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ケン=ポー、お前だったのか。

作者: なかなか
掲載日:2026/06/18

守ってくれていたのは。

ハナが暮らすこの国は、小さな小さな島国である。水はあるけど資源のない、地震だ台風だと災害の多いこの国は、ざっくり100年くらい前、はちゃめちゃに戦争をしていた。

えっちらおっちら海を超えて、あっちにちょっかいをかけ、こっちにちょっかいをかけ、なまじ強かったもんだから、ちょこちょこ勝ってはぶくぶくと肥え太った。みんなして勝ちに目が眩んで、積み上がる死体と恨み節に目を瞑って耳を塞いで、そして調子に乗って戦い続け、ある日とうとう、大負けした。

とんでもない爆弾を二個も落とされて、何十年も続く呪いのような病を背負って、何百何千の人が痛みに呻いて、それよりもっとたくさんの炭のような死体が転がって、そうしてやっと、この国は止まった。

ごめんなさい、負けました。そう言って、焼け野原の瓦礫と死体を片付けて、えっちらおっちら頑張って、ハナ達の今の暮らしがある。

喧嘩は手を出したらもう負けなんだよ、と母は言った。暴力で生まれるものは何もない、と先生は言った。殴り返されるつもりで殴れ、と父は言って母に怒られた。

ハナは喧嘩なんかしないし、暴力は嫌いだし、殴るのも殴られるのも真っ平ごめんだ。穏やかに、能天気に、のほほんと生きてきた。難しいことはよくわかんないし、ニュースは適当に流し見て、クマに怯えたりサッカーを応援したり、政治だの外交だの、そんなのはニュースが流したのをホォホォと聞いてるだけだった。


だからだろうか。ハナがそんなんだったから、ろくすっぽ考えずに決めたから、だからこんなことになったんだろうか。

だって、と言い訳してみる。アップデートしようって、みんな言ってた。ニュースで、スーツを着た偉そうな人が、戦争に負けて作った憲法を新しくしよう、と言ってた。動画の途中に差し込まれる広告で、外国に頼らず軍隊を持たなきゃ危ないと言ってた。街中の看板で、SNSで、ラジオで、みんなが新しくしよう、よくしようって言ってた。だから、良いことだって、中身は碌に知らないけど、新しいのはいいことだって、古いならアップデートしなきゃって、だってみんなそう言ってたからって、それで、ハナは、賛成に投票した。

よくわかんないから行ってない、という友達に、私行ったよ、とちょっと自慢げに言った。政治に参加したよって、ちょっと賢くなったつもりで、国民の義務だし、と偉そうなことを言った。自分が何を変えたか、どうなるか、知りもしないで。駅前に立ってた人たちは怖いからよく見なかった。デモも怖くて避けて歩いた。なんであんなに声を上げてるか、聞く耳なんか持たなかった。


転がり落ちるみたいに悪くなっていった。でもたぶん、ハナが知らなかっただけで、ずっとちょっとずつ悪くなってたんだろう。だから、デモの人たちはあんなに必死に叫んでたんだろう。いまさらそんなの、わかったって遅いけど。

軍隊を持って、すぐに戦争になった。近くの国に派遣して、そのまま巻き込まれるみたいに戦争になった。他の国は止めてくれなかった。だって自分たちで決めたから。軍隊を持つって、武力に頼るって、この国が決めたから。

人が足りないって、公務員が軍隊に連れてかれた。ハナが知らない間に、そういう法律が出来たらしかった。ハナみたいに知らずに名前を書いたのか、知ってて名前を書いたのか、どっちでも関係なしに、役所の人も警察官も、戦争に攫われてった。

役所の手続きは遅くなって警察も消防もろくにいないから治安も悪くて、それでも戦争は終わらなくて、今度は会社に声がかかった。若くて、健康ならいいって。病気かどうか、どんな宗教か、そういうのは全部筒抜けだった。これもハナが知らないうちに、そういう法律が出来てたらしかった。その頃にはもう、断ったら捕まる法律も出来てて、ハナは自分宛のメールを見つめて、呆然とするしかなかった。


わかんないから行かなかった、と言っていた友だちが、暗い目で整列している。ハナもその横に並んだ。なんで、とボソッと言われた。なんで賛成したの、アンタのせいよ、と。ハナは泣きたいのを堪えて、アンタだって、と返した。アンタだって、反対しなかったじゃん。わかんないって、放り投げたんじゃん。おんなじでしょ。おんなじ、と暗い声が繰り返して、そうだよ、とハナが涙交じりに返す。ボソボソ喋る二人を、軍服の男が低く怒鳴りつけた。ビクッと身を寄せ合って、また「気をつけ!」と声が飛ぶ。ハナはとうとう涙をこぼしながら、震える足で並びなおす。これからどこにいくのか、何をするのか、なんとなくわかっている。わかっているけど、信じたくなかった。

なんで、と思う。いまさらだけど、もう遅いけど、なんで、どうして、変えちゃったんだろう。よく調べもせず考えもせず、なんとなく賛成なんてしちゃったんだろう。だってみんな言ってたから、あんなに広告してたから、言い訳したって、そんなのもう何にもならなかった。ハナが決めた。ハナが変えた。変えたくないって言ってた人たちも、もう変わったからどうしようもない。銃声の響く異国に送られながら、ハナはずっと、どうして、と泣き続けた。




憲法、お前だったのか。私を守ってくれてたのは。戦争反対!

なんだこれと思った方、国民投票法で検索してみてください。陰謀論だと思った方、改憲草案見てみてください。わかりやすくまとまったものも出てきます。ぜーんぶ嘘だといいなー!起きたらどうにかなってないかなー!ならないなー!で書きました。

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