(19)絶望に抗う心
カーライルは、目の前にそびえ立つゴーレムの巨大な体躯をじっと見上げた。広間を支配する圧倒的な存在感に包まれながらも、その視線は冷静さを失わず、動きを追い続けている。全身を覆う堅固なクリスタルの層。その硬さが、一目で有効な攻撃を与える困難さを物語っていた。それでも、彼の瞳に諦めの色はなかった。希望の灯火を胸に秘め、突破口を探し続ける。
ふと、カーライルの視線がゴーレムの結合部分に止まった。巨大なクリスタル同士を繋ぎ合わせている光の束――青白く脈動するマナの光。それは他の部分に比べて脆弱な印象を与えていた。
「ここだ…!」カーライルは確信を得た。その結合部分こそが唯一の突破口だと見定め、一瞬で覚悟を決めた。双剣を構え、狙いを定めるのはゴーレムの膝の結合部。
その時、ゴーレムの巨腕が轟音とともに振り下ろされる。空間を切り裂くその一撃を、カーライルは紙一重で回避すると、素早く間合いを詰め、全力で双剣を振り下ろした。
「ガンッ!」
鈍い衝撃音が広間に響き渡る。双剣は結合部分に深く食い込み、マナの光が強く明滅する。しかし、期待していたほどの効果はない。剣が作り出したのは、ほんのわずかな亀裂に過ぎなかった。
「ただの光かと思いきや…圧縮されたマナか。なんて硬さだ…!」カーライルは息を整える暇もなく、再び剣を振り上げた。全身の力を込めた二度目の一撃。それでも、わずかな亀裂を広げるにとどまり、ゴーレムの体を崩すには程遠かった。
「これじゃ…通じない…!」
苛立ちと焦燥感を押し殺しながら、カーライルは冷静さを保とうと努める。冷や汗が頬を伝う中、剣を引き抜きつつ後退し、次の一手を模索する。
一方、フィオラは遠くからその様子を見つめていた。筒をしっかりと握りしめながら、彼女も突破口を探している。焦りと不安が胸の奥で膨らむが、今の自分にできることは限られていた。
その時、ゴーレムが突然巨体を揺らし、フィオラに向かって猛然と突進してきた。圧倒的なスピードで迫る巨体に、彼女は一瞬息を呑み、体が硬直する。
「やばっ!」
咄嗟に筒に素材を投入し、土の壁を形成して防ごうとする。しかし――。
「ドゴオオオオオオンッ!」
激しい衝撃音が鳴り響き、土の壁は一瞬で粉々に砕け散った。ゴーレムの圧倒的な力に防御は無力で、フィオラの体は空中に放り出された。
冷たい壁に激しく叩きつけられたフィオラの全身に衝撃が走り、痛みが瞬時に広がる。呼吸が詰まり、一瞬意識が遠のきそうになる中、彼女は鈍い痛みに耐えながら必死に動こうとした。しかし、体は言うことを聞かない。
「フィオラ!」
カーライルの叫びが広間に響く。ゴーレムが次の攻撃を仕掛けようとしているのを察知した彼は、剣を構え直し、彼女を守るために立ちはだかる。
フィオラは必死に体を起こそうとするが、視界が揺れ、頭がぼんやりとしている。痛みと疲労が彼女を縛り付けていた。「こんなん、どうしたらええんや…」弱々しい苦笑を浮かべつつも、彼女の中の闘志は消えていない。
「動けるか?」カーライルが攻撃をかわしながら問いかける。その声には信頼と時間の切迫感が滲んでいた。
「なんとか…!」
フィオラは震える手でリュックからポーションを取り出し、一気に飲み干す。光属性のマナが体内を満たし、傷を徐々に癒していく。わずかに呼吸が楽になり、再び力が戻りつつあった。
だが、ゴーレムは攻撃の準備を整えつつあり、時間は彼らに味方しない。フィオラは再び筒を構え、震える手で次の策を練る。
「このままやと、ウチらの攻撃は通らん…せやけど、何か他に方法があるはずや…!」
震える声で自分に言い聞かせながら立ち上がった彼女の瞳には、戦いを諦めない決意の光が宿っていた。
次の瞬間、ゴーレムが猛烈な速度で突進を開始した。地響きと共に迫る巨体に、空間全体が押し潰される感覚が広がる。
「危ないっ!」カーライルは叫び、全力でフィオラを弾き飛ばした。彼女の体は床を転がり衝撃を逃れるが、目の前にはゴーレムの直撃を受けたカーライルの姿があった。
「なんで…!」
フィオラが驚きの声を上げる間もなく、カーライルはゴーレムの一撃で宙を舞い、壁に叩きつけられる。その鈍い音が響き渡り、フィオラの胸に冷たい恐怖が広がった。
「あんちゃん!」
フィオラは叫びながら駆け寄る。崩れ落ちた彼の顔は青ざめ、荒い呼吸が痛みに耐える様子を物語っていた。
「ぐっ…すまん…」カーライルの声は掠れ、苦痛と疲労がその一言に込められていた。フィオラは彼を必死に支えようとするが、彼の体の重さに耐えきれず、自分も膝をつく。震える手で彼の肩を支えながら、顔を上げると、迫り来るゴーレムの巨大な影が二人を覆おうとしていた。
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