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最終的にXXXにされる  作者: 朝霧


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第二話

 土御門はただ困惑した、多分人生で一番困惑していた。

 担当云々も割と訳がわからないが、自分が『かわいらしいひと』と称されたのが本気で意味不明だったので、土御門は言葉を詰まらせた。

 日々魔物の頭をぶん殴ることだけに全力を尽くす土御門の容姿は良くて下の中くらいである、かわいらしいとかいう言葉は土御門には全く似つかわしくない。

 しかし少年はニコニコと笑っている、嘘や土御門を小馬鹿にするような様子や皮肉を言っているような顔ではない、というかこの顔でもしも内心こちらを見下したりなんかしているのであればそちらの方が怖いと土御門は思った。

 美的センスが致命的なほどに壊れているのかもしれない、と土御門は結構失礼なことを考えて、一旦『かわいらしいひと』という言葉についてスルーすることにした。

「えーっと……私が担当する、超能力者?」

「うん、知らない?」

 少年が逆に不思議そうな顔で問い返してくる。

 一体なんの話だろうかと土御門は考え込む。

『籠』に滞在すると決めた日に役所から薄っぺらい案内本を貰っていた土御門だったが、実は一回サラッと読んだだけで内容をしっかり把握していたわけではないのだ。

「……衣食住を提供してもらう代わりに有事の際に超能力者にマナを提供するという話までは理解していたんですけど、不特定多数の『誰か』が相手だと思ってました。……担当とかあったんですね」

「うん、担当とかある時もあるよ。……君が話したように何かあった時に緊急で誰かにマナを渡すだけの人もいるけど」

「そうですか……」

 土御門は一度読んだだけの案内本の内容を必死に思い出したが、特定の誰かの担当になるという内容を読んだ記憶がどうしても思い出せなかった。

 おそらく読み飛ばしたのだろう、それも結構重要そうな項目を、と土御門は毎度のことながら自分の愚かさに呆れて気落ちした。

「私って本当にこういうところが駄目なんですよね……すみません、案内本、ちゃんと読んでなかったみたいです……」

「ううん、謝らなくていいよ。むしろ一回も読まずに『籠』に来る人も結構いるから、目を通してくれてるだけでも十分だし」

 こちらを気遣うような少年の言葉にますます気落ちする土御門だったが、あまりクヨクヨしていても仕方がないので、一度深呼吸をして心を入れ替える。

「……ええと、それで……この部屋があなたのせいという話って、どういうことなんでしょうか?」

「君に一つ、とても残念なことを伝えなければいけないんだけど、聞いてくれる?」

「残念なこと……?」

「うん。……実は君が担当することになった超能力者、つまり僕はちょっと特殊……というか危険視されている超能力者でね」

「はあ」

 だから一体なんなんだろうと思っている土御門に少年は「見てて」と一度空の手のひらを見せてから軽く両手を合わせた。

 少年の瞳と合わせた手のひらがきらりと蒼く光る、超能力者がその力を使うと身体のどこかが光るらしいという話を土御門は前線で聞いたことがあったが、都市伝説の類だと思っていたので少しだけ驚いた。

 光が収まり、少年が手のひらを開くと何かの花を模したらしい青い石のついた腕輪が現れた。

 その腕輪はうっすらと青い光を放っていたが、ゆっくりとその光は消えていった。

「おお……」

 土御門はその腕輪の美しさに一瞬目を奪われる。

 しかし奪われたのは一瞬だけで、土御門の思考はすぐに少年の能力が一体何であるのかという推測に割かれる。

 転移系、もしくは手のひらと目を光らせただけで実は腕輪は手品か何かで出した、の二つがすぐに土御門の頭に浮かんだ。

 特殊かつ危険視されているらしいから光るだけで腕輪はただの手品というのはないのだろうと土御門は結論付け、おそらく転移系か何かなのだろうと勝手に決め込んだ。

「僕の能力は『創造』。生物以外なら大体なんでも作れる」

 推測が思いっきり外れた土御門は自信満々に「なるほど、転移系なのですね」とか言わないでおいてよかったと思った。

「……なんでも作れる、って、結構すごい力なのでは?」

「ううん。能力を使うために大量のマナを消費するから実はそんなにすごくない。……けど、僕と同じような力を持つ超能力者は他にはいないし……作ろうと思えば人を傷つけるものを簡単に作れてしまう、と判断されてね。だから僕は偉い人達から危険視されて、ずっとこの施設の中に隔離されている、もう何年も前から」

 なかなかヘビーな話をしつつ、少年の表情は穏やかなままだった。

 なので土御門はどういうリアクションを返すのが正解なのだろうかと思いつつ、自分に気が利いた反応なんかできるわけないのでどうしたものかと悩んでいるうちに少年は土御門の反応を待たずに言葉を続けた。

「そういうわけだから……僕の担当をしている間、君はここから出られない」

「…………はい?」

「作ろうと思えば大体なんでも作れる僕の力は危険視されると同時にいろんな人から欲しがられていてね、やろうと思えば黄金の塊とか希少なレアメタルとかもマナさえあれば作れるし……だから僕の担当、僕にマナを供給する人達は警備的な問題で外に出してあげることができないんだ」

「なる、ほど……?」

 確かにその通りではあるが、そんな話を事前に一つも聞かされていなかった土御門は困惑した。

 ひょっとしたら何かの書類に書かれていたか事前にそう言った話をされていたのだろうか、土御門は馬鹿で阿呆で愚かなので大事な話を聞き逃していた可能性は十分ある。

 この時点で土御門が確実に事前にそんな話は知らないと断言できればこの少年なり説明をしなかった役所の人々なりに文句の一つ二つくらいは言えただろうが、断言はできないので土御門にできることはもう泣き寝入りの一択だけだろう。

 土御門は自身の確認能力の低さを恥じた。

「だから申し訳ないのだけど、僕の担当をしてもらっている間、君をここに閉じ込めることになる。……この部屋があるフロアは自由に動いてもらって構わないけど……このフロアには君以外の僕の担当の部屋と、医務室くらいしかない」

 部屋から出るのは問題ないらしいが、この部屋のあるフロアから出てはいけないらしい。

 部屋からも出てはいけないのかと思っていた土御門は一瞬だけで思っていたよりも自由が許された、と考えた。

 しかしよく考えてみると建物の中から出るなではなく建物の特定の階から出るなというのは結構自由が制限されていると思い返す。

 ついでに今の話で自分以外にも少年の担当がいることがさらっと明かされた。

 能力を使うのに大量のマナを消費するという話なので、そういうものなのかもしれないと土御門は思った。

 少年は申し訳なさそうな顔で土御門の顔を見つめている、そんな顔をされるとまるでこちらが悪人みたいだ、と土御門は謎の罪悪感にかられた。

 その顔を見つめ返して、学のない間抜けな頭で土御門は考える。

「………………よくわかりませんが、そういうことになってしまったのなら、受け入れましょう」

 土御門がそう言うと少年はぱあっと表情を明るくされた。

 自由がかなり制限されるが、そもそも土御門が『籠』に滞在するのは骨折が治るまでの三ヶ月程度である、その少しの間に多少行動が制限されるだけなら別に大した話ではない。

 そしてそもそも骨折しているのでできることなんてほとんどない、やりたいことも特にない。

 一応二級の筆記試験用の勉強道具を持ってきたので、土御門がこの『籠』でできることなど最初から勉強くらいしかなかったのだ。

「それで、結局私は何をすればいいのでしょうか?」

「マナを分けてくれればそれだけでいいよ」

「すみません、そのマナを分けるっていうの、どうやればいいんでしょうか?」

 土御門は案内本を読んでもよくわからなかったことを少年に質問してみた。

 何かあった時にマナさえ提供すればOK、みたいな感じに記されてあったが、どうやってマナを分ければいいのかその方法については何も書いてなかったのだ。

 おそらく普通の人だったらその方法も把握しているのだろう、しかし土御門は無学で頭が悪くてハンマーを振る以外にできることなんてほとんどない駄目人間だったので、何もわかっていないのだ。

「……手を、こちらに」

「はい」

 言われた通りに土御門が素直に折れていない方の手を差し出すと、少年は壊れやすい宝物にでも触れるような手つきで、土御門の手を両手で包み込むように握った。

 それからしばらく、少年は何も語らず動かなかった。

 これってなんの時間、と困惑する土御門だったが三十秒過ぎて時点で完全に声をかける機会を失ってしまった、と思ったため黙り込んだまま待つ。

 三分程度経った頃に少年がようやく口を開いた。

「うん、これでおしまい」

「ええと……?」

「超能力者は他者に触れることでその人からマナを貰える。……貰えるというか、奪い取る、っていうのが正しいんだけどね」

「はあ……そうなんですか」

 そういうものなのかと土御門はいまだに少年の手に包まれたままの自分の手を見下ろした。

 今ので土御門というか『籠』に滞在するすべてのマナ過多者もしくは準マナ過多者に課せられた義務である『超能力者へのマナの供給』が終わったらしいが、ただ手を握られていただけの土御門にその実感は一切わかなかった。

「体調に変化はある? たまに気分が悪くなる人がいるけれど」

「いえ、全く」

「そう、ならよかった。……今ので結構貰っちゃったんだけど、君は平気なんだね」

 本当だろうか、と土御門は少年の言葉を少しだけ疑った。

 全く体調に変化はなかった、本当にマナを渡せたのだろうかと土御門は訝しむ。

 土御門は準マナ過多者ということで、平均的な人間に比べると数倍程度のマナを持っているらしいのだが、その実感は一切ないのだ。

 だからその実感のないものを渡したとか奪われたとか言われても、土御門にはよくわからない。

 本当にこれでいいのか、この程度でいいのかと、他にやるべきことはないのかと思い悩む土御門の耳にかちゃりと小さな音が。

 視線を向けると少年が先程自分の能力で創り出した腕輪を土御門の腕につけていた。

「え、あの……」

「あげる。気に入らなかったら外しちゃっていいから」

 少年がにこりと笑う、土御門はそんな笑顔の前にオロオロと狼狽えるしかなかった。

「い、いえ……こんな高そうなものをいただくわけには」

「高くなんかないよ。能力で作った偽物だもの。大した……ううん、価値なんてない。それでも受け取ってもらえると嬉しいな」

 困ったような、少しだけ情けなさそうな笑顔でそんなことを言われてしまったら、土御門にそれを断ることなんてできなかった。


 少年が部屋から立ち去った後、土御門はカバンから案内本を取り出そうとした。

 何やら色々と確認不足な部分があったようなので、改めて見返そうと思ったのだ。

「あら?」

 二級試験の参考本と一緒にカバンの中に詰め込んだはずの案内本がない。

 カバンの中をひっくり返して中身を全て出してみたが、やはりない。

 どうやら、カバンの中に入れ忘れてしまったらしい。

「私って、ほんとうに……」

 土御門は深々と溜息をついた、ハンマーを振る以外にできることなんてほぼないと思っていたが、ここまで間抜けだと流石に自分が嫌になってくる。

 仕方がないので土御門はひっくり返した荷物を綺麗にカバンの中に戻す。

 忘れてしまったのなら仕方がないと諦めるしかない、諦めるだけでなく忘れ物をした愚かさに反省もしておく。

 物忘れなど何年ぶりだろうかと土御門は思った、子供の頃はよくやらかしていたが、十歳の頃に一度戦場に武器を持っていき忘れるという特大級のヘマをやらかしてから本当に気をつけるようになったのに。

 骨折したり準マナ過多者になったりと色々あったせいで抜けていたのかもしれない、と土御門はもう一度深々と溜息をついた。 

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