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『異世界水先案内人 不遇職ナビゲーターの奇跡的な軌跡』  作者: アマ研


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第十二話 ―悪意の匂い―

 


 通路に積み重なった死骸が、蠢いた。


 骨が軋み、肉が裂け、黒い影が縫い合わされる。

 ノアは指をわずかに動かすだけで、崩れた屍を再び立ち上がらせた。

 倒したはずの群れが、今度は味方として整列する。


 さらに――空間が歪む。


 裂け目の奥から這い出してきたのは、かつて屠った“母”の影。

 肥大した腹部、無数の眼、理性なき純粋な殺意。

 迷宮の温度が、一段落ちる。


 ノアは命じない。

 ただ、そこに在ることを許す。


 殺意しか持たぬ怪物は咆哮と共に前へ出て、

 知性ある魔物たちは一瞬だけ逡巡し――理解する。


 勝てない。

 この場は既に、別の王の庭だと。


 知性を持つ個体ほど静かに膝を折り、

 次の瞬間には隣の仲間へ牙を向けていた。

 同族同士の衝突が始まり、戦場の色が変わる。


 だが――それでもなお。


 理性も誇りもない下級種までもが、

 狂気じみた執着で突進してくる。


 ノアの眉が、わずかに動く。


「……多い」


 恐慌ではない。縄張りでもない。

 底から煽られている。


 半蔵が一度だけ、空気を吸った。


「臭うな」


 血でも腐臭でもない。

 薄く、だが粘りつく刺激。


「活性化の薬だ。迷宮全体に撒かれている」


 武蔵が鼻で笑う。


「トレインは事故じゃねぇな」


 ノアの脳裏に過る光景。

 場違いなほど整った鎧。

 磨かれた装飾。

 明らかに“守られる側”の人間が、一人だけ混じっていた。


 囮か。標的か。

 あるいは――


「狩り場か」


 呟いた瞬間、前線の圧力が急激に軽くなる。

 軍勢が大半を片付けた証だった。


 そして、異変が起きる。


 風が裂けた。


 一直線に飛来する矢。

 ノアの頬へ到達する寸前――


 影が、横切った。


 乾いた音。


 ノアの視界の端に、二本の指が映る。

 人差し指と中指。その間に、矢。


 半蔵が、そこに立っていた。


 いつ動いたのか分からない。

 足音も、衣擦れもない。

 ただ結果だけが残る。


 鏃が、微かに震えている。


 半蔵は矢を一瞥し、視線だけを通路の奥へ滑らせる。

 折らない。投げ返しもしない。

 存在を許容しない者の無関心。


 瓦礫の陰から、八人の男が現れる。


 鎧は不揃い。

 だが武器だけは新しい。

 目は濁り、口元だけが笑っている。


 迷宮の獣ではない。

 人間の悪意だった。

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