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愚痴聞きのカーライル ~女神に捧ぐ誓い~  作者: チョコレ
第三章 建国の女神様
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(10)心の変容

 宿屋の一室には、旅の疲れを癒す静かな空気が漂っていた。窓の外には夜の帳が降り始め、街の明かりがぼんやりとした光を投げかけている。アルマとフィオラはそれぞれのベッドに身を沈め、穏やかな時間を共有していた。アルマは持参したふわふわの寝間着に着替え、その柔らかな感触が心を解きほぐしていくのを感じていた。布地が肌に触れるたび、長い旅路で張り詰めていた気持ちが緩やかにほどけていき、アルマは自然と微笑みを浮かべた。


「さすがあねさんやな、用意周到やで」と、フィオラが少し羨ましそうにアルマの寝間着を見ながら言った。


「これだけは忘れられなかったの」とアルマは笑いながら答えた。「旅の間、少しでも家にいるような気分になりたかったから。」


 一方で、フィオラは「寝られればそれでええやん」と言わんばかりに、手近な服のままベッドに飛び込んでいた。乱雑に掛けた寝具に包まれながら、彼女は無造作な仕草で安らぎを見つけていた。その飾らない姿は、細部にまで気を配るアルマとは対照的だったが、どこか安心感を与える雰囲気を醸し出していた。


 部屋には穏やかな静寂が広がり、二人の間に流れる空気は穏やかそのものだった。アルマは天井を見上げながら、これまでの旅を思い返していた。聖堂で過ごした静謐なひとときや、学院長との会話。すべてが新しい扉を開くような体験だったが、その一方で、自分の中に何かが静かに揺れ動いているのを感じてもいた。


 その沈黙を破ったのは、フィオラの何気ない一言だった。「なぁ、あねさん。あんちゃんのこと、どう思っとるん?」


 唐突な質問に、アルマの心は跳ねた。胸の奥に小さな波紋が広がり、心臓の鼓動が一瞬だけ速くなるのを感じる。


「え? 何のこと?」アルマは動揺を隠すように問い返したが、その声には戸惑いがにじんでいた。


 フィオラはにやりと笑い、「あんちゃんのことやで。ぶっきらぼうやけど、結構頼りになるし、ええ人やんか」と軽やかに続けた。


「そんな…考えたこともないわ!」アルマは慌てて答えたが、その声には微かな震えが混じっていた。自分の中で何かがざわめく感覚に、アルマ自身が驚いていた。


「ほんまに?」フィオラは肩をすくめるように笑みを浮かべ、「あねさん、そう言うけど、ウチにはなんとなくわかるんやけどなぁ」と茶化すように言った。


 アルマはフィオラの軽口に苦笑しつつも、心の奥では否定しきれない感情に揺れていた。カーライルのぶっきらぼうながらも誠実な姿や、どこか安心感を与える存在。旅の中で何度も助けられ、そのたびに感じた小さな温かさが、今になって彼女の中で形を持ち始めているようだった。


「彼は…ただの仲間よ。頼りになるけど、それだけ。それ以上でも以下でもないの」と、アルマは視線を逸らしながら言い添えた。


 フィオラは寝具に身を潜めつつ、軽く「まぁ、そんなん言っとけ。ウチは楽しみにしとるで」とからかい、間もなく穏やかな寝息を立て始めた。


 アルマは一人、天井を見上げたまま、胸の中で繰り返されるフィオラの問いに思いを巡らせていた。「あんちゃんのこと、どう思っとるん?」――その言葉が、心の奥深くに響き、彼女の感情の扉をそっと叩いていた。


 カーライルの無骨な姿、時折見せる優しい眼差し――それらが胸の中に浮かび、アルマはその記憶の一つひとつが、自分にとってどれほど大切だったかに気づき始めていた。しかし、彼への感情が何なのか、まだ言葉にはできなかった。ただ、その思いが確かなものであることだけは、静かに心に刻まれていた。


 アルマは目を閉じ、フィオラの寝息を聞きながら、ゆっくりと眠りにつこうとしたが、胸の中のざわめきが完全に消えることはなかった。旅の疲れとともに、彼への思いがゆっくりと心の奥に染み渡り、アルマはその感覚を否応なく受け入れるしかなかった。

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