6 魔法の庭でプロポーズ
R15注意
「ジーナ、俺と番になってくれる?」
リビングのソファの上で抱き合い、長年の思いが報われるような甘い口付けを続けていると、キスの合間にこちらを見つめながらカインが尋ねてきた。
「うん! 番になる!」
間髪入れずに答えた瞬間、周囲の光景が薔薇の咲き乱れるリビングではなくて、この家の寝室に変わった。
「瞬間移動。魔法だよ」
驚くジーナに嬉しそうな声のカインが説明する。ソファに座っていた状態からそのままベッドに移ったジーナを、カインが優しく押し倒した。
「ジーナ、愛してるよ」
ジーナはカインに求められることが嬉しかった。
「……俺ね、銃騎士隊に入って貴婦人たちの護衛任務をするようになってから、何度も何度も媚薬を盛られたんだ」
「び、媚薬!」
ジーナは驚いて、大好きで最愛で大切な大切なカインがもう既に他の女性と経験済みなのかと頭をよぎって涙目になった。カインは妖しい魅力を放つ綺麗すぎる容貌をしているので、狙われたのもわからなくはない。しかし冷静に考えれば、獣人は通常ただ一人の番を愛するので、そんなわけはない。
「だけど、体質? かな。最初はクラクラしたけど、俺、媚薬成分を体内で分解したらしくて、おかしなことにはならなかったから大丈夫だよ。だけど何だか、その後から俺の涙とか汗とか、つまり体液が、媚薬成分を含んでるみたいになっちゃったんだ」
(何それっ……)
ジーナは『つまり想像上の淫魔みたくなっちゃったってことーー⁈』と尋ねたかったが、上手く喋れなかった。
「いつもは訓練中に汗とか飛んで他の人に迷惑かけないように、魔法で体液の成分変えてるけど、今だけは特別。女の人は初めては痛いって聞くけど、俺、ジーナが死にかけた時みたいに、痛い思いをするのは嫌なんだ。絶対に――」
「絶対に――」と宣言した通りに、カインは執拗で、慎重だった。
カインの目が「獲物を狩る獰猛な獣の目」みたいになっている。
「ジーナ、愛してる。一生守るから」
ジーナが「うん」と言って頷くと、カインが手を動かして彼女の手の平に重ね、恋人つなぎにしてギュッと強く握ってきた。
「全部もらうね」
カインの涙や表情が綺麗すぎて、ジーナは美形の破壊力凄まじすぎると思った。
カインが自分の中にいると思うだけで胸がいっぱいになる。
ジーナはカインとお互いの身体が溶けて、完全に一つになったような気がした。
(ずっと一緒。もう離れない――)
ジーナは娼婦になるつもりだったが、身体を捧げる相手がずっと最愛のカイン一人だけなら、それは幸せなことかもと思った。
庭には緑色の植物が茂り、多彩な種類の花々が満開に咲いているが、特に温室の中では数種類の薔薇が多く咲き乱れていた。
「魔法で一年中咲くようにしておく」とカインは言っていた。
本日、ジーナの愛する人は銃騎士隊の仕事で家を空けているが、温室の薔薇や薬草に水をやる彼女の肩には、小さな鳥がちょこんと乗っている。その『鳥』を通して、彼はいつでも彼女のそばにいる。
土属性の魔法使いであるカインは植物を育てるのが得意で――ついでに土を操り地震を起こすのも得意で、セルゲイの家で起こった摩訶不思議な地震もカインの仕業と判明――、緑に囲まれた家で二人は暮らしていた。夜になると娼婦の仕事も続行中だが、昼間のジーナは空いた時間で、カインが魔法で生み出した新種の植物を研究していて、何か新商品を生み出し、それを目玉に商売を再開できないかと模索中だった。
身体の関係を持っても、獣人なのに野菜が食べられる草食男子――夜の具合を考えるとロールキャベツ男子な気もする――なカインからはっきりとした話などはなく、ジーナとカインの間柄に名前を付けるなら「雇用主と専属娼婦」か「たぶん恋人?」か「セフレ兼幼馴染」みたいなままだった。
しかし一緒に暮らしている現状が実質新婚生活のようなものだったし、獣人であるカインが番のジーナを一生離さないのもわかりきったことだったので、籍を入れるかどうかにはこだわらなくていいかもと思っていた。
(ずっと一緒にいられるなら幸せ)
温室の水やりを終えたジーナは、庭付き一戸建てに隣接する畑にも水を撒きに行こうと温室を出た。
すると扉を開けた先に緊張した表情のカインが立っていて、ジーナを見るなり素早く「騎士が姫に忠誠を捧げます」みたいな姿勢になって跪き、手の中の花束を差し出してきた。
「結婚してください!」
顔を真っ赤にしているカインが一世一代のプロポーズの場所に選んだのは、自分たちの庭で、自分たちが育てた花や植物に囲まれながら、だった。
「よろしくお願いします」
ジーナは幸せいっぱいな気持ちで花束を受け取りながら、カインが魔法で咲かせた花々のように、満開な笑顔を見せた。
【終】
完結です。あとがきを活動報告へ載せました。
今作にて獣人姫シリーズも一旦締めたいと思います。
お読みくださりありがとうございました。




