中編
「・・・ここはどこですか?」
朔の目の前から不意に消えてから後。
それからはずっと真っ暗な中を飛んでいた。
多分飛んでるんだろう。真っ暗すぎてわかんない。
ただ、ただ、闇。
眼を開けてるのか閉じてるのかも判然としない。
鼻をつままれても分らないとはこのことだろなー。
「ん~。まだ途中だから。もう少しよ。・・・しかしあなたの香気、強いわねぇ。私でもクラクラしちゃうわ。」
って、この美女さん、私の結界なんてものともしてないよね?ってーことは相当高位の魔物ってことだよね?朔が言ってたのでは。
じゃあさ、血を吸われたり、下手したら食べられちゃうってこと?!
「むきゃ~~~!!血も吸わないで!私を食べないで!!不味いです!!きっと、いや、絶対!!」
おーまいがー。
後ろから抱き抱えられたこの状態。美女さんは鼻を私の首筋に当ててくる。
やーめーてーってば!
それから少しして。
パッと視界が開けた。
でも、明らかな違和感。
中世ヨーロッパのような街並み。
町はずれの小高い丘には、鬱蒼と木が茂っていて、お約束のように頂上には城の塔が見える。
これ、絶対日本じゃないよね。
ヨーロッパ村とか、そんなの聞いたことないもんね?
「・・・ここはどこ?」
ボーゼンとしながら、眼下の景色を見つめる。
「ん?ここは魔界よぉ。魔界の、ヴァンパイアの国。でもって、あのお城が私のうちよ。」
事もなげに美女さんが言う。
「はいぃぃぃぃぃ???」
「うふふふふ。あ、いづれはあなたの家でもあるわね。」
楽しげに言う美女さん。それ、意味ワカリマセン。
「えーと、結局のところ貴女はだれなんですか?」
そうだよ。肝心なことを聞いてなかった。
朔の知り合いってのはわかってるんだけど、どういう関係?
「私?私は朔のお母様よ♪美月≪みづき≫っていうの。あ、名前で呼んでちょうだいね!よろしく☆ここの国主が朔の父親だから、私は女王様?ついでに朔は王子様?」
ルンルン、って感じで美女さんが言い放った。
がはっっ!!!朔ってばほんとに王子様なのぉ?納得いく容姿だけどね。
高等魔とは言ってたけど、身分も高等だったのか!!
いや待て。
それよかここ、魔界って言ったわよね?いわゆる異世界ってやつか?!
あ~あ。不本意ながら異世界に来ちゃったよ。
帰れるのかなぁ。
今日は金曜だから、明日明後日は休みだからいいけど、また月曜日には学校始まるんだけどなぁ。
二泊三日で帰してくれるかなぁ?
「せっかくだし、城下町でも観光しましょうよ。」
あくまでも楽しそうな美月さん。
まあ確かに、せっかくの異世界トリップだ。エンジョイしなくてどうする。
「はあ。ではお言葉に甘えて・・・。」
城下町はなかなかに賑わっていた。
市場みたいなのもあるし、いろいろな物を売っているお店もたくさんある。
日本とは趣が違って、見ているだけでもなかなか楽しい。
行きかう人々は、人間と何ら変わりない。
ただ、蝙蝠が多いかなぁ、と。やたら飛び交ってる。
キーキーと超音波が結構耳障りだよ(怒)
「食べ物も、あちらと変わりないわよ♪ジェラートでも食べてみる?」
美月さんに誘われる。
「いや、お金ないし、いいです。」
日本国金券及び硬貨なんぞ持っていても意味ないことはわかってる。
はい、ただ今無一文とは私のことです。
「あら、遠慮しないでぇ。それくらいご馳走するわよ。女王様に不可能はないのよ?」
そうでしょうとも。貴女に逆らえる気しませんて。
そう言うと美月さんは適当にジェラートを注文し、私にも渡してくれた。
おおっ!美味なり!!
「美味しいです!ありがとうございます!」
素直にお礼は伝えましょう。
「でっしょう!」
美月さんもにっこり笑う。
街探索を堪能した私たちは、いつの間にか待っていた馬車に揺られてお城に向かった。
「飛んでも行けるけど、こっちの方が『お城に行ってる』って感が高まるでしょ♪」
ということから、馬車に揺られることになったみたいだ。
飛ぶのも馬車に乗るのもどっちも初めてですから。どっちでもいいですから。
鬱蒼とした森を抜けて、丘の上のお城を目指した。
お城に到着して、そのまま晩餐会。
えーと、私制服のままなんですけど?ま、いっか。どうせ異世界人ですし。
晩餐会って大袈裟な、と思いつつも食堂みたいなところに通される。
あー。だだっ広い。
でっかいテーブルがど真ん中に『ででーーーん!!』と鎮座している。
幾つもの蝋燭と花で飾られていて、とっても素敵なんだけど、普段の食事にここまでするんかい!と突っ込んでしまう。
あくまでも庶民だからね、私。
ずっかりまるっと気付いてなかったんだけど、いわゆるお誕生日席ってところにダンディなおじ様がすでに着席していた。
あー。きょろきょろしてたの、ずっと見られてたな。は、恥ずかしい・・・。
「パパ?こちらが音々さんよ。」
美月さんが、ダンディさんの横に座りながら私を紹介する。
執事みたいな人に椅子を引かれて、優雅にそれに座る仕草は、さすが女王様。
ってことは、この人が王様か。朔のとーちゃんね。
美月さん・・・王様をパパって・・・。
「三谷音々と申します。初めまして。」
ぺこり。こんな感じでいいのかな?王族に挨拶なんて想定すらしたことなかったから、礼儀作法なんてわっかるわけないっつーの。
「そうか、そうか。かわいい子だね。私は影≪えい≫だ。この国の国主で、朔の父親だ。」
国王が相好を崩す。
あ、執事さんが私の椅子を引きに来てくれた。
反対のお誕生日席に座らされる。
王様と真向いなんだけど、いかんせんテーブルが長いからめっちゃ遠い。
一体何人掛けだよ?何人家族だよ?
「やっぱり朔も面食いだったねぇ。私に似たのかな。しかも香気もこんなに強い。これ以上は望めないね。」
なんて、ニコニコしながら王様は美月さんに話してる。
「かわいそうに、朔は今夜は来れないでしょうね♪新月だもの。あちらできっとやきもきしてるに違いないわ。」
悪魔な笑みをたたえる美月さん。貴女、朔のお母さんですよねー?
「こちらにいれば月の満ち欠けに影響されないのに、あえてあちらにいるのだからね。ま、それくらいは割り切っているだろう。」
「いええ?そうとは限らなくてよ?音々さんを連れてくるときの朔の形相ったら・・・ふふふ、おおこわ。」
またしてもにやあと笑う美月さん。
そうこうしているうちにお料理が運ばれてきて、食べたことないようなコース料理にあたふたしつつも、和やかに晩餐会は終わりを告げた。
晩餐会のち、お城の豪華だけどかわいらしい一室に案内された。
「音々さんのために用意してあるのに、朔ったら全然連れてきてくれないんだもの。強制連行しちゃったわ♪」
まったく反省の色なしな美月さん。
「はぁ・・・。」
生返事で肯く私。
「まあ、ここはあなたの好きに使ってね!バスルームはこっちね。着替えはここ。あ、いっそ侍女なんて付けちゃう?」
にっこり美月さん。
「いやいやいやいや、結構です!ダイジョウブです。自分でできますっ!!」
慌ててお断りした。
「そお?まあ、なにかあったらいつでも声をかけて頂戴ね?じゃあ、おやすみなさい♪」
お風呂に入り、寝支度を整える。
あーしかし無駄にだだっ広い部屋だ。
天蓋付きのベッドなんて、使う日が来るなんて思ってもみなかったよ・・・。
全体的に淡いピンクが基調。・・・甘ったるい・・・。
でも、ベッドに入り枕に顔を押し付けた途端に睡魔は襲ってきた。
異世界トリップ1日目終了。バタンキューでお休みなさいだ。
あと一話で完結です。
お付き合いしていただけたらうれしいです(^^)