B-001
街が赤と緑のクリスマスカラーに染められようとする12月。
私たちの頭の中には赤と白しか色がなかった。
それも、「勝利」を意味する赤なのか、「敗北」を意味する白なのか。
はっきりと別れた二色で今私たちの未来が左右されるのだから。
「なんだか自覚ないよね、」
物足りなさそうに言うのは、黒髪ストレートにメガネをかけた彼女である。
彼女の一言に一人切羽詰まっている状況にもかかわらず、同意の意を示す。
「なんだか、学校に来てる気がしないもんね。」
笑って言う愛里に、黒髪の彼女は笑って言う。
「だって、アンタは頭いいじゃない?
私はもう手遅れだと知っての、自覚なし。」
二人がそんな会話をしている間にも
教室ではシャーペンのかちかちという音が絶えず響いている。
そう――――――――――――――――
彼女たち含め、今中学三年生は受験期に突入しようとしているのである。
「うちはもー無理っ!」
二人の会話に割って入ってきたのは前髪をピンで留めた活発そうな女子生徒、鈴木杏奈である。
「いいよね、愛里もカエデも。
二人とも志望校余裕でしょ?
うちなんていまだに担任からいろいろ言われるもん。」
「そんな事ないって。だって私、高校は県外に引っ越すついでだからさ。」
黒髪の彼女…梶野カエデは、はははと笑いながら返す。
「愛里の方が私よりレベル高いところいくでしょう?」
「愛ちゃん頭いいもんね!」
顔をぐいぐいと近づけて愛里に迫る二人に
愛里はなんていったらいいものかと迷いながらも正直に話すことを決めた。
「いちお…その…票希高校…行こうかなとかって。」
ぼそっと言った愛里の一言が聞こえなかったのか
二人は沈黙して愛里を見つめた。
しかし、それもつかの間、他のクラスメイトに明らかに迷惑であろう声量で
「すっっっっっごおおおおおおおおおおい!!!!」
彼女たちは叫んだのであった。
票希高校と言えば、県内ではレベルトップの高校である。
最近では県外からの進学者も多く、愛里達の住む県では難易度が最も高い。
生真面目な生徒だったせいか、テストの点がさほど良くなくても、
周囲のクラスメイトが愛里に対する評価は「優等生」というものであった。
学校では学年首位であったわけでもなかったにも関わらずこの高校を選んだのは、
知り合いと離れた環境で自分を試す事に愛里が憧れていたからかも知れない。
だからこそ、この高校に懸ける熱意は誰よりもあつく、
そして何より自分を追い込むまでの状況に立っているのであった。
クリスマスの鈴の音がどこか遠くに感じ始めるその頃。
私はどんな状況なんだろうと
カエデと杏奈の二人にちやほやされながら、愛里はただ考えていた。