(7)第三王子の儀礼
翌朝、領主の館に着くと、カーライルは衛兵たちの冷たい視線に迎えられた。荘厳な石造りの建物が、領主の権威をこれでもかと主張している。カーライルはその威容に一瞬目を奪われ、苦笑しながら頭を掻いた。
「またここか。毎度骨が折れるな。」
そう呟き、門の前で足を止める。
「悪いが、お嬢さんを呼んでくれないか?」
穏やかに頼むも、衛兵たちは疑念の目を向けたまま。
一人が冷ややかに問い返す。
「お前は誰だ? 何の用だ?」
カーライルは肩をすくめ、皮肉交じりに笑った。
「カーライルだ。冒険者酒場で愚痴を聞いてる者さ。名前くらい聞いたことがあるだろ?」
だが、衛兵たちは微動だにしない。
(いい加減、顔くらい覚えてほしいもんだな。)
内心でため息をつきながら、再び口を開く。
「とにかく、アルマの嬢ちゃんに俺が来たと伝えてくれ。」
しかし、一人が鼻で笑いながら言い放つ。
「身分をわきまえろ。お嬢様を気軽に呼び出せるとでも思ってるのか?」
カーライルは目を細め、声を抑えた。
「好きで来てるわけじゃない。ただ、どうしても話が必要でね。」
そのとき、奥から軽やかな足音が響く。
重厚な扉が開き、明るい声が場の緊張を破った。
「カーライル!」
朝日に輝く金髪がふわりと揺れる。
アルマが姿を現すと、衛兵たちは直立不動になり、敬礼した。
アルマは驚きと喜びの入り混じった表情でカーライルを見つめる。
「急に来るなんて、びっくりしたわ。連絡くらいしてくれればいいのに。」
そっけない言葉だが、瞳には嬉しさがにじんでいる。
「悪かったな。」
カーライルは肩をすくめ、衛兵たちを指して続けた。
「こいつらに怪しまれてさ。」
「もう……」
アルマは軽くため息をつき、衛兵たちに命じた。
「彼は私の客人よ。もういいわ。」
衛兵たちは頭を下げ、静かに引き下がる。
カーライルは小さく笑い、アルマに近づいた。
「立派だな、嬢ちゃん。あんたがいなきゃ、門前払いされるとこだった。」
「そうね。でも次はちゃんと連絡してちょうだい。」
アルマは注意しつつも、彼を館の中へ案内する。応接室に通され、カーライルは深い革張りのソファに腰を下ろした。重厚なテーブルを軽く叩きながら、つぶやく。
「毎度のことだが、落ち着くには豪勢すぎるな。」
アルマは向かいのソファに座り、微笑を浮かべる。
「それで、今日は何の話?」
「酒場で妙な話を聞いてな。」
カーライルは身を乗り出し、真剣な顔つきで話し始める。
「第三王子が儀礼でこの街に来るらしい。護衛に冒険者が駆り出されるって話だ。」
「それに、特級ポーションの話も絡んでる。」
アルマの眉が動き、瞳が鋭さを増す。
「霊草不足と関係があると?」
「可能性は高い。ただ、工房の連中がその話を知らないのが気になる。」
アルマは目を伏せ、考え込む。
「なら、もう一度工房で直接確認してみる。」
「それがいい。」
カーライルは頷き、冗談めかして笑う。
「嬢ちゃんなら、うまくやれるさ。」
アルマは軽く微笑み、立ち上がった。
「急がないと。」
その一言に、彼女の決意がにじみ出ていた。彼女の背中を見送りながら、カーライルは椅子に深くもたれかかる。苦笑し、つぶやいた。
「やれやれ、若いってのは勢いの塊だな。」
そう言いつつも、彼も席を立ち、アルマの後に続く。館を出ると、先ほどの衛兵たちが再び姿を見せる。どこか気まずそうな顔を隠せない彼らに、カーライルは軽く手を振った。
「次は通してくれると助かるな。もう俺に危険がないのは分かっただろ?」
軽い冗談に、衛兵たちは小さく頭を下げ、視線を逸らす。柔らかな陽光が石畳を照らし出す。カーライルは肩を回し、大きく伸びをした。
「さて、少し休んでから酒場に行くか。」
「今日はどんな愚痴が聞けるんだか。」
独り言を漏らしながら、軽やかな足取りで通りへと消えた。
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