まぎれるたぬき と 腹鼓
えー私 狸でごさいます。
私共 狸族は もともと東アジアの林から野原に住んでおりまして、一つ所に落ち着いて暮らすのが好きな一族であります。
先祖は木の上で暮らしていたとか 犬の親戚だとか言われておるそうですが
そんなことは あっしにはかかわりあいのねーことでござんす。
てきとーな寝ぐらと、しっかりとおまんまが食えれば それでよござんす。
ご近所さんとも よしなに 平和に暮らしていければそれで良しと思っておりやしたが・・
なかなか そうもいかぬことが多くて 人生 苦労が絶えませぬ。
◇
やれ 毛皮が欲しいと言って ズドン
その音にびっくりしてひっくり返ると、
猟師はシメシメしとめたぞとやってくる
こちとら 驚いてひっくりかえったはものの すぐに気が付いて起き上がってスタコラ逃げると
「狸寝入り」なんぞと 言われてしまう。
◇
あちきらは 寝床と食い物のある穏やかな暮らしができさえすれば、住むところの好き嫌いは言いやせん。
沼のほとりだろうと、廃村を囲む林の中だろうと、
食い物と 快適な寝床があればそれで良し。
早い話が 食い物にえり好みしない性質と言ってよいかもしれやせん。
おかげで 住処に適した体つきになりまして、
あちこち広範囲に移動して回る人間さん達からは、地域ごとの固有種が・・云々 と言われておるようでございますが、それもまた あちきの知ったことじゃござんせん。
◇
私どもの毛皮は 防寒性に優れておるのだそうです。
それで 一時期は 乱獲の憂き目にあいました。
私どもの毛もまた優れもので 筆やら歯ブラシやらに使われたそうです。
そして 皮をはいだ後の肉は薬膳料理になるそうな・・。
そこで 猟師どもは 「明日は狸を捕まえて どうしようこうしよう」などとワクワクしながら夜を過ごし、ついつい朝寝坊して 「捕らぬ狸の狸の皮算用」ということわざができたとかかんとか。
まあ そういう話は人間味もあって、私どもが捕まらない限りは いいんじゃないかと思うのですが
なんとまあ 人間どもは 私たちを捕まえて、
遠い西の国まで連れて行って そこで繁殖させようと
よその地域の狸とタヌキを掛け合わせようなどとするから 困ります!
私ら 一夫一婦制で子育てに励みますのに、
人間ときたら、よそものどうしをおしこめて 無理やり子供を産ませようとするのだからヽ(`Д´)ノプンプン
それで 人間達が期待したように子供ができないと、
私たちの体を解剖して 染色体が云々というなんて!ひどい!!
◇
それはともかく 人間達が 「天然の毛皮を狩り集めるより 人工的に毛や革を作るほうが便利だ」と考えを変えてくれたおかげで、最近は 私ども狸が おいかけられることも少なくなりました。
日の本では、保育所という幼い子供たちが日中暮らす場所ができまして
そこは わりと 公園や原っぱと 隣り合う所に建っていることが多く
そういう所は 人間の子供たちが安全に暮らせるようにと 目配りが聞いている一方で
夜になると人気がなくなりすますので
私たち 狸一族にとっても 保育所近辺が過ごしやすい場所になっていたりするのです。
そこで 早朝 保育所の近くを散歩しておりますと、
人間達が パシャパシャと撮影してくれまして
それが ネットなどで話題になると
わざわざ 私たちを見に来る人間もいまして・・
そうこうすると ねぐら近辺が騒がしくなるので やむなく引っ越しという羽目になるのが
私たち狸族の嘆きでもあります。
◇
なぜか 人間達は 私たち狸は人を化かすといいますが・・・
私たちに言わせれば、人間達のほうが 物見高く集まってくる、
興味本位に巣穴を探しに来る、ストーカー気質なのではなかろうか?
って 思わないでもない 今日この頃。
タヌ 「ねえ どうして 人間は 私たちの姿を見ると 集まってくるのかしら?」
太吉 「案外 わしらの外見が好みのタイプなんじゃないか?」
たゑ 「私 子供のころ 犬と間違えられて 人間につかまりペットにされたのよ」
太吉 「それで?」
たゑ 「少し大きくなったら、『犬じゃなかった 自然にお帰り』って言われて
知らない山に連れて行かれて置き去りにされた」
たぬ吉「あの後 しばらく大変だったなぁ」と遠い目をする
たゑ 「だって 人間と暮らしていた時は いつも 決まった時間に お皿にご飯を入れてもらえて
それも すごく食べやすいカリカリとかフワフワとか。
人間が喜ぶことをすれば カミカミ用の棒ももらえたけど
山には そういうものが何もなかったのだもの!」
たぬ吉「肉も魚も虫も食べない というか 食べ物だと気付かないたゑには 本当に困ったよ」
◇
ポンタ 「この間 人間達が落として言った財布の中に ポンタカードというものが入っていた。
おいらと同じ名前のカードって 面白いよなぁ」
ポン吉 「昔は 夜に酒を出す小料理屋の入り口には 狸の置物が置いてあってなぁ
そういう店の残飯は 肉や魚の端っこが多いのでねらい目じゃった」
たゑ 「狸の置物は 幸せを家に呼び込むんだって」
タヌ 「だから 私たちの姿を見ると 集まってきて 写メしたりするのかしら?」
一同 「さぁ~?」「どうだろう?」考え込む
ポンポン 「だったら どうして 私たちが 人を化かすって言われるの?」
太吉 「それは わしの愛らしいフォルムを見れば 魅了されるからだろう。」
たゑ 「子狸を見て 犬だと思ったり
大人の狸を見て アライグマだと思ったり
私たちの外見を見て ほかの生き物と間違えたりする人間達が 勝手に、
『化かされた~』って言っているだけだったりして・・」
太吉 「そんな 実も蓋も無いことを言わんでも・・」
たぬ吉「一つ確実に言えることは、 わしらは 腹鼓を打ったりはしない!
なのに なぜ 狸といえば ぽんぽこ狸の腹鼓になるのだ?」
一同そろって 「禿同!」