前編
『落ちていたのです』の音々と朔の続編です。
これだけでもたぶん大丈夫・・・なハズです。
私、三谷音々≪みたにねね≫は帰り道を急いでいた。
今日は金曜日。
塾もあり、いつもの帰宅時間よりかなり遅めの午後8時。
いつもならば彼氏の永山朔≪ながやまさく≫が一緒なのだけれど、今日に限って彼はいない。
私はごくごく普通の16歳、高校一年生。
今日は月に一度の新月の日。
この日、私の彼氏は弱っちゃうのだ。
本人の言によると『力が弱まる』らしい。
なぜなら、彼は普通の人間ではないから。
魔物っていう分類の、ヴァンパイア。
はい、最初は何のファンタジーだとびっくりしたわ。オソロシイもので、すっかり慣れてしまいました。あ、でも他の明らかに『魔物』ってヤツに出会うと思いっきりうろたえますがねー。
私は『とっても美味しそうな血』を持っているらしい。そして、その血がとってもいい香り『香気』というものを発していて、魔物を寄せ付ける体質なのだそうだ。朔いわく。
で、その香気に寄ってきた朔が、私を気に入り、カレカノとして今に至る。
で、毎月の新月の日は、その『魔物』達にとって力が弱まる時らしく、大人しくどこかでやり過ごすのだそうだ。
朔はいろいろあって、私の部屋に居ついている。
あ、家族は知らないけどね。もちろん内緒。
そして、今日の新月は、先に帰って私の部屋で逼塞≪ひっそく≫している。
ベタな変化だけど、蝙蝠になって。
そう言う訳で、私は一人で夜道を急いでいた。
まあ、駅からそう遠くないし、大体が幹線道路沿いを行くから、そんなに危ない道はない。
最後、少しだけ住宅街を歩くけど、それもすぐだし。
そう言えば、家の手前で朔に出会ったんだったわ。彼はうちの手前で落ちてたんだよ。
ばっちり不審者だと思ったわ。
が。
そんな家の手前で、今夜は女の人に出会った。
「・・・・・・デジャヴ・・・。」
眉間に皺が寄るわ。まったく。
ま、落ちてないだけマシか。
ちゃんと立ってるけど。
なんていうの?一言でいえば美女。
すっきりした目元、妖艶な唇。透き通るように白い肌。いっそ血色悪い?
身に付けた黒いドレスは、体のラインをくっきりと映す。
なんですかー。お色気むんむん?
そんな美女が、艶めかしい口の端をにっこりと引き上げて、
「あなたが音々ちゃん?」
いーやー!!!
まーためんどくさそうなのが寄ってきたわ!!!
再びデジャヴ。
今回は見えないフリするわけにもいかないしー。
どうやったらスルーできる?って、無理か。名前まで呼ばれたよ。
ってか、私、こんな人知らないしっ!
一瞬で色々考えたけど、素性がバレてるみたいだからスルーは諦めた。
「・・・はい、そうですが?」
渋々答える。
「ほんと、かわいい子ねぇ。朔ったら、やっぱり面食いだったわね。」
なんて言ってる。
「はい?朔?」
朔の知り合いか?じゃあ貴女も魔物かい?
こんな渋面の私を見て『かわいい』とはよく言えたものだ。
「そ、朔。」
アノ朔だよね?今、うちで逼塞している。
朔の何なんだ??と、疑問に思い首を傾げていたら、いつの間にか美女さんてば私の背後に回ってるし。
いきなり後ろから抱き付かれてしまった。
「うぎゃっ!!」
色気のない悲鳴が出る。
私、そんな趣味、断じてナイ~~~!!!
美女さんは私よりも長身。
背後からすっぽり抱き込まれてしまっている。
「さ、一緒に行きましょう♪」
楽しそうな声が、後ろから聞こえてくる。首筋に息がかかってこそばゆいからやーめーてーっ!!
「えっ?はぁ??って、ええっ??」
すっかり身動きも封じられてしまって、パニックになる私。
「い・い・と・こ・ろ・よ♪」
そんな意味深にいわないでっ!
そして、うふふふって、色っぽく笑わないで!!
すると、おもむろに私ごと美女さんが飛び立った。
「うっきゃーーーー!!!」
近所迷惑も顧みず叫んだ私。
いや、ここは叫ぶべき場面だろ。拉致られるんだから。しかも、人間以外だしっ!!
すると、他は全然反応なしだったのに、私の部屋の窓だけが反応した。
窓がすごい勢いで開けられる。
「音々っ?!」
朔が身を乗り出している。
「朔~~~!!助けて~~~!!連れてかれちゃう~!」
半べそで助けを求めたけど、背後から、
「あら、朔。ちょっとお借りするわねぇ。」
なんて呑気な声が聞こえてくる。
「なにすんだ?!」
怖い顔で朔が叫ぶ。朔も美形だから、怒ると怖いんだよね~。って、そんな呑気なこと考えてる場合じゃないや。
「ちょっとお散歩に行くだけよぉ。ケチケチしないのぉ♪」
あくまでも呑気な美女さん。
怖い顔したまま、朔が窓から飛び出す。
あ、朔って、変化しなくても飛べるらしいです。見たことなかったけどね。
「ちょっ!!音々っ!!」
朔の手が私に届く前に、美女さんは私ごと消えてしまった。
読んでくださってありがとうございました!
今回は全3話の予定です。
よかったらまた読んでやってくださいませ!