第六話
ドスッ…バリバリッ
上を見上げると、少女が上から覗いている。老朽化していた床は、刺さった斧によって負荷がかかり、俺の立っている床の底が抜けてしまった。4階から3階まで落ちた俺は、受け身の取り方が分からず、お尻が鈍く痛い。
「おぉー、勇気、ラッキーくんだねぇ」
上から覗いている少女をよく見ると、包丁を持っている。
「おいおい、お前ら鬼ごっこにそんな物騒な物必要か?」
「だって、これ持ってないと、鬼ごっこ止めようとするで… しょっ」
少女は俺に話しながら空いた穴から飛び降りてきた。すぐに立てずに転がりながら避けるしかできなかった俺は、少女までの距離が1メートル程しか空いてない。このまま手を伸ばされると容易にタッチ出来る。
「そんなもん無くても、止めさせてくれないじゃねぇ…か!」
最後の力を振り絞る様に、俺は立ち上がり全速力で逃げる。手の振り方も、口に力を入れる事も忘れ、逃げることだけを考えている俺は、本当みっともない姿だ。
俺が走り出すと少女の口角がグイッと上がり、すごく楽しそうに追いかけてくる。走り出した先には、百目が行方を阻もうとするが、直前で脇道に曲がり振り切る。スピード緩めず追いかけてくる二人から逃げ続け、その間アイツらはやりたい放題。斧や包丁を投げたり、挟み撃ち、壁を通り抜けてきたり…。だが、必死になると案外上手く行くもんだ。上手く避けながら、逃げ続けることが出来た。最後の悪足掻きも悪く無いな。
だが、体力がほとんど残っていない事実は変わらない。直線に走っているだけでは追いつかれてしまうため、色々な部屋に入りながら逃げ続けた。最後に曲がった部屋は…
「行き止まり…」
水みくじが置いてある部屋で、俺が呆然と立ち尽くす後ろに、少女と百目がやって来て、
「ゲームオーバーかな?」
と、悲しそうな声で顔はにんまりと笑う二人。もう必ず捕まる運命だが、狭い部屋の中で逃げ回り、部屋の中はめちゃくちゃだ。百目に後ろから抱きつかれ、ゆっくりと近づいてくる少女に、水みくじの神を投げつけるしか出来なかった。
「来るな…来るな…」
結局最後は呆気ない終わり方か… アイツらが見てたら笑うだろうな。
少女は俺に包丁を振り翳し、
「ターッチ」
ゴーン、ゴーン…
の声と共に、時計の鐘が鳴り俺の胸を刺す。
俺が投げつけた紙がヒラヒラと落ちきり、石の桶の中には『大凶』の文字が映し出された紙が一枚、浮かんでいた。
刺された俺は、意識を無くし死んだと思った。だが、目を覚ました。その時、俺が居たのは病院だった。
生きてたのか…。アイツらは、どうなったんだ? 俺は殺人容疑で逮捕されるのかな…
すると、
「勇気!!」
聞き慣れた声が聞こえてきた。声のする方へ目を向けると、
「やっと目を覚ました。よかったああ」
佐藤と、俊太、荒木が俺の寝転んでいるベッドへ駆け寄ってきたんだ。3人の話を聞いていると、あの廃墟の事は全く覚えていないらしい。俺と同様、3人の見つかった場所は廃墟の前だ。保護者達が心配して通報したことによって、見つかったのだが、誰一人、傷は無く、ただ寝ていたそうだ。佐藤と俊太は救助される時に、すぐ目を覚まし、荒木はついさっき目を覚ましたらしい。
あれはただ夢を見ていただけだったのか…
それから俺達が行った廃墟は立ち入り禁止となった。俺達が行く前にも、廃墟に立ち寄った人達の捜索願いが出されていたらしいが、その人達は未だ見つからないまま。誰かによって誘拐されたのかと捜査は続いているみたいだ。
他クラスの奴らが廃墟は入ったという話は、嘘だったらしい。近くまで行って怖くなり帰っただけだったが、行くと啖呵を切った手前、入らなかったと言うのは、格好が付かない理由で、そう言ったらしい。おかげで俺達は行くキッカケになってしまったのだが。
すぐに退院出来た俺達は、いつもと同じ様に学校へ行く。本当にあれは夢だったのか確かめたくなり、誰にも言わず、廃墟へ再び向かった。
廃墟の前に着くと、黄色いテープが張り巡らされている。禍々しい空気はまだ残ったまま。ふと、上を見上げると…
「やっぱり夢じゃなかった…」
建物の屋根の上に、彼女は立っていた。風で長い前髪が揺れ、その隙間から口が動いているのが見える。
お、か、え、り
と言っている様に見えた。不思議と前回来た時と違い、恐怖感が無い。
すると、彼女の姿が消えすぐに俺の耳元から声がした。
「次はかくれんぼしようか」
聞き心地が良い音の中に不気味を感じさせる声だった。俺はこう伝えた。
「ただいま。会えて嬉しいよ」
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