表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界水先案内人 不遇職ナビゲーターの奇跡的な軌跡』  作者: アマ研


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/26

第二十六話 ―神の断罪、甘味の契約―

 


 平穏は、一瞬の咆哮によって引き裂かれた。

 街の喧騒からわずかに離れた《チャーリーのチョコレート農場》。バレンシュタインDAYを支える大量生産ラインを見下ろしながら、“死”の具現が降臨する。


「……汚らわしい。これは、バレンシュタインへの冒涜だ」


 甘い香りに満ちた空間。

 だが死神にとってそれは、かつて人間だった頃に口にした“たった一粒の記憶”を抉る呪いに等しかった。


 死神デス・カルト。

 永遠の命を求めてアンデッドへ堕ち、二百年の孤独な渇愛の果てに“死”そのものへ至った男。神格から漏れ出る殺気は物理的な衝撃波となり、都市の空気を凍結させた。


 その瞬間、宿屋の四人の空気が変わる。


「……やれやれ。デザートの時間は終わりか」

 武蔵が愛刀の鯉口を切る。


「壁は、立つためにある」

 鉄壁が黄金の盾を構える。


「面倒事は、影で終わらせるでござる」

 半蔵はすでに輪郭を失い、


 聖女の瞳には、慈悲なき慈愛が灯った。


 彼らはこの街を気に入っている。

 この穏やかな日常を壊すというのなら――相手が神であろうと、ただの“獲物”だ。


 四人は風となって農場へ翔けた。

 ノアの足取りは緩慢だったが、その瞳だけは冷徹にアンデッドの気配を捉えていた。


 ⸻


 ノアが辿り着いた時、そこは既に理の壊れた戦場と化していた。


「あはははは! 実に面白い! 何度斬っても死なぬ神か!」

 武蔵の刃が神速で死神を刻む。


「これほど飽きぬ標的は初めてにござる……」

 半蔵が影から核を穿つ。


 だが死神は霧のように崩れ、数秒後には再構成される。

 既に百を超える“殺害”が積み重なっていた。


「ノア、来ちゃダメ……!」

 聖女の叫び。額には見たこともない汗が滲んでいる。


 彼女の《極光》は神格すら消し飛ばす絶対の浄化。

 それでも死神は消えない。“死”は消滅しても“死”として在り続ける。


「もう……二十回は殺されたわ……」


 四人は既に二十度、神の鎌で命を断たれている。

 聖女の不老不死、鉄壁の概念防御、そして広域蘇生。

 その三重奇跡がなければ初手で全滅していた。


 魔力吸収の加護で一日は戦える。

 だがそれは――負けが確定している千日手に過ぎない。


 鉄壁は浄化の十字を刻み、秘蔵の魔道具を投げ尽くす。

 武蔵と半蔵は戦闘を楽しみ、聖女と鉄壁の瞳には終わりなき地獄への疲労が宿る。


「僕が……契約、しなきゃ」


 ノアはポケットの中で、そっと手を握り締めた。


 ⸻


 少年が戦場の中央へ歩み出る。

 死神の鎌が、喉元へ振り下ろされ――止まった。


「ノア!!」


 聖女の悲鳴。

 だがノアは逃げない。


「……これ、あげる」


 差し出されたのは、手作りのチョコレート。


 殺気が消えた。

 骨ばった指が、わずかに震える。


 死神は理解した。

 この一粒に宿る味こそ、自分が二百年追い求めた“あの日の続き”であると。


 鎌が消える。

 一粒を口に含んだ瞬間、神の眼窩から透明な雫が落ちた。


 ⸻


 脳内に、無機質な福音が響く。


【神格:デス・カルトとの契約を確認】

【供物受理。適正率:100%】

【ジョブ《グリモア・ポーター》に固定】


 黄金の光がノアを包む。

 それは力の獲得ではない。世界の神秘と死を“預かる者”の証。


 死神は静かに影へ溶け、ノアの背後に座した。

 まるで主を待つ巨大な黒犬のように。


「……お口に、合った?」


 照れた笑み。

 死神は深く、静かに頷く。


 こうして世界で最も凄惨で、

 そして最も静かな契約が結ばれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ