(11)孤立と窮地
カーライルの周囲を漂う冷気は、死神の影のようにじわじわと彼の肌に染み込んでいった。ゴーストスライムの存在感は冷たさと共に微かに感じ取れるが、その姿は掴みどころがなく、視界には捉えられない。半透明の体が一瞬光を反射して浮かび上がったかと思えば、次の瞬間には闇の中へと消えていく。その動きは霧の中を漂う影のようで、虚無感を伴ってカーライルの神経を逆撫でするばかりだった。
「どこだ…!」カーライルは低く唸るように呟きながら双剣を構えた。しかし、振り下ろすたびに刃は虚しく空を切り裂くだけ。手ごたえのない攻撃に苛立ちが募り、彼の動きは徐々に粗さを増していく。汗が額を伝い落ち、呼吸は次第に浅く、荒くなっていった。
冷静さを欠いたまま振り返ると、不吉な気配が背後に忍び寄るのを感じた。反射的に双剣を振り下ろしたが、またしても空振り。ゴーストスライムは音もなくその場をすり抜け、別の位置に現れる。その不規則な動きに翻弄され、カーライルの視線は追いつけなかった。
「こんな相手に…俺が…」心の中で自らへの苛立ちと失望が渦巻く。若い頃ならば容易に切り裂いていたはずの敵が、今では手に余る存在となっている。その現実が彼の胸を締め付けた。
そして、不意を突かれたかのように、ゴーストスライムの半透明の体が闇から浮かび上がり、音もなくカーライルに迫った。直感で剣を構えようとしたが、その動作はわずかに遅れた。スライムの冷たい体が彼の腹に衝撃を与え、まるで内臓を握り潰されるような鈍痛が走った。
「くっ…!」声を漏らす間もなく、彼の体は力を失い、膝をつく。その場に崩れ落ちたカーライルは、腹部を押さえながら浅い呼吸を繰り返す。視界が歪み、世界が薄暗い霧に包まれていくようだった。
双剣は手から滑り落ち、冷たい地面に触れる音だけが虚しく響く。彼の意識は薄れ始め、冷気が全身を蝕む中で、次の一撃を防ぐ術は思いつかなかった。
「…こんなところで終わるのか…」その呟きは虚空に溶けるように消えた。闇が濃くなり、ゴーストスライムの冷たい気配が一層濃厚に迫りくる。カーライルの体は動かず、ただ死神の手が徐々にその命を掴もうとするのを待つしかなかった。
周囲の静寂は、絶望をますます際立たせた。暗闇が完全に彼を飲み込む寸前、カーライルはぼんやりと、過去の自分と今の自分を思い返していた。だが、その思考すらも、闇に引きずり込まれるかのように薄れ、彼の意識は徐々に遠のいていった。
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