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第五話

 

 「大吉かぁ〜、いいねぇ、まだいっぱい遊べるね〜」


 少女が嬉しそうにスキップしながら俺の横を通り過ぎる。俺はボソッとこう言った。


 「何をした…」


 「え?何て? 声が小さくて聞こえなーい」


 いちいち毛を逆撫でするように、俺をイラつかせる話し方だ。


 「荒木に何をしたんだって言ってんだよ。俺が居ない間に」


 「んー、分からないけど、百目ひゃくめに頼んだらあーなってたね。でもさ、でもさ、君たち、ルール違反しようとしたじゃん。だから、ルール違反したらイタズラしないとダメだから、違反出来ない様にしてもらったの。優しいでしょっ」


 指を頬に当て、あざとくしているが、そのあざとさに虫唾が走る。百目って、佐藤をやったやつか。気色悪い奴め、あいつは何者なんだ。


 「ルール違反、ルール違反って。例え俺たちが守っていても、腹立ったから殺す、首を飛ばすって、ルールも糞もねぇじゃねえか。結局お前の身勝手な遊びなだけじゃねえかよ。何が友達と遊びたかっただ。そんなんじゃ、友達ができてもお前はすぐに見放されてるよ」


 「ひどーい。可哀想にってならないの? しかもさ、何で人は後もう少しのところで欲が出るんだろうね。あのままじっとしてたらすぐに終わってたかもしれないのに」


 「タラレバ何てクソ喰らえだわ。やらないで後悔より、やって後悔する方が俺は断然いいね」


 「じゃあ、荒木って人に頼んだ事、後悔してないんだ。可哀想〜」


 「そんな事は言ってねぇよ。全部俺が悪い」


 「そんな事言って、自分だけ最後まで助かってホッとしているくせに」


 図星だ。荒木が死んで、申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、自分が生き残った事によりホッとしている。どこまで最低なんだ俺は。ストレスが異常にかかっているからか、頭を掻きむしる。


 「そうだな。俺は最低な人間だ。いざとなった時に、人の本性が出るのは仕方ない。誰だって自分が可愛い」


 「あっはっはっは。面白いね〜君。名前なんて言うの?」


 「松野 勇気だ。今から殺す奴の名前聞いて、何の意味があるんだ」


 腹を抱えて笑う少女に俺は呆れ顔。


 「いやいや、好きだな〜と思って。好きな人の名前は知りたいじゃん? 勇気かぁ。勇気なんか無いのにね」


 「何とでも言ってくれ」


 「で、どうする? 30分間の鬼ごっこ残ってるけど、する? しないならルール違反でイタズラしちゃうけど」


 「もう…」


 俺は降参の言葉を告げようとしたが、その時にアイツらの顔がフラッシュバックされ、最後に残された俺がこんな終わり方でいいのかと、思い返した。全ては俺の責任だ。このままだと、アイツらに一生恨まれてしまう。好きだったアイツらに恨まれて終わるのは嫌だ。


 俺は重い腰を上げて、こう言ってやった。


 「後、30分しか無いのが惜しいよ。もっと遊ぼうぜ。来いよ、がきんちょ」


 この時の俺は、先のことなんて考える暇も無く、ただこの少女と、とことん楽しんでやろうとな。


 「へぇ〜、まだ遊べるんだね! 嬉しい、今までの人は、こんな時、頭床に付けて謝るばっかりだったのに、勇気は違うんだ。もっと好きになっちゃうな〜」


 少女の言葉を聞き、ゾクゾクすると共に、絶対に逃げ切ってやると、闘争心も出てきた。



 ゴーン、ゴーン…


 30分間の鬼ごっこスタート。これで3回目だ。そろそろ俺の体力も底をついてきて、ゆっくり隠れたい所だが、遠慮無く追いかけてくる少女から身を隠す事は出来なかった。


 「はぁ、はぁ… なぁ、百目って奴は何なんだ?」


 長い鬼ごっこの中、ただ走るだけじゃ俺の体力が削られるだけだ。相手に考える時間を作れば、少しはスピードが落ちると思った。案の定、相手は少女。一つの事をしながら、もう一つの事をするのは難しいのか、いきなり立ち止まった。


 「この家の警備員みたいなものかな? 幽霊とは違って、私の負の念が作り上げたものだって、百目は言ってたけど。負の念ってなに?」


 立ち止まっている少女から少しずつ後ろへ距離を取りながら、俺は話し続けた。


 「痛みとか、苦しい、悲しいみたいな感情が集まった物かな。多分…」


 「ふーん。あ! 確かに、一緒に遊んでくれない人が多くて悲しかった時に、いきなり現れて外に出ないように止めてくれたんだった」


 佐藤やった化け物は、負の塊って訳か。きっと幽霊になる前から溜まっていただろうから、相当な化け物に仕上がったんだな。きっと俺達がこの家に着いた時の禍々しい空気は、アイツが居たからか。


 「百目とは遊ばないのか?」


 「百目は遊んでくれないよ。この家に遊びに来た人と遊べって」


 「へぇ、そうなの…」


 俺が一瞬、気を抜いた隙に、後ろから殺気を感じた。


 ガキーーンッ!!


 「あっぶねぇー!!」


 咄嗟に転がりながら避け、後ろを向くと、あの化け物が立っていた。


 「お嬢様。何故立ち止まっているのですか? 鬼ごっこは走って追いかけてタッチするまでが楽しいのですから」


 と、渋く、ダンディーな声で、少女に話しかけた。


 コイツ、俺をこんな物で殺そうとしたのか。容赦ないな。


 誰のか分からない血が付いた斧が床に刺さり、今にでも底が抜けそうだ。


 待てよ。この血まさか…


 「お前、こんな物で荒木に怪我をさせたのか」


 「はい、それが何か…?」


 痛かっただろうな。急所のような所は狙われていなかった。まるで即死しないように、遊んでいたかの様だ。そんな状態でも、荒木は約束を守ろうとしてくれていた。アイツは強いな。いや、佐藤も結果的に逃げたが、逃げるというのも勇気がいる。俊太だって、怖がりのくせに俺を守ろうと自分が犠牲に。皆んな強かった。最後まで自分の意思があって行動できていた。俺も来世ではそんな男になれるかな。


 床に刺さった斧を引っこ抜き、また俺に振り翳してくる。今抵抗しても、少女にタッチされるだけだ。じっと眺めながら受け入れる。


 ミシ… ミシミシミシ…!


 「落ち…」


読んで頂きありがとうございます。

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