(30)真理への儀式
カーライルは深く息を吐き、ミラーゴーレムが完全に崩壊した後に訪れた静寂を感じ取った。冷気が戦場を包み込み、肌を刺すような冷たさが戦いの余韻を洗い流すかのようだった。先ほどまでの激闘がまるで遠い記憶のように思える中で、彼の心には微かな不安が残っていた。
「こんな化け物が初級ダンジョンに出てくるとはな…“安心安全”って看板は、下ろすしかないな。」冗談めかした口調だったが、その声には重みが宿り、戦いの激しさを物語っていた。ダンジョンの異変、そしてモンスターの異常な強さ――その背後には、何か大きな問題が潜んでいるという疑念が、カーライルの胸をざわつかせていた。
フィオラは疲労を隠せない笑みを浮かべながら肩をすくめた。「ほんまやで。ただのダンジョンちゃうやん。これ、特級って言ってもええくらいやわ。」彼女の声は軽い調子を装っていたが、その背中にはまだ緊張が色濃く残っていた。
フィオラは迷うことなく散らばったクリスタルの破片や輝きを失ったゴーレムのコアを手に取り、リュックに次々と詰め込んでいく。その動きは迅速で無駄がなく、まるで「先手必勝」と言わんばかりだった。普通なら戦利品の分配について話し合う場面だが、彼女の行動に対してカーライルもアルマも何の異議も挟まなかった。
彼女が戦いの中で投入した素材の多さ、戦場での献身――それを二人は誰よりも理解していた。それらを回収することは、彼女が勝ち取った正当な報酬だった。むしろ、カーライルとアルマの胸には、もっと何か恩返しをしなければという思いさえ浮かんでいた。
フィオラが素材収集に集中している間、アルマは静かにその場を離れた。視線を奥の部屋に向けると、そこには神秘的な輝きを放つ球体――ダンジョンコアが鎮座していた。その光は、全てを見透かすかのような冷たい威圧感を漂わせ、アルマを引き寄せるように存在感を放っていた。
「これが…ダンジョンコア。」アルマは小さく呟くと、その輝きに引き寄せられるように慎重に歩を進めた。カーライルも無言で彼女の隣に並び、同じペースで歩みを揃えた。
二人がダンジョンコアの前に立った瞬間、場の空気が変わった。アルマは深く息を整え、冷静な瞳でコアを見据える。「この異変の原因…確かめさせてもらうわ。」その言葉には揺るぎない決意と使命感が込められていた。
彼女の指先が僅かに動くと、空気が震え、淡い光が彼女を中心に螺旋を描き始める。魔力が緩やかに収束し、空間に複雑な紋様が浮かび上がった。その一つ一つが、静かな波動を放ちながら完璧に形を成していく。
フィオラはその光景に目を奪われ、思わず息を飲んだ。「すご…こんなん、ウチにはようできひんわ。」その声には畏敬と驚きが滲んでいた。彼女の目の前で展開される光景は、単なる魔法ではなく、世界の理そのものを紡ぎ出しているかのようだった。
しかしアルマは彼女の言葉に反応することなく、全神経を魔法に集中させていた。瞳には強い意志が宿り、張り詰めた空気の中で、彼女はさらに深くコアの内部を探るように術式を展開していく。「コアの奥深くまで…全て探ってみる。」
魔法陣が輝きを増し、部屋全体を包み込むように光が広がっていく。その光はダンジョンコアをも飲み込み、静けさの中に緊張感を漂わせた。カーライルとフィオラは、その圧倒的な光景をただ見守るしかなかった。彼らの胸には、アルマへの信頼と、この状況を打開してくれるという確信が揺るぎなく宿っていた。
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