(6)特級ポーションの使途
深夜、酒場の薄暗い灯りがぼんやりと空間を照らしていた。普段なら、愚痴を聞き流しながら酒を楽しむ時間。カーライルにとって唯一の癒やしだった。
だが今夜は違う。
頭に引っかかる疑念が、静かな時間を曇らせていた。
周囲から聞こえる常連客たちの愚痴をぼんやり聞いていると、気になる話が耳に飛び込んできた。
「第三王子様が十五歳の儀礼で、この街のダンジョンに来るらしいぜ。」
隣の冒険者がジョッキを置きながらぼやく。
「護衛がまた増えるって話だ。」
カーライルは軽く相槌を打ち、エールを喉に流し込む。
「儀礼とはいえ、王族の護衛は気が抜けないだろう。」
「だな。」
冒険者は肩をすくめ、続ける。
「形式的なものだろうが、ダンジョンに入る以上、危険はつきものだしな。」
別の冒険者が、羨望混じりに口を挟んだ。
「けど王子様は特級ポーション持ってんだろ? あれさえあれば、どんな怪我も瞬時に治る。俺らとは違うぜ。」
その言葉を聞いた瞬間、カーライルの思考が動き出した。
特級ポーション――
製造には、大量の高品質な霊草が必要だ。
アルマが言っていた『霊草が届かない』という話と、この情報が自然に結びつく。
(まさか、王子の来訪に備えて工房が特級ポーションの製造を優先しているんじゃないか?)
考えは徐々に形を成し、もしそれが事実なら、工房が通常のポーション生産を後回しにしている理由も説明がつく。
「嬢ちゃんが気にしてた霊草不足、これが原因なら大したことじゃねぇな。」
カーライルはそう結論づけかけたが、別の疑念が浮かび上がる。
(…でも、なんで現場の連中には何も知らされてないんだ?)
儀礼の準備が街全体の一大事である以上、現場にも説明があって然るべきだ。
それがないのは妙だ。
「…裏で何かが動いてるのか。」
低い呟きが、静かな酒場の空気に溶け込む。
カーライルはジョッキを置き、深いため息をついた。
「マスター、今日はこれで。」
軽く手を振りながら立ち上がる。その足取りには、普段とは違う重みがあった。
(嬢ちゃんに動いてもらうしかない。工房で何が起きてるか、もっと突っ込んで調べる必要がある。)
カーライルは翌朝、領主の館へ向かうことを決意する。
石畳に響く足音が、静寂を切り裂く。
カーライルは苦笑を浮かべた。
(銀貨一枚、また損だな。でも、たまには損も悪くない。)
その目には、まだ見ぬ真相を追い求める光が宿っていた。
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