第十五話 ―最適化―
「次は――俺の番だな」
武蔵が、わずかに軸足を捻る。
床に伝わる力が、足首、膝、股関節へと滑らかに昇る。腰が回り、背骨がしなり、肩がほどける。肘、手首、指先。
一本の線のように、エネルギーが通る。
放たれた拳は、大振りでも速射でもない。ただ、寸分の無駄もなく――届いた。
「こっちは得意じゃねぇが……発勁くらいなら撃てるんだな」
乾いた衝突音。
首刈りの身体が、弾けるように後方へ吹き飛ぶ。壁に叩きつけられ、石が砕け、赤い飛沫が散る。
「一回見たことがある武芸はな……」
武蔵は拳をぶらりと下ろす。
「大体、似たような事は出来る」
首刈りは崩れ落ち、血を吐いた。立ち上がろうとして、膝が折れる。
その光景に、残った犯罪者たちが一斉に動く。狙いは一つ――ノア。
だが、四人が途中で止まる。
足が動かない。腕も、指も、呼吸すら重い。
見えない何かが、全身に絡みついている。
半蔵は視線すら向けていない。だが指先だけが、微かに揺れる。
細く、光も反射しない糸。既に拘束は終わっていた。
残るは三人。
武蔵が軽く顎をしゃくる。
「ノア。対人戦の練習だ。好きにやってみな」
ノアは頷きもせず、前へ出る。
足元に散らばる骨片。血肉。砕けた残骸。
それらが、震えた。
消滅させられたはずのアンデット軍団が、再び起き上がる。だが先ほどとは違う。
吹き飛んだ血肉が再結合し、骨の密度が増し、数は減っているのに――圧が増している。
明らかに“質”が上がっていた。
粉微塵にされ、再構成される過程で不要な部分が削ぎ落とされ、最適化されたかのように。
高位のアンデットが、混じっている。
さらに、後方に整列したテイムモンスターたち。ゴブリンの手には、粗末ではない剣。革鎧。小さな盾。
――装備している。
いつの間に。
ノアが違和感を覚えるより早く、
弦の音が鳴った。
スケルトンが弓を放つ。
かつては錆びた剣一本しか持っていなかった個体。今は兜、鎧、盾、剣、そして弓。
さらに――
腕が四本に増えた個体が混じっている。
二本で盾と剣を構え、残りの二本で弓を引く。
骨が軋む音が、整然と重なる。
迷宮の空気が変わる。
これは再召喚ではない。進化に近い再編成。
ノアの軍勢は、さきほどよりも少なく、だが確実に――強くなっていた。




