クロマグロ 〜発動篇〜
今作には、下ネタが含まれていますので、不快に思われたら、この場で謝罪させて頂きます。
僕は今日、体調が悪くて、学校を休むことにした。最近、雨降りが激しかったから、自己の体調管理がなってなかったようだ。
そういや、以前、学校に行くのが嫌になり、わざとズル休みしたなぁ…。あの時は、本当に、何事も嫌で仕方なかった…。
そう考えていると、ふと、あることが思い出された。
「はっ!」
僕はベッドで横になっていたが、急に立ち上がり、テレビのリモコンを握った。
「皆さん、こんにちはー!『ツンデレ料理タイム』のお時間ですー!!」
テレビをつけると、むかつくくらいに明るいアナウンサーが、キッチンに立ち挨拶をした。
昼過ぎのこの時間は、ローカル局で、いつも料理番組をやっているのだ。
そして、僕は以前、この料理番組で信じられない光景を見てしまった…。
「今日のお料理の先生は…」
と、ブラウン管でアナウンサーが料理の先生を紹介しようとしていた。
まさか、あいつか…。あいつなのか!?
そう僕が、思っていると…。
「萌川料理学校講師の海野幸先生ですー!」
あれっ?
アナウンサーが、そう言うと、ポップな音楽に合わせ、かなり可愛いエプロン姿の女の子がキッチンに現れた。
「こんにちはー!」
萌えーな、その先生は可愛く挨拶をした。
あれ、あいつは、どうしたんだ…。あの忘れもしない黒い男は…。
すると…、アナウンサーの顔が急に暗くなった。
「そして、今日のメインゲストとして、もう一人、料理の先生に来てもらいました…」
えっ!?
アナウンサーから、明るさが消えた。
ま、さ、か、!、?
「濁汁料理学校講師…、黒鮪黒陰先生です…」
アナウンサーが、そう紹介すると、ポップな音楽が合わせ、長髪の目の下のクマがヤバい奴が現れた。
奴だ!!間違いない!!あいつだ!!
僕は自分が風邪気味だったのを忘れた。
奴は、キッチンの前に立ち…。
「こんにちは…」
あの魂に穴を空ける低く暗い声が、テレビから響く。
アナウンサーは、無理して笑顔を作り、挨拶を返す。
あの萌えーな感じの海野幸先生も、可愛く挨拶を返した。その様子から、彼女は黒鮪のことは知らないようだ…。
にしても、見事なまで、女の子講師と、黒鮪は合わないな…。
「アナウンサーさん…」
黒鮪は、アナウンサーに話し掛けた。
「あっ、はい…」
無理に笑顔を作って、アナウンサーは返事をした。
「こないだの放送(『クロマグロ』参照)のおかげで、僕、生まれて初めて、ファンレターをもらいました…」
おおっ、明るい話題だ。
「ええー、本当ですか!?」
アナウンサーが、それで自然な笑顔を取り戻し、明るく返答した。
「内容のほとんどが、『地獄に堕ちろ』でしたがね…」
アナウンサーの顔が凍る。海野先生も。
「あと、宛名が『黒鮪黒影』と、『かげ』の字を『影絵』の『かげ』と間違って書いて送る人が居ます…。僕の名前の『かげ』は、『陰毛』とか『陰部』とか、いん…、ふがっ!!」
アナウンサーが、喋っている黒鮪の口をもぎ取るように掴んで黙らせた。すごい形相で…。たぶん、爪を立てている…。
海野先生は、冷ややかな視線を黒鮪に送った。
「はい、では、料理を作ります…」
いきなり入ったCMが開けると、黒鮪の口に絆創膏が貼られていた。アナウンサーさん、気持ちは解るが、掴みすぎだ…。
あれ…、アナウンサーの姿がテレビから居なくなった…。黒鮪と、海野先生しか居ない…。
なにがあった…。
「え…、今日は、海野幸先生が僕のアシスタントをしてくれるそうで…」
と、黒鮪は海野先生に目を向け言う。
黒鮪の隣に、必死で笑顔を作る海野先生が、奴のアシスタントをするのか…。あのアナウンサーさんが居ないせいか、激しく不安になった。
「はい、よろしくお願いしますー!」
明るく海野先生が、声を出すと…。
「いやぁ…、海野先生はキュートですね…」
「やだぁ、黒鮪先生、お世辞ですか?」
おおっ、よくやったぞ、黒鮪。番組が明るくなったぞ。
「お世辞では、ありませんよ…。海野先生は、可愛いです…」
「黒鮪先生ったらー」
容姿は、結構ビジュアルな黒鮪。だからか、海野先生も、ちょっとまんざらでもない様子。
いいぞ、番組が明るくなったぞー。
すると、黒鮪が…。
「でも…、深夜アニメ、『萌えッ子戦士モエサス』のホレサスの方が可愛いです…」
テレビから音声が途絶えた。
『萌えッ子戦士モエサス』とは…。
深夜帯放送のアレな内容のアレなテレビアニメーション。
知っている人は、知っている。知らない人は、知らなくていいアニメ。
このアニメの主人公、モエサスより、彼女のライバルであるホレサスの方が、ツンデレで人気なのである。
そんな、ホレサスの決め台詞…。
「貴様に、今日を萌える資格はねぇ!!」
海野先生の顔から、笑顔が消え、どことなく『エクソシスト』の憑かれた少女を思い出させる怖い顔をした。片手に、包丁があったせいか、本気で怖かった。
「さて、今日の料理は『やきそば』です…」
空気を読まず、黒鮪は話を進める。
なんで、こういう時に限って、普通にやるんだ、こいつ…。
まな板の上で、黒鮪はキャベツを切る。
その隣で、怖い表情が固定したまま喋らない海野先生が居た。頼むから、テレビで殺人をしないでくれ…。
すると…。
ザクッ!
「わっ!」
黒鮪が、声を上げた。
どうやら、キャベツを切っている最中で、親指を切ってしまったようだ。
緊急事態らしく、海野先生が慌てた。
「黒鮪先生!大丈夫ですか…」
「大丈夫です…」
黒鮪の指から、血が流れていた。
うわぁ、生々しい…。まな板に血が飛び散ってる。
「止血を!」
海野先生が、スタッフに言い掛ける。
「大丈夫です…。こんなの舐めておけば、平気です…」
そう黒鮪は言い、切った親指を口に入れた。本当に、大丈夫かよ…。
チュパッ!ズルッ!チョパッ!チョパッ!
「…」
黒鮪は切った親指を、なんか嫌な音を出して、しゃぶる…。
えっ、親指をしゃぶる時って、こんな音出るっけ…。舐める仕草も、なんか嫌だった…。
海野先生の顔は、微動だにしない。強いて言えば、片手の包丁が、今にも、黒鮪を刺しそうだった。
チョパッ!チョパッ!
その卑猥な音だけが、テレビから流れ続けた。
もう十分間、黒鮪の指しゃぶりだった。
たまに…。
「あっ…、ああ…、あっ…あっ…」
と、クロマグロが快楽の声を上げていた。
僕は立ち上がり、机から葉書を取る。そして、こう書いた。
『地獄に堕ちろ』