第1話:同窓会へ・・・
目覚し時計が鳴った。なぜこういうときの目覚し時計は姿をくらますのだろうと頭で考えていた。布団のそばにあるはずの目覚し時計なのに探っても探っても目覚し時計に触れることができなかった。しょうがないので体を起こし、音の方にまだ線のような目を向けた。
「・・・なんで棚の上にあんの?」
目覚まし時計はコンポやら書物やらが陳列されているラックの最上段にぽつんと置かれていた。
「あー、そういや・・」
そうだった。昨日の晩、明日は早く起きようとわざと目覚し時計をわざわざあんなところに置いたのだった。おかげさまで目覚し時計と昨日の僕にいっぱいくわされた朝になった。
「・・・余計なことしなきゃよかったな」
布団から這い出ると目覚まし時計を止めてカーテンを開けた。太陽はあいかわらず強すぎる光で大歓迎してくれた。
洗面台で洗顔と歯磨きを済ませ、朝食を作った。パンとブラックのコーヒーとハムエッグだ。テレビからはどっかの国の内戦の情報が流れていてコメンテーターがそれについて解説していた。まだ覚めない目でそれを見つめパンをさくさく食べていた。
「ん〜、眠い・・・」
ブラックのコーヒーもまだ眠気には効果が現れず寝ようと思えば椅子に掛けたままでも寝れるほどだった。僕はパンを飲むようにして食べ終え、コーヒーを一気に飲んで朝食を終えた。そして田舎に帰る仕度をし始めた。
田舎から都会に状況してきてもう8年がたっていた。別に都会へのあこがれがあったわけじゃなかった。ただ、このまま田舎で働き、適当に就職して適当に結婚して適当に子供を産んで適当に死んでいくのは避けたかった。そう思うとやはり都会になんらかの期待があったのか、今でも考えてしまうものだった。僕の田舎と都会の考えはともかく、結局都会での生活は閉塞感でいっぱいだった。休まる日がなかった。かといって田舎に帰る決心もなく、ずるずるここまでやってきたのだった。
そんな折だった。田舎の旧友から一通の手紙が届いた。普段あまりポストに手紙が入る事はないので、なんだかちょっとうれしかった。手紙の内容は高校の同窓会の開催だった。日時や場所が記載されていた後に手書きで「今年はちゃんと来いよ!みんなお前に会いたがってるぞ」と書かれていてちょっと面食らった。僕は4年前の同窓会には出なかった。仕事が沢山あったし、なによりこんな疲れきった顔で会えるものかと思っていた。もうとっくに忘れられていると思ったのに・・・
返事を出すのに3日かかった。いろいろ考えていた。今あったら皆になんて言われるだろうとか、クラスにどんなやつがいたかとか、そんなことだった。結局同窓会に出ることにして、その旨を返事にした。正直、田舎の連中に都会での生活や愚痴をたれて普段は得ることのできない優劣な気分を味わいたかった。そうすることで不幸自慢するほど僕は大変なんだよ、田舎で暮らしているやつらには分からないだろうけどなどと思いたかったのかもしれない。最終的にはそんな不純な動機が僕を田舎の同窓会へ向かう決心を固めさした。
でも、正直怖かった。そんなこと思うようにしていても、変わりきってしまった僕を見て皆が哀れむような目で見られたら、同情されたりしたらと思うと怖くて仕方なかった。
結局、僕は無機質な社会で育て上げた哀れな自尊心と旧友達をさげすむ気持ちと弱い心を携えて田舎にむかうことになったのだった。
とりあえず田舎へ帰る準備は簡単に終わった。有給は3日だったのでそう長居はできなかったし、する気もなかった。有給をとるときにも上司に文句を言われつづけたのを思い出してため息をついた。
新幹線が出るまでまだ時間がありまっていた。かといって外に出る気分でもないので卒業アルバムを見ることにした。卒業アルバムは埃まみれになっていた。田舎からこっちに来るのに、寂しいだろうから一応持ってきたのだが、結局最初だけでそれ以降、今日まで開くことはなかった。
パラパラとめくると自分のクラスのページになった。そこにはもうどこにもいないかつての自分がぎこちなく笑っていた。そうだ、なかなか笑顔ができないので友達がカメラマンの後ろで笑わせてきたのを思い出した。だからなんか我慢したような笑顔になってるんだ。僕は笑ってしまった。
手紙を出してきた旧友はうまく笑っていた。妨害する前にOKだった。僕もみんなも「つまんねー」といったのを思い出した。
そのまま自分のクラスを見ていると一人の女の子に目が止まった。その子もなんだか我慢したような笑顔をレンズに収められていた。
「なつかしいな・・・元気かな」
その子は小、中、高校時代に仲の良かった女の子だった。恋人ではないが友達以上といったところか。笑顔がかわいい女の子だった。決して美人ではないが周囲の人間を元気にするようなそんな子だった。よく遊んだし、よく話した仲だった。そういえばこっちに来るときも見送りに来ていた。目に涙を浮かべて「しょっちゅう戻ってきてね」としきりに言っていた。僕は「すぐに戻ってくるよ。連休があったらすぐに。」・・・本気でそう思っていた。結局、僕は戻らなかった・・・
そういえば・・・
彼女が最後に言った言葉を思い出した。
「ねえ、向こうについたら制服の胸ポケット見て・・・それと、忘れないでね、私のこと」
制服の胸ポケット・・・?そういえばこっちにくるときに持ってったんだった。僕は卒業アルバムを膝からどかして、クローゼットに向かった。しかし、クローゼットの中に制服はなかった。確かに持ってきたはずなのに。目を下に向けると未開封のダンボールがあった。僕は急いで引っ張り出し、ガムテープをはがした。中には高校時代の物があった。
「意外と未練がましかったんだな・・・」
制服を探しながら思った。制服はすぐに見つかった。そこのほうにたたまずに丸めてあった。埃やらなんやらがいっぱいできたなかったのでベランダではたいた。ソファーに座り制服の胸ポケットを探ると一枚の手紙が出てきた。なんだかあの頃の匂いがしたような気がした。一気に懐かしさの気持ちで胸がいっぱいになった。手も震えていた。
「いつのまにこんなもの・・・」
僕はおそるおそる緊張してあの時の香りがする彼女の手紙を開いた・・・・