(27)必然の嘘
静寂が玉座の間を包み、先ほどの言葉を口にした後のシオンは、ふと短く息をつき、少しだけ肩の力を抜いた。アルマとカーライルの前でだけ自然とこぼれた本音。それに気づいた彼の顔に一瞬、微かな苦笑が浮かぶ。しかし次の瞬間、表情を引き締め直し、再び王族としての威厳を纏う。
「さて、話を戻そう。」
シオンは改めて落ち着きを取り戻し、玉座に据えたまなざしを二人に向けた。その視線には、静かな感謝と敬意が込められている。
「アルマ殿、カーライル殿、君たちには本当に感謝している。監査官が僕を暗殺しようとした企てを未然に防いでくれたおかげで、僕は命を繋ぐことができた。」
シオンの声は柔らかいが、その奥に秘められた感謝は深く、二人を静かに見つめる瞳には、言葉だけでは表しきれない真心が滲んでいた。それは、単に王族としての礼儀ではなく、一人の命を救われた者としての純粋な思いであった。
アルマはその言葉に一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに感情を抑え、慎ましく一礼を返す。その声には、自信と敬意が絶妙なバランスで込められていた。
「私たちは、ただできることをしたまでです。シオン殿下がご無事で何よりです。」
アルマの返答を受け、シオンは柔らかな微笑を浮かべた。その微笑みには、王子としての品格と同時に、年若い彼特有の純粋さが垣間見える。一方、カーライルは静かに頷くだけだったが、その仕草には言葉以上の共感と理解がにじんでいた。シオンもその反応を見逃さず、カーライルの沈黙の中に秘められた感情を感じ取ったようだった。
シオンは手を軽く振り、話を進める。
「君たちには相応の報酬を受け取ってほしい。」
脇に置かれていた書簡を手に取る仕草には、形式的な威厳だけでなく、どこか温かな気遣いが感じられた。彼は慎重にその書簡をアルマに差し出しながら、静かに言葉を添える。
「この書簡には、報酬の詳細が記されている。どうか確認してほしい。」
書簡を手渡す際、玉座の間には一瞬の緊張が漂ったが、シオンの柔らかな微笑によって、その場の空気はすぐに和らぐ。彼の声は命令ではなく、一つのお願いのように響き、その誠実な態度が場に穏やかな感情を広げた。
アルマは書簡を受け取り、静かに頷く。その慎ましい動作には、シオンの思いを正面から受け止める決意が込められていた。カーライルは変わらぬ無言のまま、二人のやり取りを見守っている。
ふと、シオンの表情が曇り、彼の瞳に真剣な光が宿った。そのまま、深い思索に沈むような口調で静かに言葉を続ける。
「ただ…監査官の動機がまだ明らかになっていないのが気がかりだ。」
「彼が特級ポーションの密造に関わり、マナの暴走を利用して僕を傷つけようとしたことは事実だが、なぜそんなことを犯したのか、未だに彼は何も語ろうとしない。」
シオンの言葉には、焦燥や苛立ちよりも、冷静に状況を見極めようとする慎重な思慮が滲んでいた。彼の声には淡々とした調子が宿り、どこか揺らぎのない意志を感じさせたが、その問いに対する答えをすでに知るアルマとカーライルは、互いの顔色を窺うことなく、あくまで自然に知らないふりで応じていた。
アルマは一瞬、表情を曇らせるように視線を落とし、わずかな間を置いてから慎重に答えた。
「残念ながら、私たちも彼の真の目的については何も掴めておりません。なぜ彼があのような行動を取ったのか、その動機は謎のままです。」
その返答には、ささやかな困惑が巧妙に織り込まれていたが、それはシオンに疑念を抱かせるためではなく、巧みに真実を隠すための計算された芝居であった。アルマの声は冷静さを保ち、わずかにためらいを含ませつつも、決して核心には触れず、むしろその微妙なニュアンスが彼女の返答に信頼性を与えていた。シオンは彼女の言葉を疑う素振りも見せず、静かに頷き、その言葉を受け入れた。
そして、アルマがふと何かを思い出したかのように、場を和らげるように話題を変えた。
「そういえば、我が領内のダンジョンで行われた王家の成人の儀は、いかがでしたでしょうか?」
アルマの声には丁寧な気遣いが込められ、礼儀正しさと適度な柔らかさが響いていた。しかし、その奥には微かな緊張が潜み、慎重に言葉を選んでいることが伝わる。彼女の問いかけは形式的なものに見えたが、内に秘めた意図は別のところにあった。
アルマとカーライルはすでに知っていた――第三王子シオンのマナがダンジョンコアと同期したという異常事態が起きたことを。しかし、それをシオンに悟らせないよう、アルマは巧妙に言葉を紡ぎ、何気ない質問に見せかけながら探りを入れた。
その問いには、真実を知られてはならないという強い意志が込められており、同時に、相手の本音に一歩でも近づこうとする鋭い探究心が漂っていた。玉座の間には、アルマの問いを受けて、一瞬だけ張り詰めた緊張感が走った。しかし、アルマの表情には変化がない。控えめな微笑を浮かべたまま、自然体を装い続ける彼女の姿は、どこまでも冷静で、揺るぎなかった。
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