うと甲高い口笛をならした。すると様々な建物の中からタイヤを回しながら上半身が人の形をしたロボットが多数現れ始める。その手には機関銃を所持していた。
「何?」
「ヒドーノ兵、撃てー!」
ロボット、ヒドーノ兵はノミスタの言葉と共に腰に抱えた機関銃を空にいるトリバーに向かって撃ち始めた。
「くっ!」
間一髪でトリバーは攻撃をかわし、地面に降りる。
「いけいけー! ヒドーノ兵! ノミノミノミ」
ノミスタは兵隊に指揮をし、ヒドーノ兵たちは銃を撃ちながらトリバーへと近づいていく。
「うおおお!」
トリバーは銃弾の雨をかいくぐり、ヒドーノ兵たちの装甲を拳で打ち貫いた。
「チッ! 姑息な奴め」
十数におよぶヒドーノ兵を倒したトリバーは舌打ちする。近くにノミスタの姿は無かった。
「にいちゃん、ありがとう……」
先ほどの子供がトリバーに感謝を述べて、頭を下げる。
「……おまえ、こんな所で一人か?」
「違うよ」
子供がそう言うと建物の床や道路の一部が外れ、中から似たようなマントを着た老若男女の人間達が姿を現した。
「僕だけ見つかっちゃったから」
「そうか……ところで奴の行き先を知らないか?」
「たぶん、奴らの宇宙船だと思うよ」
「……悪いが、案内を頼めるか?」
「う、うん!」
子供は希望にあふれた目で答えた。
「ま、待ってくれ!」
一人の顔がやつれた男が呼び止める。
「俺が案内する。坊やはこの街にいるんだ」
「……そうだな、そうした方がいい」
「一緒に来てくれ」
「分かった」
トリバーは頷いて、道案内する男の後に続いた。
「なあ?」
街を出た矢先、トリバーは男に声をかけた。
「どうした?」
「おまえらは俺の姿を見ても怖がらないんだな」
「何言ってるんだ? 子供を助けた人を怖がるわけないだろ」
男は不思議そうな顔でトリバーを見る。
「そうか……」
男はため息をつきながら顔をうつむかせる。
「むしろ、俺たちの方が酷い。子供を見捨てようとしたんだからな……」
「仕方がないだろう、助けに行っても弱い奴は死ぬだけだ。それに、今は道案内してくれているだろう?」
「ああ、あんたの姿を見て思い出したよ。本当はこうしなくちゃいけないんだって、きっとほかの人たちも同じ気持ちのはずだ」
「……そうだといいな」
トリバーは灰色に曇る空を見上げた。
「サユさん、ヨリヒトさん。あれがヒドーノの宇宙船です」
岩影に隠れながら、ボーガは荒れ果てた土地の中心にある宇宙船を指さす。
何百メートルにも及ぶ巨大な黒い船型の宇宙船、その周囲を何十ものヒドーノ兵が見回っていた。
「よし、それじゃあ後は私たちがやりますのでボーガさんは隠れていてください」
「はい、お願いしま……」
「あ、あれを見てください!」
ヨリヒトは空を指さす。そこには白い鳥人間とシレーナの姿があった。
「そんなシレーナ!」
ボーガは叫びながら岩影からとびだそうとする。
「待ってください!」
サユはボーガの手を掴んで呼び止める。
「離してください!」
「シレーナさんは私たちが助けます。だからここにいてください」
「シレーナは、シレーナは俺が守らなくちゃいけないんです!」
「ボーガさんはここにいてください。僕たちがシレーナさんを助けた後、彼女が逃げれるように」
「そうですよ、私たちに任せてください」
「……分かり、ました。シレーナをお願いします」
苦悶の表情を浮かべながらもボーガは了承する。そしてサユとヨリヒトの二人は岩影から出た。
「それじゃあ行くよ、ヨリヒトさん」
サユは背中から白い剣を引き抜く。
「分かりました。ケイト!」
ヨリヒトは右手で左腕を叩く。すると青白い光と共にキーボードが浮かび上がった。
「Code Equipment MRC!」
ヨリヒトはキーボードを打ち込み、Enterボタンを押す。
するとヨリヒトの左腕から青白い金属板が飛び出し、それがヨリヒトの体を覆っていく。板が彼の全身を覆った時、板は形を変え、青いパワードスーツへと変化した。
「マルク! 出動!」
「変身いいなぁ! かっこいい!」
サユはヨリヒトことマルクに目を輝かせる。
マルクのヘルメットの中で機械的な女性の声が響く。
<スーツに異常ありません、マルク>
「頼むよケイト」
「ケイト? 誰?」
サユは首を傾げる。
「このスーツに搭載された戦闘補助AIです」
「そうなんだケイト、サユだよ。よろしく」
「ははは……ケイトの声はサユさんには届きませんよ」
「そっか、残念」
マルクは腰のホルスターからハンドガンを取り出す。
「さあサユさん、行きましょう!」
「おー!」
ヒドーノ宇宙船からアラームが鳴り響く。
「どうした! ヒスタス!」
宇宙船の艦橋で群青色をした鮫のような人間がピンクのカバのような人間に声をかける。
「ドン! 襲撃です。襲撃者は二名、ヒドーノ兵が次々にやられています」
「ヒドーノ兵では相手にならんか。どうやらおまえの出番だな、ヒスタス」
「お任せください。ドン!」
艦橋の入り口が開き、白い鳥の人間が気絶しているシレーナを連れて現れた。
「ドン、ただいま戻りました。こちらが目当ての人間でございます」
そう言ってシレーナをドンに差し出した。
「もう帰ってきたか、さすがはオールよ」
「……して、この警報は?」
オールは首を上下逆さまになるまで傾げる。
「侵入者だ。ちょうどいいおまえもヒスタスと共に侵入者を排除しろ。その娘は私が預かる」
「はっ!」
オールは首を戻すと勢いよく返事をした。
「ウンドストライク!」
サユは叫びながら剣を突き出す。すると剣から水があふれ、サユの体を包みながら猛スピードで移動する。
そのままサユは機関銃を乱射するヒドーノ兵へと突進する。サユを包む水のバリアが銃弾を跳ね返し、ヒドーノ兵をなぎ倒す。
「ケイト、アタックガン、モードピアース」
<了解>
マルクは銃弾をかわしながら銃をヒドーノ兵に向けて放つ。マルクが放つエネルギー弾はヒドーノ兵の装甲をいともたやすく貫き、蜂の巣にしていく。
「もうすぐ宇宙船に乗り込むよ!」
「行きましょう!」
「待てぇい!」
宇宙船の甲板から大きな物体がおりてくる。地響きを立てながら人間の数倍の体格を持つヒスタスが光沢を持つ銀色の鎧を着て地面に降り立った。
「ここから先へは行かせぬぞ」
そう言うとヒスタスの大きさに劣らない巨大なハンマーを取り出す。
「そういう事だ」
ヒスタスの隣へ音も無く降り立つオール、腕を組みながらサユとマルクを見据えていた。
「サユさん、気をつけてください」
「ヨリヒトさんもね」
オールが右手を上げ始める。すると周りにいたヒドーノ兵たちがひいていった。
「さあ始めようではないか」
「待った! 待ってください!」
マルクが叫んだ。
「ん?」
「あなた方、おとなしく降参して悪事を働くのはもうやめましょう!」
「下らねえ! 俺たちは悪いこと大好きなんだよ! さあ行くぜ!」
ヒスタスはハンマーを高々と上げ、マルク達へと駆ける。
「ウンドストライク!」
サユは剣をヒスタスへと突き出して突進していく。サユの剣がヒスタスの鎧へと届く。だが。
「その程度の攻撃じゃ傷一つつけられないぞ!」
ヒスタスの言うとおりサユの一撃は彼の鎧に傷をつけることもできない。そしてヒスタスは大きなハンマーをサユへ振り下ろした。
「タイタネアリ!」
サユがそう叫ぶとサユの持つ白い剣が数倍の大きさに膨らみ大剣となった。サユはその大剣でハンマーを受け止める。
すさまじい衝撃音と共に風が吹き荒れ、サユの足下の地面がひび割れた。
「サユさん!」
マルクは銃をヒスタスへ向ける。だが、オールはそれを許さない。彼はマルクに一瞬で距離を詰めると左手でマルクの銃口を外へと向ける。そしてマルクの顎へオールの右拳がせまる。
マルクはそれを左手で受け止め、右膝をオールの腹に向けて繰り出す。オールは腹を曲げながらかわすと、頭を突き出し自身のくちばしをマルクの左目を強くつついた。
「あぶな!」
くちばしがヘルメットとぶつかる音と共にマルクは叫びながら、左半身をオールから離す。右手にある銃はオールに掴まれたままだった。
「頑丈なヘルメットで助かったな」
オールはニヤリと笑う。
「この!」
マルクは左足を振り上げオールの側頭部へめがけて蹴りを放つ。オールは悠々とそれを右手で受け止めた。
「お、重いぃぃ……」
ヒスタスのハンマーを受け止めるサユ。のしかかる重さに彼女は片膝をつく。
「このまま潰してやろう」
「それはちょっとお断りしたいなぁ……っと!」
サユはハンマーを少し押し返す。その隙に彼女はヒスタスの地面に剣を突き刺した。
「タイタネアリ!」
「何の真似だ!」
ヒスタスのハンマーがサユの頭上にせまる。
その時、ヒスタスの足下の地面がぐにゃりと曲がった。
「ぬう!」
ヒスタスは体勢を崩し、ハンマーはサユの横を通り過ぎ去った。
地面に倒れ込むヒスタス。そして彼の体を地面が底なし沼のように沈めていく。
「この程度!」
ヒスタスは拳を振り上げ、地面へと打ち付けた。沼のように柔らかな地面を猛スピードの拳がぶつかった時、地面が盛り上がり、吹き出した。
「うひゃあ!」
吹き出した地面と共にサユの体が飛ぶ。
タイタネアリの力を失った地面は元の状態へと戻る。ヒスタスは固くなった地面に埋まった下半身を出そうと腕に力を込める。
サユは地面に着地すると、マルクの銃と脚を掴むオールの元へと向かう。
「シルフスライサー!」
「む?」
サユの放った風の刃がオールへと向かう。オールはマルクの銃を放し、風の刃をかわす。
サユは距離を離すオールを追いかける。
「ヨリヒトさん、交代!」
「ええ!?」
驚きながらもマルクはヒスタスの方へ視線を向ける。ヒスタスの片足が地面から出ている所だった。
「この!」
マルクはヒスタスに向けて銃弾を放つ。銃弾はヒスタスの皮膚を貫くことなく弾かれてしまう。
「俺にそんなものは効かん!」
ヒスタスは地面から抜け出すとハンマーを握りしめる。そしてマルクに向けてかけ始めた。
「ケイト、キャプチャーガン、モードトリモチ」
<了解>
マルクの持つ銃が発光する。光が収まると同時にヒスタスに向けて銃弾を放った。
ヒスタスの放った弾は緑色のベタベタとした粘液状の弾でヒスタスの動きを封じていく。
足下を地面と固定し、ハンマーを持つ両手を封じていく。
「ぬうぅ、こしゃく……」
さらにはヒスタスの広い口や小さな鼻も緑色の粘液で覆われていった。
マルクは跳躍し、悶えるヒスタスから距離を離すと銃を腰に添えて叫んだ。
「ケイト、チャージガン! モードアタック!」
<了解>
マルクのハンドガンがバズーカへ形を変え、彼は両手でバズーカを構える。
<チャージ開始……5……10……>
バズーカの砲口から緑色の光があふれ始めた。
オールに向かって走るサユ、彼女の剣から火が吹き出していた。
「イフリートドラグ!」
サユが剣を振り下ろすと剣から炎の龍が飛び出した。
「いっけえ!」
サユの掛け声と共に炎の龍がオールへと迫る。オールは翼を広げ、上空へと飛び立つ。
炎の龍はサユの剣から胴体を伸ばし、さらにオールを追いかける。
「なるほど。だが、そのスピードでは私に追いつけないぞ」
オールと炎の龍との距離がどんどんと離れていく。そして急降下すると、地面すれすれを滑空しながらサユへ急接近する。
オールは前転し大きな鉤爪になっている足をサユへと向ける。サユは炎の龍を消し剣を横に構えた。
「はぁっ!」
サユは剣を振りかぶる。
「遅い!」
オールは体を回転させサユの剣をかわす。そしてオールの鉤爪がサユの胴体を鷲掴みにした。
オールはドリルのように回転しながらサユを空高く持ち上げる。
「あ、あ~!」
鷲掴みにされ体を回されるサユは抵抗できずに悲鳴を上げていた。
「これで終わりだ、オール流飯綱落とし!」
上空へと飛んでいたオールは弧を描くように進行方向を変え、地面に垂直になると勢いよく落ち始めた。
サユの体がオールと共に回転しながら地面へと迫る。
その時、空の彼方からオールに迫る黒い鳥、トリバーの姿があった。
「ライトニングダブルスピンキック!」
トリバーは両足を突き出し体を回転させるとそのままオールとぶつかった。
「何!?」
トリバーとオールは互いに弾き飛ばされ、地面へ滑るように着地する。
トリバーの両腕の中には目を回すサユの姿があった。トリバーは両腕を開放し、サユの体を自由にする。
「目が回る~」
サユは足をもたつかせながら地面に倒れ込んだ。
「誰だ? 貴様は?」
オールはトリバーに聞く。
「俺は……俺たちはこの星に住む人々が願った、奇跡だ」
<85……90……>
緑の粘液に包まれたヒスタスへ光るバズーカの砲口を向けるマルク。
ヒスタスは顔についた粘液を剥がし、手の粘液を剥がす。
<95……100、チャージ完了>
「いっけえええ!」
マルクは叫びバズーカの引き金を引こうとしたその時、突然銃弾が横切った。
「何だ!?」
マルクが銃弾が飛んできた方を見る。宇宙船の中から出てくる無数のヒドーノ兵とノミスタの姿があった。
「ヒスタス! おまえにカリを作ってやったぜ! ノミノミ。やれヒドーノ兵!」
ヒスタスの言葉を皮切りにヒドーノ兵達が機関銃を乱射する。
「くそっ!」
マルクはノミスタ達へとバズーカを向ける。
「ぬぅお!? こっちむけるんじゃねえ!」
跳躍するノミスタ、マルクは引き金を引いた。
バズーカの中で溜められた強力なエネルギーは緑色の高圧縮された弾となって放たれる。そしてそのエネルギー弾が先頭にいたヒドーノ兵の一人に当たると一気に弾けた。
激しい閃光と爆発音。その衝撃は強風となってトリバー達の間を駆け抜ける。バズーカの弾が炸裂した宇宙船の船底は大きく穴を開けられ、すべてのヒドーノ兵は粉々に砕け散っていた。
「俺たちの手足であるヒドーノ兵を大量に壊すとはな、ノミスタ」
ヒスタスは足にくっついていた粘液を剥がしながら喋る。
宇宙船の外壁にしがみつくノミスタは悪態をつく。
「うるせえ! 助けてやっただろ! カバやろう!」
「てめえみたいな奴の手を借りなくても俺一人で充分だ!」
「そうかい! だったら俺はドンの所に行かせてもらうぜ!」
そう言い残してノミスタは宇宙船の中へと逃げていった。
「フン! 所詮、奴は奪う事にしか役に立たん」
ヒスタスは体をマルクに向け、ハンマーを構える。
「ケイト、キャプチャーガン、モードトリモチ」
マルクは抱えていたバズーカがハンドガンに変わるとヒスタスへと向けた。
「奇跡だと? 醜い黒い鳥が笑わせる」
白い翼を広げオールはトリバーに言い放つ。トリバーはそれを無視してサユに話しかけた。
「おい、サユ。とっとと立て。勇者なんだろ?」
「そう! 勇者だから大丈夫!」
サユはすくっと立ち上がり、トリバーへサムズアップする。
「さっきの人だよね? 助けてくれてありがとう」
「こいつは俺がやる。おまえはヨリヒトの方を助けてやるんだな」
「分かったよ! えっと……」
サユは首を傾げる。
「……トリバーだ」
「ありがとう。トリバーさん!」
そう行ってサユはマルクの方へと駆けていった。
「おまえ、さっき醜い黒い鳥と言ったな?」
トリバーはオールの方へふりむき聞いた。
「そうだ。大きな鉤爪を持たぬ上、純白さが全くないではないか」
「下らねえ」
「何?」
「外見なんてどうでもいい。大事なのはおまえは俺に勝てないって事だけだ」
「……ならば、試させてもらおうか!」
オールはトリバーに向かって跳ぶ。トリバーもまたオールに向かって跳んだ。
彼らの距離が近づき、二人は右手の拳を突き出した。衝撃の音ともに彼らの拳がぶつかり合う。
「くっ!」
驚きの表情を見せながらオールは翼を羽ばたかせ空へ飛ぶ。トリバーは彼の後を追って飛んだ。
空高く舞い上がりオールは空中で身を翻すと追いかけてくるトリバーに向けて左の拳を放った。
トリバーは右の拳を放ち、彼らの拳がぶつかる、瞬間。オールは拳を開き、トリバーの拳を握る。
続いてトリバーは左の拳をオールに向けて放つがオールは右手で受け止める。
「ホー!」
オールはくちばしをトリバーの左目に向けて突き出す。
「オラァ!」
トリバーはひたいを突き出した。オールのくちばしはトリバーの左目の横をかすり、オールの頭へとトリバーのひたいが入っていった。
オールはうめきながらトリバーの手を離し体を後ろへと傾ける。そこへトリバーはオールの両手首を掴むと引き寄せ、右膝をオールの腹へとぶつけた。
「ぐぅ! ああ!」
苦痛の表情を見せながらオールは右足を上げ、組んだ腕の外側からトリバーの側頭部へと蹴りを放った。
トリバーへ蹴りが入る直前、トリバーは掴んだ手を離し、空中に浮かびながら互いに距離を離す。
トリバーは左目の横にできたかすり傷からでる血を右手で拭う。
オールは腹を抑えながらトリバーに言う。
「やるな。だが勝つのは私だ」
「ほざけ、さっきは俺の方が強かった」
「だからどうしたぁ!」
オールはトリバーに向かって飛ぶ。左側の翼で体を隠しながら近づいていった。
トリバーはその場でオールが来るのを待ちかまえる。そして、拳の届く距離までオールが近づいた時、オールは翼を開きトリバーは右の拳を突き出した。トリバーの拳は翼と交わらずオールの顔へと近づいていった。
翼が開かれ体が露わになるオールの右手の指、そこには白い羽根が数本握られていた。その羽根をトリバーに向けて投げつける。
オールの羽根がトリバーの右腕に、右肩に、左肩に突き刺さる。すると突然トリバーの上半身が痺れはじめ、拳がトリバーに届く前に止まってしまった。
「これは!?」
「私の勝ちだ!」
オールはトリバーの顔を思い切り殴りつけた。トリバーの体が地面に向かって落ち始めた。
「おとなしく降参してください」
マルクはヒスタスに銃を向けながら告げる。
「さっきので勝ったつもりか? あめえんだよ!」
ヒスタスはハンマーを持ち上げ、走り出す。マルクはまたヒスタスの足へと銃を放った。粘り着く粘液でヒスタスの足が地面とくっつく。
「ブレイクスルー!」
ヒスタスは叫ぶと手に持っていたハンマーをマルクへと投げ下ろした。
「な!」
マルクは後ろへと飛び、かわす。マルクの数倍あるハンマーは地面に激突すると大地をえぐり、砕けた石がマルクを襲った。石がマルクのアーマーにぶつかり乾いた音を響かせる。
<アーマーへの影響はありません>
「よし!」
マルクはハンマーを投げたヒスタスへと銃を向ける。だが。
「いない!?」
マルクは左右を見渡すがヒスタスの姿は見あたらない。その時、上空からヒスタスの声が響いた。
「……ハンマー!」
ヒスタスはその巨体で上からマルクへと襲いかかる。握りあわせた両手を自分の頭上からマルクの頭へと振り下ろした。
「ぐあっ!」
巨大な手から繰り出されるすさまじい力で頭を殴られたマルクは頭から地面へと激突させる。さらにその力は地面に吸収しきれずマルクの体を浮かせた。
「うらぁ!」
そして、ヒスタスはマルクの足を掴むと大きく腕を振り地面へと叩きつける。叩きつけ、叩きつけ、最後に跳躍して叩きつけた。
「う、ぐ……」
地面に伏しながらマルクはうめいた。
<アーマーの機能低下、自動修復に入ります>
「まだ生きてるか、しぶとい奴だ」
そう言うとヒスタスはマルクの足を離し、ハンマーへと近づき手に取った。
「ケイト……!」
<自動修復まで後20秒>
「くそ!」
マルクはその場から動けず、ただただ拳を握りしめた。
ヒスタスはマルクのそばまで来るとハンマーを振り上げた。
「終わりだ!」
「待っっ! たー!」
サユの声が響く。
サユはヒスタスへと近づき剣を振るう。
「タイタネアリ!」
サユの大剣が鎧を貫通しヒスタスの体を浮かせる。
「くっ!」
ヒスタスはうめいてサユたちから遠く離れる。
「大丈夫?」
サユは地面に伏すマルクを不安そうに見る。
「ええ、大丈夫です」
<修復完了しました>
マルクは立ち上がる。
「もう一人、オールのほうは?」
「あの人が助けに来てくれたよ。トリバーって言うんだって……」
「トリバー!?」
マルクは驚く。
「知ってるの?」
サユは尋ねた。
「……いえ、きっと別人です。それよりも奴をどうにかしましょう」
そう言ってヒスタスの方へ体を向けた。
「うん、二人なら勝てるはずだよ」
「ヒスタスが危ういか……」
宇宙船の艦橋で外の光景が映し出されるモニターを見ながら、ドンは呟いた。
「ドン! 戻りました!」
そう言って艦橋にノミスタが入ってきた。
「ノミスタ! 貴様! 敵を目の前に逃げおって!」
「い、いや! ヒスタスが一人で十分だと言ったから、俺は!」
「まあいい、貴様はそこの娘を見張れ! 私がじきじきに始末をつけてくれる!」
そう言ってドンは艦橋の席で眠るシレーナを指さした。
「ドン、こいつはまさか?」
「そう。そいつはホープフラワーを作り出すことのできる人間だ」
「貴重なエネルギー源ってわけですな。分かりました。お任せください。ノミノミノミ」
艦橋の中でアラームが鳴り響いた。
「今度は何だ!」
「確認します! ドン」
ノミスタは席へと跳び座り、スイッチを動かす。
「ノミノミノミ……大変です! 船内に二名、侵入者です」
モニターに映し出されたのはサユとマルクだった。
「何!? ヒスタスはどうした!?」
「過去の映像を映し出します」
ハンマーを振るヒスタス、その近くをマルクがハンマーをかわしながら銃を撃っていた。
「イフリート! タイタン!」
ヒスタス達から少し離れた所でサユは叫びながら剣を空高く掲げる。すると空中にどろどろとうごめく溶岩が現れ、大きくなりながら形を変えていく。
やがて一匹の巨大な飛竜となった。
「ヨリヒトさん、離れて!」
その言葉と同時にマルクは跳躍し、ヒスタスから距離を離した。
「メテオスワイバーン!」
サユが剣を振り下ろすと溶岩の飛竜がヒスタスに向かって飛んでいく。
「うおおお!!」
ヒスタスは飛竜へとハンマーを振り下ろす。溶岩の飛竜はものともせずハンマーごとヒスタスを飲み込んでいった。
「ぬああああ!」
ヒスタスの全身が焼けていき、彼は飛竜の中で叫び暴れる。
だんだんと溶岩の飛竜は土へと変わり、石像へと変化していった。
「映像は以上です」
「やつらめ! 三枚下ろしじゃ済まさねえ!」
怒りに満ちた目でドンは艦橋から出て行った。
「こりゃ、この船はだめかもな。……ノミノミノミ」
艦橋の中、ノミスタはシレーナを見ながら怪しく笑った。
地上に向かって落ちていたトリバーは船の甲板へと打ち付けられる。彼は立ち上がると震える左手で体に刺さった羽根を引き抜く。そしてけいれんする右腕を見て舌打ちをうった。
「その痺れ、数時間はとれぬ。貴様の負けだ。醜き黒よ」
そういいながらオールは甲板に降り立つ。
「なめるな、おまえと同じように俺にも切り札くらいある」
「何?」
トリバーは腰のベルトを掴み、叫んだ。
「電嵐鳥覚醒!」
トリバーのベルトから体へと電気が走り彼の体が変異する。背中の翼が大きくなり、足が鉤爪へと変化していく。
「はあ!!」
オールは変異するトリバーへと跳び蹴りする。頭へと近づくオールの右鉤爪をトリバーは右手で掴んだ。
「な!? 痺れているはず!」
「ストームトリバーをなめるな」
ベルトから流れる電気が消え、トリバーの体は変異を終える。時折、体からスパークを発しながら彼は言った。
「1分……いや30秒で終わらせてやる。おらぁ!」
オールの鉤爪を掴むトリバーはオールを上空へと投げ飛ばす。
「ライトニングストームラッシュ!」
トリバーは空中のオールへとイカズチのような早さで近づき殴り去る。下から後ろから横から上から前から、空中を縦横無尽に移動しオールへ攻撃していく。
「ぬああああ!」
トリバーが動く度に風が吹き幾重にも重なって嵐となっていく。その中心でオールはイカズチのような早さで繰り出される攻撃に為す術もなく食らい続けた。
一瞬、空中でトリバーの動きが止まる。風が無くなり嵐が止む。そして。
「ストームフィニッシュ!」
トリバーは両足の鉤爪をオールへと向け一気に突撃した。嵐を生み出すほど体を回転させその発生源の中心である鉤爪がオールの体を打った。
オールの体が回転しながら空の彼方へと飛んでいく。
「ジャスト30秒だ」
トリバーの体が変異前へと戻っていった。
「シレーナさーん!」
巨大な宇宙船の中へと侵入したサユとマルクは広い船内を駆け回っていた。
「サユさん、艦橋を目指しましょう! なにか分かるはずです!」
「分かった。一番上だね!」
彼らがそう話したとき、突然地面の床が崩れた。サユ達は下へと落ち、広い空間のある場所へと落ちた。
「ここは?」
無事に着地したサユはあたりを見渡す。
「コンテナ、輸送機、搬入口。どうやら船倉のようですが……」
「ここはてめえらが死ぬ場所だ」
船倉の奥からドンがその鮫のような姿を現す。両手には湾曲した刀身を持つ青竜刀を二本持っていた。
「おまえは……?」
マルクは銃を構え、サユは剣を構えた。
「俺はドン、宇宙海賊ヒドーノのリーダーだ。ヒドーノ兵にヒスタス、てめえらの命で償ってもらおうか!」
ドンはサユ達へと駆ける。
「サユさん、1分だけ時間を稼いでください! ケイト、チャージガン! モードアタック!」
「まかせて!」
マルクはバズーカを構え、サユはドンへと走り剣を何度も振るう。
「タイタネアリ!」
「シャー!」
ドンは両手の剣を使い、サユの攻撃をすべて受け止めていく。
巨大な黒い宇宙船の上空で浮かぶトリバーは艦橋を見下ろしていた。
「直接ブリッジに乗り込むか」
一気に急降下すると窓をぶち破って艦橋の中へと入った。
「……誰もいない?」
「ノミノミ、今のうちに……」
広い船倉の端っこの方で百メートル以上離れた所にいるドンの戦いを見ながらノミスタは呟く。彼は肩にシレーナを担ぎ、武装した円盤状の小型船へこそこそと移動していた。
「よし、サユさん! 離れてください!」
ドンと剣戟を繰り広げていたサユはドンから距離を離す。その瞬間、ドンはマルクに向けてサメのような口を大きく開き。
「ドーンブレッシャー!」
マルクがバズーカの引き金を引いたと同時に口から青色の光波を吐き出した。
バズーカから放たれた緑色の球と青色の光波がぶつかり合い、大爆発を起こす。巻きおこる暴風が船倉のコンテナや輸送機を揺らした。
「う、ん……?」
爆発音と風によってシレーナが目を覚ます。そして自分を担ぐノミスタの姿を確認すると悲鳴を上げた。
「誰! 離して!」
「て、てめ! 静かにしろ!」
「ヨリヒトさん! あれを見て!」
シレーナの叫び声に気づいたサユが叫ぶ。
「あれは……シレーナさん!」
「ノミスタ、貴様! いったい何をやっている!」
「悪いなドン! この船は終わりだ! 俺はこの娘と逃げさせてもらうぜ!」
「貴様ー!」
「おまえの相手は私だー!」
ノミスタに向かって突進しようとしたドンの前にサユが立ちふさがる。
「ヨリヒトさんはシレーナさんをお願い!」
「二人で勝てないのに一人じゃ無理ですよ!」
「私、勇者だから大丈夫!」
サユはマルクに向かってサムズアップする。ノミスタはサユ達から遠ざかっていき、シレーナの悲鳴がヨリヒトの耳に届いた。
「……すみません、僕が戻るまで何とかしのいでください!」
マルクはノミスタの方へと駆けていった。
ノミスタはシレーナと共に運転席がむき出しの小型船へと飛び込む。そして運転席の複数個あるスイッチを押すと運転席の周囲が透明なガラス状の物で包まれた。
「待て!」
マルクが小型船へと近づく。
「そう言われて待つ奴がいるか」
ノミスタは小型船の中でシレーナを離すと運転席のレバーを握る。シレーナは透明なガラスをたたくがびくともせず、小型船の後ろにある排出口から熱が吹き出し、浮き始めた。
「ケイト! 止める方法は!」
<構造が不明なため分かりません>
「くそ、ワイヤーガンだ!」
<了解>
マルクは銃を構え、宇宙船のガラスへと撃つ。銃口から緑色に発光する糸が飛び出し先端がガラスとくっついた。
小型船は勢いよく宇宙船の外へと飛び出した。
「ノミノミ、あばよ、ドン! ……ん、何だこれ?」
ノミスタはガラスにくっついた緑色のひもを見て首を傾げる。そこへマルクの銃は糸を勢いよく吸い込み、マルクが小型船のガラスへと勢いよく飛びついてきた。
「こんな所まで追っかけて来やがったのか!?」
マルクは操縦席のレバーへ銃を向け発砲した。弾はガラスを破り、レバーを破壊する。
「ノミィィィィ!!! コントロールレバーが!」
ノミスタは頭を抱えて悲鳴を上げた瞬間、シレーナが素早く動き操縦席のスイッチを乱雑に押した。
「や、やめろおお!!」
「シレーナさん!」
操縦席を覆っていたガラスが無くなり、マルクがシレーナの体を抱き寄せる。
「すいません! 飛び降ります!」
そう言ってマルクはシレーナと共に小型船を飛び降りた。
「ちくしょー!」
ノミスタもマルクの後を追うように飛び降りる。コントロールの失った小型船は勢いよく地面に激突し、爆発した。
「キャプチャーガン、モードチェーン」
<了解>
空中で落下しながらマルクはノミスタへと発砲する。すると銃口から緑色に発光する鎖が飛び出しノミスタの体に巻き付いていった。
「ノ、ノミィィィ」
マルクは無事に地面に着地し、ノミスタは頭から地面へとめりこんでいった。
「ケイト、モードプリズン」
<了解>
「だああ! ここから出せええ!」
荒れ地の上にできた緑色の檻の中で鎖を巻き付けられたノミスタが叫ぶ。その傍らでマルクはシレーナと話していた。
「大丈夫ですか? 怪我とかありませんか?」
「は、はい。あの、あなたは?」
「僕ですよ。ヨリヒトです。すみませんが急いでいるので、早速ボーガさんの所へいきます」
そう言うやいなやマルクはシレーナを抱き抱え、荒れ地の中を走っていった。
「爆発があったのはここか、……!?」
船の中を走っていたトリバーは船倉へとたどり着く。そこで彼は遠くでサユとドンが戦っている事に気づいた。
サユは剣を空高く掲げ、その先には渦巻く大きな水があった。
「ボルテックススマッシャー!」
サユが剣を振り下ろすと、渦巻く水はドンに向かって進み始める。
「ドーンブレッシャー!」
ドンの口から放たれる青い光波、それはサユの放った渦をはじきサユへと襲いかかる。
「……サユー!」
トリバーがサユの名前を叫び腕を伸ばした時、サユは青い光波の中で消えていった。
「うおおお!!」
トリバーはドンへ飛び蹴りをする。
「シャー!」
ドンは両手の青竜刀を振るいトリバーの脚を受け止めた。
「おまえを! おまえを倒す!」
「てめえも仲間か? さっき死んだ雑魚のな!」
「黙れ! 電嵐鳥覚醒!」
ベルトから走る電気と共にトリバーの体が変化する。
「はあっ!」
トリバーの足から変化した鉤爪が青竜刀にひびを作り、一気に打ち砕いた。
「何!?」
トリバーは雄叫びを上げ驚愕するドンの顔を殴る。
よろけるドン。
トリバーは拳を握りしめさらに追撃する。それに対しドンは腕を構え耐える姿勢を見せた。
トリバーの攻撃はすべてドンの腕に防がれる。しかし、ドンは苦痛の表情を浮かべ、その体は少しづつ後ろへと下がっていった。
「これで決めてやる!」
トリバーは瞬時に遠ざかると両の鉤爪を突き出し回転しながら突進した。
「ストームフィニッシュ!」
「なめるな! ドーンブレッシャー!」
ドンの口から放たれる青い光波とトリバーがぶつかり合う。トリバーの鉤爪がドンの光波をはじき進んでいく。
「シャー!」
「……グゥ?!」
ドンが雄叫びを上げると光波の勢いが強まり両者の攻撃は拮抗しあう。
その時、トリバーの体が徐々に前の状態へと変わっていく。
「く……時間が……」
トリバーの体が完全に戻った時、ドンの青い光波がトリバーを襲った。
「うわあああ!」
ドンの攻撃を受けトリバーの全身はボロボロになり地に伏してしまう。
「う、ぐ……」
トリバーは腕を地面につき立ち上がろうとする。しかし、その体は持ち上がらない。
「しぶとい奴だ、さすがの俺も力を使い果たしちまったが……」
ドンは近くにあった金属のコンテナを持ち上げる。
「こいつで押しつぶしてやる」
そう言ってドンは一歩、また一歩とトリバーへと近づいていく。
「く……そ……」
トリバーは震える腕を地面に押しつけながら立ち上がろうとするが、体が持ち上がることなく、ドンが目の前までやってきた。
「終わりだ!」
ドンがコンテナを振りかぶる。その時、ドンの目の前を銃弾が横切った。ドンの動きが止まる。
「誰だ!」
ドンが振り向いた先にいたのは、手にライフルを持ち、茶色いマントをはおるこの星に住む人間の男達だった。
「大丈夫か、あんた!」
そう叫んだのはトリバーを宇宙船まで案内した顔がやつれた男だった。
「何しに来た! 死ぬぞ!」
「ここは俺たちの星だ! あんたに頼りっぱなしでいられない! みんな行くぞ!」
「「オオオオ!!」」
男達は持っている銃をドンに向けて撃ち始めた。
「群れるしか能のない鰯の雑魚どもが!」
ドンは銃弾をものともせず持っていたコンテナを男達へと投げつけた。コンテナは男達の近くに落ちる。
「ひるむな! 攻撃しろ!」
ドンは男達に向かって突進する。そして蹴散らしていった。男達は悲鳴を上げながらも必死に抵抗する。あきらめるものは誰一人としていなかった。
「ほんの……ほんのわずかでいい。俺に力を、おおお!!」
トリバーはよろめきながらも力を振り絞って立ち上がる。そして右腕を曲げ、拳を上げた。
トリバーの拳にスパークが走り、光り輝いていく。
「ライトニング!」
トリバーはドンへと跳ぶ。
「シャー!」
トリバーに気づいたドンは拳を振りトリバーの拳とぶつかり合う。
「フィニッシュ!」
トリバーの拳はドンの拳をたやすく押し返す。
「な!?」
「ブロオオウ!!」
トリバーの拳がドンを貫き、ドンを打ち倒す。
「仇はとったぜ、サユ……」
トリバーは力つき、そのまま倒れこんだ。
「立てるか? 肩を貸そう」
やつれた顔の男がトリバーに聞く。
「ああ、すまない。おまえ達は大丈夫だったか?」
「怪我をしたものはいるが、みんな生きている。平気だ。ありがとう。きみのおかげだ」
男はトリバーを起こすとその肩を持った。
「いや、全員が協力しあった結果だろう……」
そう言ってトリバーは顔をうつむかせる。
「どうした? 勝ったのに浮かない顔をしているな」
「仲間が一人、死んでしまった」
「そうだったのか……この星の英雄だ。盛大に葬儀をしよう」
「そうだな……サユも喜ぶだろう」
その時、船倉でサユの声が響いた。
「あの! 私、死んでないんですけど! いや死んでるけど……」
「何!?」
トリバーは船倉を見渡す。だがサユの姿は見あたらなかった。
「サユ! どこだ! どこにいる!」
「ここ! ここ! 棺桶の中!」
「何だって?」
サユが消えていった場所、そこに黒い棺桶があった。
「まさか、おまえこの棺桶に入っているのか?」
「そうだよ」
「何故だ?」
「だって私、死んだら棺桶になるから」
「……おまえの体質の事はよく知らないがそこから出られないのか?」
「なんか復活っぽい事しないと出られないどころか動けないよ」
「そ、そうか……まあ、おまえが無事ならそれで良い」
「いや! ちょっと待って! 復活の方法考えないと私、一生このままだよ!」
「とりあえず宇宙海賊ヒドーノは倒したんだ、考える時間はたっぷりある」
「宇宙海賊ヒドーノがこれで終わりだと? 笑わせる」
船倉にドスの聞いた声が響いた。
「な! まだいるのか!」
「ドンを倒すとはさすがだ。その力に敬意を評しこの星を粉々に打ち砕いてやろう」
船が揺れ動き、船倉の壁が動き出した。
「船が崩れる!?」
「一旦、外へ出るんだ!」
トリバー達は船の出口へと向かう。
「あ! ちょっと! 私、動けないから! 誰か! 運んでー!」
棺桶の中に入ったサユは叫んだ。
「ボーガ!」
「シレーナ!」
シレーナを助けたマルクは宇宙船から離れた所にいるボーガの元まで案内した。
「僕はまた宇宙船に戻ります。ボーガさん、シレーナさんをお願いします!」
「はい! ヨリヒトさん、本当にありがとうございます!」
「よし……!?」
マルクが宇宙船へと向かおうとしたとき、地鳴りと共に宇宙船が動き出した。
「あれはまさか……船が変形している!」
数百メートルに及ぶ巨大な黒い宇宙船、それが形を変えていき巨大な人型兵器へと変貌をとげていった。
その人型兵器の足下には外へと飛び出したトリバー達がいた。トリバーは人型兵器を見上げ叫ぶ。
「まさか、宇宙船そのものが生きているのか!?」
「その通り、私こそが真のヒドーノ。ヒスタス、ドン、オールは全て私の手足として作り出した有機生命体だ。それらが全て破壊された今、この星のエネルギー採取は中止、即刻に破壊する」
そういうやいなや、ヒドーノは巨大な両手を動かし、胸の前まで持ってくる。そして両手の指からビームを出し始めた。そのビームは互いにぶつかり合い大きな光球を作り出していく。
「まずい! 奴はあのエネルギーでこの星を破壊するつもりだ!」
「みんな! 宇宙船へ攻撃するんだ!」
男達はヒドーノに向けて銃を撃ち始める。だが、数百メートルに及ぶヒドーノはびくともしない。
「俺が奴の中へ入って奴を倒す!」
トリバーは翼を広げ飛ぼうとした。だが。
「くっ!」
彼の体は崩れ落ち、膝をつく。
「くそ! 体が!」
「私もこんな体じゃ動けないし!」
サユは棺桶の中で言った。
「僕に任せてください!」
マルクが飛び出し、ヒドーノの足へと向かう。
「僕が中から破壊します!」
そう言ってヒスタスとの戦いの際にできた穴からヒドーノの中へと入っていった。
「……頼む、トリカイ ヨリヒト」
トリバーはマルクが入っていった穴を見つめながら呟いた。
マルクはヒドーノの防衛機構が働く中を突き進んでいく。通路に設置された砲台や飛翔する球状の小型ロボット達の攻撃をかわしていく。
「ケイト! 動力炉がどこにあるか分かるか」
<耐久性、エネルギーの経路から中心部つまり人間の胸に当たる部分にあると考えられます>
「よし! 近道だ!」
そう言うとマルクは壁を破壊し一直線に上を目指していった。
マルクは広い球状の空間へと飛び出す。その中心部には大きな楕円状の装置があった。
<現在地の高さはヒドーノの胸の高さに当たる部分になります>
「要するにあれだな!」
マルクは銃を装置へと向け、発砲した。しかし、マルクの放った弾は装置の壁に弾かれ、傷一つつけることができない。
「ケイト、チャージガン、モードアタック」
<了解>
「頼む、間に合ってくれ!」
「まだなのか、ヨリヒト」
ヒドーノの足下でトリバー達はマルクに祈っていた。
「トリバーさん、私たちに出来る事は何かないかな?」
サユがトリバーに尋ねる。
「……残念だが俺もおまえも限界を越えている、ヨリヒトに任せるしかない」
「そっか……でもヨリヒトさんなら大丈夫だよね! なんてったって正義の味方なんだから!」
「……ああ!」
<チャージ完了>
「これで終わりだ!」
マルクの腰に携えられたバズーカからエネルギー弾が飛び出し、楕円状の装置へ当たると大爆発を起こした。
「やったか……!」
強烈な光を伴う爆発、光が収まった時、楕円状の装置は全くの無傷であった。
「そんな!?」
マルクのいる部屋の中でヒドーノの声が響く。
「フフフ、重要な動力炉のある部屋でなぜ防衛システムが働いていないか、気づかなかったようだな。貴様の最大の攻撃でも動力炉に傷をつけることができないと分かっていたからだ」
「何!」
「そしてこちらの準備も整った」
「く! ケイト、チャージのリミッターを外せ! もう一度撃つ」
「もう間に合いはしない。だが念のためだ、貴様はわが防衛システムと遊んでいるがいい」
マルクの周囲から砲台が飛び出し、小型ロボットが姿を現し始めた。
「僕は、僕はあきらめない! あの人のように!」
動力炉のある部屋で戦うマルクをよそにヒドーノはトリバー達に告げる。
「貴様等の頼みの綱であった者は失敗に終わった。貴様等の希望は潰えたのだ。これよりこの星を破壊する」
ヒドーノの指から出るビームが消え、作り出された巨大な光球が地表へゆっくりと落ちていく。
「終わり、なのか……。やはり駄目だったんだ……!」
星に住む男達は絶望に満ちた表情を見せる。
「諦めるな! まだ俺たちは終わっていない! 出来ることを最後までやるんだ!」
トリバーはボロボロの体をおして立ち上がる。
「そんな事言ったって出来ることなんてもうないじゃないか!」
その言葉にトリバーは苦悶の表情を浮かべる。その時、サユが叫んだ。
「トリバーさん! 私をあの球に向かって投げて!」
「お前! まさか自分の身を犠牲にしてあれを止めるつもりか!」
「違うよ! 感じるんだ! あの中には良い力があるって!」
「何?」
トリバーはヒドーノが放った光球を見上げる。それはまさしくこの星を破壊する禍々しい光球であった。
「……その言葉、信じていいんだな?」
「もちろん!」
トリバーの問いかけにサユは答えた。
「……分かった、行くぞサユ!」
「うん!」
トリバーはサユの棺桶を掴むと空高く投げ飛ばした。サユの棺桶が巨大な光球の中へと入っていった。
「……やっぱりそうだ、この中にはみんなの思いがある。平和な世界を取り戻したいっていうみんなの願いが。……そのために私に力を貸して!」
棺桶の中からサユが開放される。
「エレメンタルシューティングスター!」
サユは光球の中で虹色の剣を取り出す。
「はああああ!!」
サユが剣を振り下ろす。すると光球は空中で弾け四散した。
「何!? 何が起きた!?」
光球が破壊されヒドーノは驚く。
「みんなの願いでサユ、ふっかーつ!」
光球を切ったサユは空中で叫んだ。
「……願い? そうか! 私のエネルギーの一部に使われているホープフラワーの力を逆に利用したな! だが、次はそうはいかぬ!」
「次なんて無い!」
マルクは叫ぶ。ボロボロのアーマーでバズーカを動力炉へと向けていた。
「まさか!? このわずかな時間で防衛システムを退け、チャージは出来ぬはず!」
「おまえの言うとおり防衛システムの相手をしてたら時間がかかるさ。だから死ぬ覚悟でずっとチャージしていたんだ!」
「何だと!?」
「食らえ! 300%のフルバーストガン!」
マルクのバズーカから放たれる銃弾が動力炉を破壊する。
「ぬあああああ!!」
動力炉は大爆発を起こし、ヒドーノの上半身が消し飛んだ。
宇宙海賊ヒドーノの暴虐は勇者、警官、怪人、三人の英雄の手によってその終わりを迎えた。
「終わったな……」
宇宙船ヒドーノの残骸の下で人間の体に戻ったトリバーはサユとヨリヒトの二人に告げる。
「二人のおかげだよ、ありがとう!」
サユは二人に礼を言った。
「いえ、みなさんのおかげです。それと……」
変身を解いたヨリヒトはトリバーの方へ顔を向ける。
「あなたに会えて良かったと思います。……トリカイ ヨリナシさん」
「あれ? ヨリヒトさん、やっぱり知り合いなの?」
「俺はこいつの事なんか知らん」
トリバー、ヨリナシはそう言って顔を背けた。
その時、ヨリナシの体が光り始め、サユは驚いた。
「なんか光ってるよ!?」
「それはきっとホープフラワーの力が無くなり、元の世界へ戻そうとしているのです。ほらあなた方も……」
シレーナはそう告げる。サユとヨリヒトの体からも光が出始めていた。
「そうか。まぁ俺は元の世界でやらなくちゃいけないことがあるからな」
ヨリナシはそう告げる。
「自分も警察官の仕事をつとめなければいけません」
「私は花も恥じらう高校生しないと!」
「……おまえの世界に高校があるのか? そんな鎧を着て?」
ヨリナシはサユの派手な白と赤の鎧を見て言った。
「うん、普通にあるよ。パソコンとかあるし」
「おまえの世界がどんな所か、ますます分からん」
そう言ってヨリナシは頭に手を置いた。
「あ、そうだ」
ヨリヒトがシレーナの方へ顔を向ける。
「シレーナさん、捕まえたノミスタの方はお願いします」
「はい、この星の人々でどうするべきか決めます。……あの、皆さん! 私たちの星を救ってくれてありがとうございました!」
シレーナは頭を下げる。続いてボーガや男達も頭を下げた。
「正義の味方ならば当然の事です」
「私は勇者ですから!」
「……俺は自分のやりたいようにしただけだ」
「私たちはあなた方の事を忘れません。本当にありがとうございました」
「さて、ヨリヒトっていったな……」
ヨリナシがヨリヒトへ話かけた。
「何です?」
「……正義の味方を目指すのもいいが、自分のしたい事をしろよ?」
「……ええ、大丈夫です」
「それじゃあ皆! また会おうね!」
「ええ、また会いましょう」
「俺はお断りしたいね。また会うってことは何かが起きてるときだろ?」
「夢がないなぁ、平和な時に会えるかもしれないじゃん! そうしたら私の友達とか紹介するよ!」
「いいですねぇ、僕は警察署内を案内しましょうか」
「……まぁ、その時は青い空にでも連れてってやるよ」
三人の体がだんだんと消えていく。
「どうやら、そろそろ終わりのようだな。俺は先に行く」
そう言うとヨリナシは歩き始め、その姿は次第に消えていく。彼は最後に手を一振りして別れを告げた。
「それではサユさん、お疲れさまでした。また何処かで」
「うん!」
「……さようなら」
「さようなら~! 元気でね~!」
ヨリヒトとサユは互いに手を振りながら消えていった