デジヤマデパート
「デジマヤデパート」
駅前広場の西側にはふれあい通りが南へ一直線に続いている。この通りはデパートが何店も並ぶ所で、私は日用品からプレゼントなんかを買うためによく出掛ける。実用品、非日常品など、わりと品揃えの良い店が私は好きだった。友人がちょうどその裏通りでがらくた市をしているけれども、そういうものは相変わらず使えないものが多くてマニアな人たちに好まれている。
たとえば。イワシの頭とショウブをくくりつけたお守りなどは、パレードで祭文をみんなで唱えるときにとても重宝する。千人針などに使う赤い糸が一センチだけちょろりと針に通してあるものや、際物になるとクチベラと言う死に関係した祭具なんかが売られている。
空を見上げると、白い大きな雲に紛れて、スペースナショナリティから出航したセミクジラが、多くのシタビラメを従えて、南に向かっていた。駅前大通りでそれを見上げて興奮しているロクロクのンナオゥンナオゥという泣き声がうるさい。
私はデジマヤデパートで、新品のジャンプスーツをそろえるつもりだった。デジマヤデパートの向かい側の外箱屋デパートのショウウィンドゥの前に、きらがいた。彼女はどうやらウィンドゥの中で輝いている、幻の鳥オオニシキクジャクバトの卵に関心があるようだ。
横断歩道を渡って、彼女に声を掛けた。
「オオニシキクジャクバトの卵、ホンモノだと思う?」
と、きらは疑わしげな目を、肌色に茶色のぶちのある卵に向けて、言った。
オオニシキクジャクバトは要するに、ハトのでかいやつを指している。公園などでよく見かけるハトの大きいのが、クジャクの羽根を付けて、錦織を首に巻いているのが本当らしい。実際に見た人は皆無で、足跡だけが発見されている。ある学者が長い年月研究した結果、そう発表したのだ。人のいない所に生息していて、必ず原住民の後ろかどこかで跳びはねているらしい。テレビか何かで言っていたことなので、確かなことは分からないけれど。
私は一流志向の外箱屋デパートの信頼性を信じて、ホンモノだろうと答えた。きらは首をひねりながら、ショウウィンドゥから離れた。
「どこ行くの?」
きらは私に付き合うと言い、一緒にデジマヤデパートに入った。さすがに安価を誇るデパートらしく、一階では目玉商品を棚に連ねてあった。ケムシの目玉、スズメの目玉、カラスの目玉当たりは一組十円くらいで、ライオン、トラ、ジャッカルあたりだと、何倍かの値札が付けられていた。早速きらは何かを見つけたらしく、私を手招いている。見てみると、オオニシキクジャクバトの目玉が棚に置かれてあった。
「ホンモノに見える?」
私は迷ったけれど、これをニセモノだと言うと、他の目玉もほぼニセモノであると言っているようなものだ。これだけがニセモノであるという証拠もなく、私はホンモノだろうとうなった。きらはいぶかしげに目玉を見たが、結局ジャンプスーツ売り場の階まで付いて来てくれた。エレベーターから降りると、すぐにきらは同じフロアにあるコート売り場へ突進して行き、何かを物色し始めた。
遠くから改めてきらを見ていると、彼女のスタイルがとても良いことに気づく。巻き毛のショートカット、すらりとした体、短めのスカートに膝まであるブーツ。右頬には星屑が光っている。
私はジャンプスーツ売り場で、黄色いやつを選ぶと会計所へ行った。すると、きらが難しげな顔をして、立っている。
「これ、ホンモノかしら?」
と言って差し出された手には、「オオニシキクジャクバトの羽根を織り込んだコート!」という札の付いたコートがあった。店員は澄まし顔で、「本物です」と言った。私は迷いに迷って、ホンモノだろうとつぶやいた。ニセモノだと言ってしまったら、同じ売り場の生き物の皮や毛で作られたコートの全部がニセモノだということになってしまう。ここは慎重でありたいものだ。
結局きらは何も買わず、何やら思い耽けっているようだった。多分、オオニシキクジャクバトのことだろう。地下で今日の夕飯の材料を買いたかったけれど、精肉売り場でオオニシキクジャクバトの胸肉なんかを発見するのもナニだと思い、やめにした。 オオニシキクジャクバトが幻の鳥と言われ、見た人が皆無なのは、すでにパーツ分けされて売られているせいじゃないだろうかと、家路についた私は思った。