『スライム』マスター! じゃない、『スライド』マスター!?
「あなたの祝福は.......................................、」
長いな?
うん? 2度見された!?
「............『スライド』で、す.........。」
「す、『スライド』?『スライム』ではなく?」
「いえ、『スライド』、だそうです......」
この世界は15歳になった時、魔物の神から祝福を贈られる。
『スライム』は、適応を。
『ゴブリン』は、器用を。
『セイレーン』は、声を。
『ユニコーン』は、美を。
『オーガ』は、力を。
『ドラゴン』は、魔力を。
それぞれ祝福してくれる。 『スライム』が1番わかりにくいが、他の祝福を持っている人よりも繰り返しの動作に慣れやすくなる。だから、騎士には『オーガ』、貴族には『ドラゴン』が好まれるが、庶民にはこの祝福が一番好まれる。
当然庶民の俺も、『スライム』の祝福を望んでいた。
「はあぁぁ......」
今までにない祝福だっていうことで祝福の効果がわかるまで、毎週教会に行くことが決定した。
普段も時間がある時に安全な場所で祝福を試してほしいと言われた。
ため息をつくしかない。
とりあえず......『スライド』!
......手を出して強く思ったが、やっぱり無理か.......。そのとき、目の前のゴミが横に動いていることに気づいた。
はあ??俺、今、何やった????
こう手を出して...、『スライド』って思って、手を下ろした......。いや、ちょっと手を横に動かしたな。ゴミが動いた方向に。
今も、やっぱりゴミが動いた。
え?そういうこと? うーん、指でもいけるか?
人差し指でゴミを指して、『スライド』!
お!ちゃんと、うご...い...た....。
「うーん、今の動き、やったことがある気がする。え、どこでだ?」
そのとき、記憶が蘇った。1人の男の平凡な一生が。
それだけでなく、もう1つ思い出したことがある。ある、神との会話だ......。
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「こんちゃ!『神』って言うもんなんすけど、すんません、手違いで、殺したっす。」
「え?」
「もう死んでるんで、地球には戻ないんすけど、異世界なら大丈夫なんで!記憶を残したままで転生させるんで!」
「ちょっと待て、俺の意見は?」
「あ、大丈夫っす!今流行りのやつっすよね!異世界転生って言うんすよね?ちゃんと把握してるんで!珍しい能力、 と・く・べ・つ・に!あげるっす!」
イラァ。ドヤ顔で何いいやがってんだ、こいつ。
「んじゃ、楽しんで下さいっすね〜(笑)」
「え、ちょいおい、なにsygamんdyg...!!」
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イラァ。今思い出しても腹が立つ。それに、珍しい能力ってこれか!?
なんちゅー使えんもんを......。こんな変なやつなら、『ドラゴン』とか貰ったほうが良かったのに。何に使えんだよ、この祝福.......。
とりあえず、祝福の力を教会と両親に伝えた。
どっちにも驚かれた。そりゃそうだよな、聞いたことないからな。(ちなみに祝福は完全に神の気まぐれだ。両親と同じではないことが多い。だから、母親の不貞とかを疑われることは無かった。)
でも、1つ以外だったのは、父親に喜ばれたことだ。父親は建設会社の社長で、重いものを運ぶ時に使えれば楽になると言われた。(後から考えたら、親父、理解力高すぎ)将来跡を継ごうと考えていた俺にとっては朗報だ。
次の日から、親父と一緒に仕事することが決定した。
1年が経った時。俺は火事に出くわし、そして人生の岐路に立った。
別に怪我をしたとかでは無い。ただ、人を助けただけだ。その、助け方が俺の人生を変えた。
家事が起きた時、俺は買い物からの帰り道だった。日本に似た気候で、火事が多いこの国は、消防士がいた。とは言っても、現代の、水をかけるスタイルでは無い。江戸時代のように、火事が起きたら家を壊していき、延焼を防ぐのだ。
その日は消防士が遅れていて、みんなで水をかけていたが、もう隣の家が燻り始めていた。
そんな時にできるのは、その家を壊すことだけだ。でも肝心の消防士が来ない。
俺が思いついたのは、家を横に『スライド』させて、火の周りを遅くすることだった。
そして、それは成功した。
そして、俺は解体屋になった。
あの日、俺は家を横に『スライド』させた。だけど、2階建ての家の2階部分だけを『スライド』させたら、家を解体できるのではないか......。俺はそう考え、実行し、仕事にした。
さらに4年後。俺の仕事は成功した。初めは依頼も少なかったから親父を手伝いながらだったが、この仕事だけで生活が出来るようになり、家族も養えるようになった。
大成功だ。たまに消防に駆り出される以外は。まあ、延焼すんの怖いしやるけど。
「カンカンカンカンカンカン!!!」
いつも通り仕事し終わって食事をとっていた、いつも通りに過ぎるはずだった日、鐘がなった。緊急事態にしかならない鐘が。
家を飛び出した俺が見たのは、天に届きそうなほどの火と煙。大火事が発生したのだ。
たくさんの人が駆り出された。火事が多いこの国は、火事が起きた時は、消火のためにみんなが動く。延焼を防ぎ、友人を、家族を助けるためには力を合わせる必要があるのだ。
当然俺も動き出した。何度か消火作業に関わるうちに、慣れてしまったのだ。
「俺、解体屋のはずなのになぁ......」
そんな、今言っても仕方の無いぼやきが漏れる。
俺は今、鐘の塔の上に来ている。こんな大火事だと、俺は何の役にも立たないと思いたいが、火事場での有用性が認められちまった。俺は消防じゃないっての!
この塔は上から火の状況を確認するためにある。万一他国が攻めてきた時にも使うらしいけど。そんなの、見たことはないけどな!
俺は警察に連れられる犯人みたいにドナドナされ、ここにいる。バケツリレーに参加しようとしたら周りに止められ、消防の副隊長が俺を呼びにきたのだ。
周辺住民にも消防の一員だって認識されているなんて……はあ。
「準備できたか!?もうあそこまで火が回っていて正直手が足りねえ!いつも通りの手順でよろしく頼む。手助けはするからよ!じゃ、もう行くからな!!できるだけ早くしろよ!!」
「あ、はい……」
いかんいかん、黄昏ている場合じゃなかったな。
「準備できたぞ!」
「こっちも終わった!全員逃げたらやれ!」
準備完了!!しんちょうに、慎重に!!!
.
..
...
....
.....
......
.......
........よし!!!成功だ!
「わああああぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
歓声が、聞こえる。
目の前には、黒煙が、漂うのみ。
この、焦げ臭い、匂いも、すぐ、無くなる、だろう。
なにし、ろ、きょう、は、風が、強い日、だから、な......。
「んんん......こ、こ、は......?」
「あんたぁー!?目ぇ覚めた!?良かったー! あ、先生ぇー!目ぇ覚めたよーー!!」
俺は一命をとりとめた。とはいえ、大けがを負ったことには変わりはない。たんまり慰謝料もらったぜ。
その日から俺は、『スライド』マスターと呼ばれるようになった。みんなにも感謝されるが…………もう二度とこんなこと、やりたくねぇ!!
「カンカンカンカンカンカン!!!」
…………また呼び出されたぜ、ちくしょう!!
・おまけ
俺は死んだ。だって、見覚えのある空間に、見覚えのあるやつがいる。
「どうっすか?楽しかったっすか?」
「まあ......。」
楽しかったか楽しくなかったかで言ったら楽しかったけど、こいつに言われるとなんかムカつく。
「やっぱり!あげた祝福のおかげっすね!!いやー、良かったすね!」
「おい、」
なんでこいつこんな上から目線なんだ?お前のせいなのに!
「じゃ、今度こそちゃんと記憶消して転生させるんで!バーイ!」
「お前のおかけじゃないdrycrdhhb...!!」
イラァ......!!




