第十九話 ―合流と真実―
迷宮の薄暗い通路を抜け、ようやくノアたちの元へ辿り着いた。
そこには、奇妙な光景が広がっていた。
先ほどまで死神の如き威圧感を放っていた「首刈り」が、どういう風の吹き回しか武蔵を「師」と仰ぎ、殊勝な面持ちで護衛に甘んじている。かつての冷酷な影は霧散し、その後ろでは三人の取り巻きが、まるで主人の機嫌を伺うようにぺこぺこと頭を下げ続けていた。
周囲を軽く見渡すが、魔物の姿は一匹としてない。
ただ、胃の腑を掻き回すような濃密な血の匂いだけが澱んでいる。死体も、肉片も、断末魔の痕跡すら残っていない。……おそらく、ノアがすべてを「喰らい」、己の影へと引きずり込んだのだろう。
道中で気絶していたヒーラーも意識を取り戻し、今は聖女の傍らで甲斐甲斐しく立ち働いている。
「聖女」――その名は、迷宮に関わる癒し手たちの間で、一つの「到達点」として語り継がれる伝説だ。とっくに隠居したはずの彼女だが、不老不死の如き美貌と神業を持つヒーラーが、この世にそう何人もいるはずがない。
「……さて」
鉄壁が重苦しい溜息を吐き、重い口を開いた。
「最悪、これを聞けば君たちも消される対象になる。いや、この場に居合わせた時点で、すでに運命共同体か。……責任は持てんが、それでも『真実』を望むか?」
冒険者たちは、まだ止まらぬ震えを抑え込むように拳を握りしめた。瞳には戦慄が張り付いているが、同時に「救われた」という微かな安堵も混じっている。
聖女がそっと手を翳すと、柔らかな光が満ち、張り詰めた空気を解きほぐしていく。
「怯えることはありません。すべてを、紐解いていきましょう」
その隣で、ノアは何も言わず、ただ深淵のような眼差しで周囲を睥睨している。この先に待ち受けるのが破滅であろうと、彼らはもう、進む以外の選択肢を持ち合わせていない。
誰もが固唾を呑み、真実が語られるのを待つ。
俺たちも命を張って冒険者をやっているんだ。今回、これほどの手痛い奇襲を受けた以上、敵の正体も知らずに自衛などできはしない。どのみち、この泥沼からは逃げられないのだ。
隣に立つ王子もまた、自らの命が狙われる「理由」を渇望するように前を見据えている。
覚悟は決まった。
「それじゃあ始めようか。半蔵、任せた。こいつの身体に聞いてくれ」
そう告げた瞬間だった。
目出し帽の男の影から這い出した半蔵が、震える目出し帽の男の前に立つ。
「ヨイショっと」
まるで近所の散歩にでも出るような軽い調子で口ずさむと、半蔵はそのまま、男の口を両手で開き口の中へと入っていった。
「…………」
その場に、言いようのない沈黙が流れる。
ノアですら、あまりの光景にキョトンとして尋ねそうになった。
(……え。尋問って、そうやるんだっけ?)
あらゆる遺体を弄んできたノアをして、理解の範疇を超えた手法。
男の口内へと消えていく半蔵の後ろ姿を見送りながら、ノアはただ、かつてないほどの困惑に包まれていた。
静まり返った迷宮に、男の喉が「ゴクリ」と鳴る音だけが、シュールに響き渡った。




