第二話
「先輩のメールアドレス教えて下さいっ!」
「…………」
なんなんだ、急に………
俺の後ろでは金田の笑い声が微かに聞こえる。
「あぁ、悪いけど俺って自分のアドレスとか覚えてないんだよね。」
これは事実だ。いたずらメールが嫌で自分でも覚えられないアドレスにしたのだ。しかもウチの学校は携帯を持って来るのは禁止だ。
しかし、目の前の少女はまたにっこりとしていた。
「実は前に他の先輩に聞いたので、もう知ってるんですよ。今日はそのことの許可とろうと思っただけで………。」
とんでもないことを言い出した。そんなすぐに教えられたら俺が分かりにくいアドレスにした意味がない。てか、俺に許可なく教えた奴誰だ。
「じゃあ今日メール送りますね〜。あっ!それと私、中三の中山佐紀っていいます。」
そうして、俺の返答も聞かずに中山佐紀は教室から去っていった。
「いいなぁ〜〜。あの子絶対お前に惚れてるぜ。」
自転車を押して、歩いて金田と帰ってたら、急にそんなことを言い出した。
「んなわけねぇだろ。」
そう言いつつ内心ちょっと期待してた。
「なぁ、井出。あの子に中三のカワイイ子を紹介してもらってよ。」
「ふざけんなよ。俺がそんなこと出来るかよ。」
「あ〜ぁ。カワイイ彼女欲しいなぁ。」「そうか?」
何のために彼女欲しいんだろ……。俺も昔彼女がいた。確かに一緒にいて楽しかった。でも一緒にいて楽しかっただけに、別れた時に本当に辛かった。彼女の浮気が原因だったけど、俺はあのとき本当にアイツのことが好きで……。
「あ〜ぁ。俺って本当に彼女欲しいのかなぁ……。」
なんとなく、自分に言ってみる。
「なんだ、それ。」
金田は笑って答えてくれた。
「キャー!!」
そんな時、悲鳴が聞こえた。
「なんだ!?」
俺と金田は急いで声のする方へと、走った。
「うぅ……。助けてくれ……。」目の前には中学生らしき男が三人倒れている。
俺がやったわけじゃない。金田だ。こんなとき、コイツは本当にかっこいいよなと思う。
「大丈夫か?」
金田が女の子に声をかける。女の子にケガはないようだが、恐怖からか、微妙に震えていた。
「……ありがとう。」
女の子が顔を上げてドキッとした。同じクラスの山下愛理だった。以前から笑顔がカワイイな、と思ってて、俺もよく話しをしてたので少し好意は持っていた。
「ワリィ、井出。俺、山下家まで送っていってやるよ。」
「あぁ。そうしてやれよ。」
「……ゴメンね。金田君。」
そうして俺は二人と別れた。
家に帰ると、すぐに金田から電話がかかってきた。
「帰り道に山下に告白された。だから、付き合うことにしたよ。結構カワイイしな。」
「オォ。良かったじゃん。明日から夏休みだし、たっぷり遊べるな。」「まぁな。じゃ、またな。」ガチャン
なんだか分からないけど、心が重く感じた。今さらだけど、俺山下に好意とかじゃなくて、本当に好きだったのかな……。
それはない!
そう自分に言い聞かした。仮に好きだったとしても、告白したり、金田に相談したりしなかったのだ。なにより好きだという気持ちにすら気付かなかった………
ショックを受けてベットに飛込んだ俺の横で、携帯はメールを受信した。でも、それに気づかないくらい俺はショックだった。