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『異世界水先案内人 不遇職ナビゲーターの奇跡的な軌跡』  作者: アマ研


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第二十四話 ―不純物の乱入、深淵の楔―

 


 カインとルークの精神が、絶望の深淵へと砕け落ちようとした、その瞬間。

「――間に合った! あそこだ!」

 淀んだ路地の空気を切り裂いたのは、場違いなほど明るく、無機質な正義感に満ちた声だった。

 現れたのは、C級冒険者チーム――五人の転生者で構成された、自称『聖光の救済者』。


 半蔵の情報網によれば、彼らもまた「同郷」の転生者。

 だが、戦国という死線を潜り抜けてきた半蔵とは、生きてきた時代が違う。

 血の匂いを知らぬ時代を生き、この異世界をゲームのように享受する者たち。

 この場に漂う凄惨な血臭も、死の恐怖も、彼らにとっては英雄譚を彩る一頁に過ぎない。


「酷い……! すぐに助けるわ、《完治癒フル・ヒーリング》!」

 癒し手・サクラが杖を掲げると、白銀の眩光が路地を塗り潰した。

 それは救いではない。

 裂傷を無理やり塞ぎ、粉砕された骨を繋ぎ合わせ、死の色に沈んだ肌へ生気をねじ込む――死ぬことすら許さぬ、残酷なまでの強制修復。


 だが、光が強ければ強いほど、影はより深く、より濃くなる。


 半蔵の足元から伸びた影が、癒しの光に煽られて鎌首をもたげた。

 触手のようにうねり、倒れ伏す二人の無防備に開いた口腔へと音もなく滑り込む。


「――ズルッ……、ごくり」


 喉が異様に上下する。

 その内腑には、決して肉体と混じり合わぬ「何か」が居座り、臓器と静かに共生を始めた。


「……今、何か動かなかったか?」

 斥候のケンタが眉をひそめたが、その直感はリーダー・サトシの動きに掻き消された。

 サトシが剣を抜き、踏み出した時――半蔵はすでに、その背後に立っていた。


『――因みに。その殺気は、私に向けられたものか?』


 背筋を凍らせる静かな声が、掲げられた正義に問いを投げる。


『貴公らの目には、弱者が悪者に殺されかけているように映ったか。……ならば、この二人が誰かを殺そうとして返り討ちに遭った可能性は考えぬのか? 同じ景色を見ていても、殺気を向ける相手を違えれば、物語の配役など容易に入れ替わる』


 サトシは毒気を抜かれたように、千里眼を持つ仲間、千夏を振り返る。

「……千夏、どうだ?」

「……私は戦闘の気配がしてからしか見てない。でも、どちらが悪かは判断できない。見た目だけなら、全員悪人には見えなかったわ」


 サトシが渋々と剣を鞘に収めると、カインがゆっくりと上体を起こした。

 その腹の底では、飲み込んだ影が臓器の一部のように静かに潜んでいる。


「ああ……大丈夫だ。助かった、ありがとう……」


 口角だけが不自然に吊り上がり、瞳は虚空を見つめたまま。

 誰も、彼の目を見てはいなかった。


 転生者たちは互いの肩を叩き、救済を成し遂げた達成感に酔いしれる。

 彼らの足元で、影が月光の向きを無視して長く伸びていた。

 宿主と同じ鼓動で、内なる影もまた、静かに脈打つ。


『興は尽きた。私は行くが、構わないかね?』


 サトシは答えなかった。

 背後を取られた瞬間に悟ったのだ。五人がかりでも、この男には届かないと。


 この日を境に、彼らは自らの権能に胡坐をかくことなく、さらなる名声を求めて邁進することになる。

 この時出会った「半蔵ではない姿の半蔵」と、再び肩を並べる日が来るとも知らず。

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