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未来を見る瞳

その日、午前中の講義を終えた篠崎晴香は友達の誘いを断り、教室を飛び出した。

 風がとても冷たい。

 スキニーのジーンズに、グレイのパーカーを合わせただけのラフな出で立ちでは、さすがに寒かった。

 もう少し厚着をしておけば良かったと後悔する。

晴香はオーケストラサークルの先輩である常森に紹介された人物に合うためにB棟の裏にあるプレハブ二階建ての建物に向かっていた。

「占い研究同好会」晴香はドアの上に取り付けられたプレートを確認してからドアをノックした。ドアの奥から「どうぞ」という男の声が聞こえて晴香はドアを開けた。

ドアを開けると正面に座っている長身の男と目が合った。男は地肌にワイシャツ姿で眠たそうにこちらを見ている。

男の着ているワイシャツはボタンが2つまで外されていて胸がはだけている。これは男が意識的に見せているのか、それともただ単に男がだらしないのか。晴香は自分に向けられている眠たそうな目から、おそらく後者だと予想した。

「僕に何かようですか?」

男があくびをしながらいう。

「えぇと、もしかして桐島海斗さんですか?」

晴香は男の前に置いてあったパイプイスに座りながら聞いた。

「もしかしなくても、僕がその桐島海斗だけど」

男が答えた。この人が桐島海斗―――

「で、僕に何か?」

「実は私、サークルの先輩に紹介されて来たんですが……」

「誰の紹介?」

「常森さんです」

「知らないな。誰だそいつ? 存在しているのか?」

「え?」

話が違う。紹介してくれたんだからてっきり知っているのかと思っていたのに……

「まぁ、誰の紹介でもいいか。とにかく、要件を教えてくれ」

「友達がちょっと大変で……その、海斗さんなら助けてもらえるかもって」

「話をもっと詳しく説明してくれ。あまいにも話が要約しすぎだ……」

「あ……すみません。詳しく説明しますね」

「ところで遅くなっただが、君はどこの誰?」

嫌な感じ。話してる最中も無表情で眠そうにしているし、何だか意地悪く見える。

「私、篠崎晴香って言います。文学部の教育学科で……」

「あ〜、名前だけで結構」

 海斗がもういいっと、面倒臭そうに手を振った。

本当に嫌なやつだ。晴香の感情に怒りの文字が浮かぶ。

「実は何日か前に。私の友達の島田雪菜って子達が、幽霊がでるって有名な旧校舎に行ったんです。だけどその時雪菜が倒れちゃって……その後遅れてきた私が倒れてる雪菜を見つけて病院に連れていったんですけど、様子がおかしくて。ずっと高熱が出て……だけどお医者さんからはまだ発見されてないウイルスで治療法がないそうで……それにその時に一緒にいた……」

「で、それを僕にどうしろと? 言っておくが僕は医者でもなければ、医学部の学生でもない」

 話の途中に海斗がいきなり入ってきてきっぱりと切り捨てた。

「それはそうなんですけど……雪菜、病気よりも心の方が大変で、

もう私は死ぬんだってずっと言い続けて……生きる意味を無くしてるって感じなんです。だから占いがよく当たるって言われる海斗さんに雪菜を占って欲しいんです」

 そう言うと海斗も納得した様子で、

「つまり、占いでその島田雪菜さんって人を元気づけて欲しいってことだな?」っといった。

「そうです」

「いいだろう。ただし、一つ条件がある」

「条件?」

「2万5千円。あ、消費税込みでね」

「はぁ?」

 金を取るのかこの人は!

「占うんだ。それくらいいいだろう」

「いや、でも……」

 納得できない。

「じゃぁ聞こう。君は僕の友達か?」

「違います」

「じゃぁ恋人か?」

「もっと違います」

「なら、お金でしょう」

「いや、そうですけど……」

「僕は君の友達でなければ恋人でもない。ならば頼み事をするのに無料ってわけにはいかない。だからお金」

 たしかに海斗の言ってることは正論なのだが……

 なんかムカツク……

 しかし、このままにしておくわけにもいかない。

「わかりました、払います。でも後払いにしてください」

「じゃぁ、前払いで1万5千円」

 晴香はそう言われて財布の中から3千円を取り出して海斗に渡した。

「桁が違う」

「今はこれ以上持ち合わせがないんです」

 晴香は海斗に空っぽになった財布を突きつけてやった。

「まぁ、いいか……じゃぁ占いますか」

海斗があくびをしながら言う。まったく、本気でやる気があるのだろうか?

「そういえば海斗さんは何占いをするんですか?」

「何占い……か。僕は占いについてあまり詳しく知らないからな……」

「え?」

「だから、僕はあまり占いに詳しくないっていっているんだよ」

 それでは話が違う。

「じゃぁ。お金返してください」

「なぜ?」

「占いができない人に占ってもらっても意味が無いからです」

 そう言って海斗の手からお金を奪おうとする。が、あっさりと避けられてしまう。

「誰が占いができないと言った。僕は占いに詳しくはない、だけだ。ただ……」

「ただ?」

「確かに僕は君の言うように人を占うことができない。ただ、その変わりに人の運命、未来と言っても言い。それが見える」

「本気で言っているんですか?」

海斗が言っていることはうさん臭い超能力者のそれと同じだ。信じる気になれない。

「本気だ。なら手始めに……そうだな、君は今予約しているテレビ番組がある。君はそれを今日の晩に見るだろう。タイトルは……苦笑! グリーンカーペット。知らないな、おもしろいのか?」

 確かにそれは昨日晴香が予約した。それに今日の晩見る予定だった。でも……

「なんでそれを?」

「言っただろう? 僕には未来……その人の運命が見える。僕は君が録画した番組を見るという未来を見ただけだ」

 そう言われたからと言ってとても信じられる話ではない。

「まぁ、信じるか信じないかは君しだいだよ……」

 海斗はイスから立ち上がってもう一度大きくあくびをした。

 

結局、海斗に雪菜を占ってもらうことになった。晴香と海斗は今、大学のすぐ近くにある雪菜が入院している病院に来ていた。

「ここが雪菜の入院している病室です」

 三0五号室と書かれた病室の前で海斗に説明した。

「言っておきますけど、あんまり雪菜に負担をかけるようなことは言わないで下さいね」

「それは彼女の未来に不幸なことがあっても言うな。ってことか?」

「そうです」

 これ以上雪菜の荒んだ表情は見たくない。

「まぁ、見えるものしだいだな……」

 わかっているのかいないのか……海斗はやる気な下げにそう言うと、ドアを開けて中に入った。

 雪菜の病室は、ベッドが4つ並んだ大部屋ではあるが雪菜の寝ているベット以外は全て空いていた。 雪菜の腕からはチューブが伸びている。おそらくは栄養剤か何かだろう。雪菜は気の弱そうな目をしたまま窓の外を眺めていた。

「やぁ、雪菜。今日は雪菜にお客さんを連れてきたんだ」

 晴香の声は少しでも励まそうと自然に大きくなっていた。それを見て、海斗が晴香の隣でうるさいと言うように顔をしかめた。

 本当に嫌なやつだ。

「お客?」

 雪菜がこちらを見た。

「桐島海斗です」

海斗が軽く会釈をしながら言った。

「あのね、雪菜。海斗さんは占いがすごく当たるって有名なの。だから雪菜も占ってもらわない?」

「いい」

 雪菜の返事は冷たかった。

「自分の運命くらいは自分でわかるわ。私はもうすぐ死ぬのよ」

「そんなこと、言わないで」

そんなの聞きたくない。

「君は……生きたいのか?」

「え?」

海斗が突然口を開いた。そのあまりに唐突な問いかけに、晴香と雪菜は二人そろってとぼけた声を上げた。

「それはどう言う……」

「僕は君に質問しているんじゃない。彼女に質問している」

 海斗が雪菜を真っ直ぐに見つめる。その瞳は、心なしか寂しそうに見えた。

「君は……生きたいのか?」

もう一度、海斗が問いかけた。雪菜は少し黙った後、小さく「生きたい」とつぶやいた。

「そうか……」

海斗は目をつぶり、顔を上げた。そしてもう一度雪菜に目を向ける。

「残念だが君は今日から一ヶ月後に死ぬ。死因はウイルスによる病死。言っておくがこれは占いじゃあない。確定した未来だ。僕には未来が見えるんだ」

雪菜の目がかっと見開かれた。これでは完全に余命深刻を告げられたのと変わらない。

「ちょっと、海斗さんッ!」

 晴香は今にも殴りそうな勢いで海斗に叫んだ。

「君は黙っていてくれ!」

 海斗が一喝した。病室に静寂が訪れる。その静寂を海斗がゆっくりとした言葉で破った。

「確かに、今の君には死という運命が待っている。だが、僕は自らの努力で運命を変えていった人間を知っている。諦めること知らない強い意志を持った人間達だ」

「大丈夫だ。君は生きる可能性を失っちゃない」

 海斗が雪菜の手を握った。雪菜はゆっくりとうなずいた。

 

雪菜の病室を出た後、晴香は海斗と近くのファミレスにいた。

「一時はどうなるかと思いました」

それが晴香の素直な感想だった。

海斗が雪菜に「君は死ぬ」と言い始めた時は本当にどうなるかと思った。この人、案外優しいのかも……晴香はそう思って少し微笑むとコーヒーに口をつけた。

だがそんな晴香とは裏腹に海斗は深刻そうな顔をしている。病室から出てからずっとだ。

「あの、なんでずっとそんな深刻そうな顔をしているんですか?」

 晴香は絶えきれなくなって聞いた。

「僕は君に、僕が未来……人の運命を見ることができると言ったな?」

「えぇ」

 確かにあの時海斗は人の運命が見えるといっていた。

「僕は、あの病室で彼女の運命を見た。」

「それって、もしかして……」

「そうだ。君の友達、島田雪菜さんは本当に1ヶ月後に死ぬんだ」

 まるで胸に大きな穴が空いた気分だ。晴香は下を向いて泣きそうになるのをこらえた。雪菜が……死ぬ。今の晴香にはそんなことは考えられない。

「どうにか……ならないんですか?」

「無理だ。確定した未来は変わらない」

「そんな……」

 私は何もできないまま雪菜の死を待つしかできないのか?

「ただ、それは何もしなければの話だ」

「え?」

晴香は顔を上げて海斗を見た。

「彼女にも言っただろう。未来は変えられる」

「でも、どうやって……」

「彼女の場合、死の原因は身体の中のウイルスだ。それを取り除いてやればいい」

「でも、そんなことができるんですか? お医者さんにもわからない新種のウイルスですよ?」

「あぁ、確かに君の言う通り医者もわからないウイルスを僕らがどうにかすることはできない。だが、彼女の場合は違う。君は僕に何か言い忘れたことがないか?」

「え?」

「彼女が倒れた日、彼女と旧校舎に行った人間が二人いるはずだ。

しかもそのうち一人はその日から行方不明になっている」

 そうだ。そういえば海斗には言ってなかったかもしれない……と言うよりその話を部室で切り出そうとした時に海斗に遮られたのだが……まぁ、この際どちらでもいい。

「はい。沢村一樹君と広松俊介君ですね。二人ともうちの生物学部の生徒です。確かに沢村君は行方不明になっていますけど二人が雪菜のウイルスと何か関係があるんですか?」

「僕の予想がただしければ、おそらく彼らは旧校舎で何らかの事件に巻き込まれ、彼女にウイルスが打ち込まれた」

確かにそう考えられないこともない。

「旧校舎で起こった事件を調べれば、もしかすると何かわかるかもしれない」

 本当に海斗の言う通りにいくのだろうか……でも、今は海斗を信じるしかない。

 すると突然、海斗が席を立った。

「どこに行くんですか?」

「決まっているだろう? 旧校舎の事件を調べるんだ。まずは彼女と旧校舎に行たった……」

「広松君ですね」

「そうだ。彼から事件当日の話を聞く。まずはそれからだ」

そういって海斗は歩いて行く。

「ちょっと待ってください!」

 晴香は急いで海斗の後を追っていった。


お久しぶりです。細鐘レンです。

さて、フューチャー・アイズ、第1話未来を見る瞳はいかがだったでしょうか?

面白かったと言ってもらえれば幸いです。


第2話目は来週、に活動報告でお話しした作品を挟んで投稿予定です。

多分再来週位になると思います。

これからは活動報告も多くしていきたいと思いますのでそちらの方を見てください!


それでは、第2話(もしくは復活する作品)でお会いしましょう!


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