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『異世界水先案内人 不遇職ナビゲーターの奇跡的な軌跡』  作者: アマ研


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第ニ十話 ―侵食する影―

 


 男の喉が「ゴクリ」と不自然に鳴り、それと同時に半蔵の姿が掻き消えた。

 直後、人形のように硬直していた男の肉体が、内側から突き上げられるように激しく波打ち始める。

「……ッ、ガ、ギギ……ッ、ガゴッ!」

 関節がパキパキと嫌な音を立てて弾け、男の口からは糸を引くような粘り気のある吐息が漏れ出した。

「……アー。ア、ァー……」

 掠れた声で喉の調子を確かめるように呟くと、白目を剥いていた男の瞳に、不気味なほど冷徹な知性が宿る。

「ふむ。他人の身体を御すのは久方ぶりゆえ、少々手こずりました」

 男の唇から溢れたのは、紛れもない半蔵の、あの淡々とした声音だった。彼は男の指先を一つ一つ動かし、馴染ませるように掌を握り込む。

「王子を殺せば、この国はサリバン王国から管理不足の責任を問われる。その賠償として、このダンジョンの資源と侵入権を差し出す……。そんな不当な契約を呑ませるのが、連中の真の狙いでしょう」

「……なるほどな。最初から、利権を強引に毟り取るための計画だったか」

 鉄壁が忌々しげに吐き捨てる。半蔵は男の身体を自在に操り、服の乱れを整えながら、闇の深淵を見据えた。

「このまま『王子は死んだ』と虚偽の報告を上げ、……その上で、依頼人を含め根こそぎにしましょう。……ああ、それと、二階層に伏兵が配置されているようですが、私が片付けておきます」

 半蔵はそう言い残すと、男の口を大きく開かせ、その中から銀色に鈍く光る腕輪を吐き出した。

「一応、王子にはこの腕輪で変装を。これを嵌めれば姿形は女のそれとなり、周囲の認識も書き換わります」

 ノアがその腕輪を拾い上げると、半蔵は満足げに頷き、男の肉体を深く闇の中へと沈ませていく。

「……え、そのまま一人で行くんですか……?」

 ノアが懸念を口にするより早く、男の皮を被った半蔵は音もなく背を向けた。

「それでは、また明日。……ギルドで」

 男の足取りのまま、影に溶けるように消えていく。

 残されたのは、重苦しい沈黙が漂う通路と、冷静に事態を咀嚼するノア、そして戦士の顔に戻った鉄壁たち。手元の腕輪を見つめ、ノアは静かにその事実を噛みしめた。

「……王子一人の命をチップに、迷宮の全てを買い叩くつもりだったんですね」

 暗い迷宮の底で蠢いていたのは、単なる殺意ではない。国家を喰らうために仕掛けられた、巨大な利権の罠だった。

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