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『異世界水先案内人 不遇職ナビゲーターの奇跡的な軌跡』  作者: アマ研


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第十六話 ―消耗戦―

 


 残る三人は、ただの雑兵ではなかった。

 元B級冒険者。元A級の首刈りほどの化け物ではないが、死線を幾度も潜り抜けてきた熟練の動きだ。

 初動は鋭く、剣筋は正確。

 回避は最短距離を通り、呼吸は最小限。

 アンデッドの間合いをミリ単位で見切り、急所だけを断ち、致命傷だけを避け続ける。

 ――だが、相手は死なない。

 斬っても起き上がり、砕いても這い寄る。

 疲れない。怯まない。そして、呼吸の音がしない。

 最初の三十分は、まだ軽口を叩く余裕があった。

 だが今は、一歩の遅れが即座に死へと直結する、薄氷の上を走るような死闘だ。

 全身を嫌な汗が濡らし、肺が焼けるように熱い。

 攻撃は当たっている。だが、意味がない。

 削られているのは、アンデッドの肉ではなく、彼らの生存時間だった。

 対して、死者たちは。

 一定の速度、一定の圧。機械的な歩調で、ただ静かに包囲を狭めていく。

 終わりの見えない反復運動。それが最も、人間の精神を摩耗させる。

 ノアが、静かに手を上げた。

「……石を拾って」

 指示に従い、テイムモンスターたちが瓦礫を掴む。

「アンデッドに当たっても構わない――ただ、あいつらの顔の真横に投げて」

 石が飛ぶ。

 殺意のない、稚拙な投擲。

 だが、視界の端から顔面へと飛来する物体に、脳が勝手に反応する。

「反射」は、理性よりも速い。

 優れた戦士であればあるほど、飛来物に対する回避行動は自動化されている。

 石を避けるために、肩が傾き、首が引け、重心がわずか数センチずれる。

 致命的な隙ではない。だが、無視はできない。

 鍛えられた肉体ほど止まれず、優れた神経ほど、この「ノイズ」に過剰反応してしまう。

 そして――そのコンマ数秒のズレが、死角を生む。

「石を避ける形」を強制された瞬間、アンデッドの錆びた刃が届く。

 技量が高いからこそ、身体に染み付いた正解が罠になる。

 三人の顔から、余裕が完全に消え失せた。

 その瞬間。

 彼らの足元の影が、泥のように沸き立った。

 床が悲鳴を上げ、空間が裂ける。

「マザー」が、地獄の底から這い出した。

 巨大な顎。数えきれないほどの眼球。

 理性の欠片もない咆哮。

 それは鼓膜ではなく、内臓を直接握りつぶすような震動だった。

 三人の動きが止まる。

 恐怖、あるいは脳の処理限界。

 ほんの一瞬。だが、この場では永遠に等しい隙。

 そこから先は、もはや戦闘ではなかった。

 ただの処理。効率的な消化試合。

 武蔵は静かに腕を組み、半蔵は周囲を未だに警戒中。

 ノアは見ていた。

 回避の癖。疲労による反応の遅延。精神が崩壊する瞬間の瞳の揺らぎ。

 彼はそれを、冷徹に観察し、記録し、蓄積していく。

 十歳の少年にしては――あまりにも、効率的な「戦い」を知りすぎていた。


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