ヌートリアの独り言
わしヌートリア。
コイプーとかラゴンダンとか呼ばれることもある。
もとは あったかい南米の 浅くてゆったりと流れる川辺に住んどった。
せやから 泳ぎは得意やで。
わしの毛皮は 防寒性が高く、肉はあっさりとしてうまいんやと。
なんでも高度1万m、気温ー50度でも わしの毛皮は凍り付くことなく、わしの毛皮を着ている人間を守るのやと。
人間が好んで襟巻きにしとった、ウサギの毛皮やと、高度6000m、-11度で凍り付いてしもうて、防寒具としては役立たずになるらしい。
だから、戦闘機乗りの軍服として わしの毛皮が 目をつけられてしもうた。
なんでジェット機や戦闘機が そんな高度1万mの空をとぶかというと、空気が薄くて、空気抵抗が小さいから、効率的に長距離飛行ができるからだそうな。
この効率的というのは、飛行を続ける為の燃料の積み込み量を減らす為にも速い速度を維持したいということも込みの話らしい。 わしには そのあたりのことが ようわからんのやけど。
旅客機も、戦闘機も 同じ高度1万mを飛ぶのに、なんで 旅客は普段着OKで、戦闘機のパイロットが防寒を必要とするかといえば・・
旅客機は 金をもらって人を運ぶ商売やから 乗客が快適に過ごせるように断熱・暖房仕様な。
一方戦闘機は、敵を襲い 自分も攻撃されて落ちる可能性ありやから、身軽に速く機敏に爆弾積んで飛ぶ、だからパイロットの居住性は最低限、いざとなったら パラシュート降下前提やから、機内の防寒対策なぞ考えてない訳よ。 防寒着さえあればええ、あとは軍人の根性で頑張れと。
というわけで、日本が 戦闘機B-29を開発したときに、同時に-50度の空を飛ぶ飛行士のための服の素材になにがええか? と調べ回って、めっかってしもうたんやな、わしらヌートリアの毛皮が。
それで ラプラタ川でのんびりくらしとったわしらヌートリアが、150匹もつかまって、
はーるばる日本までおくられてきたわけや。
ラプラタ川って、大西洋に流れ込む川やで。
そっから 太平洋に面した日本までって いったいどんな経路を伝って運ばれたんやろな。
檻に入れられ、アフリカの喜望峰まわって インドや東南アジアの沖から日本まではこばれたのか?
それとも 南米大陸の先っぽをまわったか、マゼラン海峡を抜けたかして太平洋に出たのか
あるいは パナマ運河をわたって、太平洋を突き抜けてきたのか・・
いったい どんだけ船旅をしたのだろう・・。
まさか 空輸なんてことはないやろな。1939年のことやから。
で、来日したご先祖様150匹のうち、43匹が 陸軍の毛皮研究所に送られたんだと。
哀れ ご先祖様は解体されて、肉は 兵隊さんの腹の中、毛皮は 剥がされ軍服になってもうた。
残りの100匹以上がどうなったのかは知らんけど。
◇
わしらの種族特性は、腹ん中に飼ってるバクテリアで どんな雑草でも、食ったら徹底的に消化して、
上質のタンパク質やビタミン類に変換できること。
あと繁殖力旺盛やけど、数が増え過ぎんように出産数の自己管理ができること。
すごいやろ。
生後半年から出産開始で 年に2・3回 多いときには1度に10匹も子供を産める。
だから 人間が2年間で5000匹のわしらを駆除しても、半年でその数をもとにもどせるんだぜ。
その一方で ある程度の数になったら 自主的に産児制限や。
だから 増えすぎて痩せ細るとか 環境破壊するとかはせん。
えらいやろ。
人間や クマも、わしらをみならったらどうや!
もっとも わしらは 寒さには弱い。
日本の冬は苦手や、 足先がすぐに凍傷になんねん。
だから ほんとは 越冬できる巣穴を持ってない奴は 冬越しできないから
その地域ごとに一定数以上は増えん、 というだけのことかもしれんがな。
そういう意味では 日本で暖冬が続くと・・
セアカコケグモといっしょで、 北上するかもしれん。
今は まだ 野生種としては 東海地方どまりやけどな。
もっとも、セアカコケグモとちごうて、わしらの体はごっついから、荷物に紛れてトラックに乗ることができんからなぁ・・。
そのかわり、泳ぐのはうまいで。
こないだは 瀬戸内海を泳いでいるところを、漁師につかまってしもうた。
島の人間は、わしらが本土から泳いできて 島に入って繁殖するんちゃうかと警戒してるらしいで。
◇
そもそも、わしらが日本に定着したのは、戦後食糧難対策で、わしらの肉は ニワトリ以上にうまい!と飼育が奨励されたことがきっかけや!
ただなぁ 食用蛙といっしょで、わしらヌートリアも 日本の飼い主さんが、上手に わしらを飼育できなかったのが問題で。
わしら 粗食やで。 泳ぐの好きやで。
わし、顔の正面、真ん前は見えヘんけど、目の前 つまり顔の横側は ちゃんと見える。
性格は のんびりやけど、真面目で根気の良い性格やねん。
なんなら 愚直といってくれてもええで。
せやから 食べ物の匂いがしたら まっすぐ そこをめざすねん。
壁があろうとなんだろうと 障害物をかじってかじって穴を開けて抜けていく。
それに記憶力もいいから、うまいもんのありかを見つけたら その場所を記憶して
何が何でも そこを目指す。
粗食に耐えると人間は言うけど、わしらにも 味の好みはある。
だから 目の前にあるまずい餌よりは、わしら好みの食い物の臭いの方に向かっていく。
これ 動物ならあたりまえのことやろ。
その性格が しつこい害獣とみなされるようになったのかもしれん。
わしらの生態を観察してる権威ある学者はんは わしらのこと かわいいて言うてくれはんやけど、
農家さん向けの情報誌には、わしらのこと ぼろくそに書いてあるらしい。狂暴な害獣やのなんやのと、
学者さんは、わしらに食われたくない作物の周りに わしらの好きな植物を植えたら
大切な作物は食われんぞというとるが・・
お百姓さんが そこまでの土地と予算と手間をかけられるのかな?
とわしは思た。
とにかく 現実は 厳しおす。
ヌートリア駆除! 捕獲! て 号令かかってるみたいやわ><
◇
わしらは、寒さに弱い。
手足が凍傷になりやすい。
おそらく 一時期日本で20万頭も 飼われていたのに、飼育放棄されたのは
冷たい床に触れただけでも わしらの体が凍傷になって 毛皮が売り物にならんとかって
みきられたからかもしれん。
あるいは わしらの姿が 大きなネズミみたいに見えるのも 好かれなかった理由かもしれん。
前歯が大きくてオレンジ色して目立ってる。
前歯が大きいのはリスもいっしょやのに、あっちは 尻尾がくるんとしてかわいいと好まれ
わしの 尻尾は ネズミの尻尾に似ているせいか・・不人気や。
だから、食糧難のときだけ わしらの肉を食って、食いもんにゆとりが出てきたら、見捨てられてしもうた気がする。
わしら 消化に特化したバクテリアを腹の中にかかえているけど
ネズミとちがって 病原菌は そんなにないと 大学の偉い先生も言うとる。
でも 一般の人らは わしらのことを 感染症の運搬者みたいに言う。
それこそ ドブネズミ扱いの駆除対象><
まあ 体の色も 大地の保護色 つまり ぱっと見のかわいさはないな。
もしかしたら 戦闘服需要がなくなったのが 不人気になった一番の要因ちゃうかという気がせんでもない。
ミンクやったら コート需要が無くなっても、若い娘らが鞄につけるボンボンに成る道もあるみたいやけど・・わしらの毛皮がそこまで かわいい飾りになれるんやろか?
◇
わしらは 水辺の生き物や。
もともと 川の土手に 奥行き6Mほどの巣穴を作って住んでいた。
西日本には ため池が多い。
いわゆる瀬戸内海気候に対応して、梅雨や台風の雨をためて、冬の渇水期にそなえ
春の苗代・水田への補給に使っている。
水田って わしらの故郷のラプラタ川流域ににている。
水田につながるため池の土手も、巣作りぴったりや。
昔は 農家の人は わしらの巣穴を見つけたら ため池を守る為にせっせと穴を潰しにきた。
そしたら わしらかて ここに住んだらあかんやなと 引っ越してそれで終わりや。
この頃は ため池の土手に穴をあけて住んででても、誰も文句を言わん、
だから 幸せに みんなで ため池の土手に住んでたら・・
わしらの巣穴のせいで ため池が決壊した! といって 目の敵にされてしもうた。
確かに わしらの巣穴のせいで 土手が崩れたんやから えん罪や!とは言わんけど・・
それならそうと 早い内に ここに住んだらあかんと言うてくれたらいいのに。!! (`ヘ´) プンプン
◇
というわけで 不本意ながら わしら 今や 「特定外来生物」「有害鳥獣」扱いの駆除対象になってしもうた。
どうせやったら、わしらを南米から はるばる日本まで連れてきた責任とって、
わしらを 全頭捕獲で 全頭完全飼育で 肉と毛皮として消費して欲しいわ。
そしたら わしらの命も全うできるというもんや。
以上 あるヌートリアの独り言!
この短編を書こうと思ったいきさつや、書くにあたって参考にさせていただいたサイトについては、
2026年7月21日投稿の「活動報告」に記しています。




