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愚痴聞きのカーライル ~女神に捧ぐ誓い~  作者: チョコレ
第一章 霊草不足のポーション
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(20)影に沈む刃

 監査官の足元には黒い影が広がり、そこだけが夜よりも深い闇に染まる。光の雨が墓地を照らし、静寂を神聖なものへと変えようとしても、彼の周囲だけは影の領域に支配されていた。


 冷ややかな声が、その場の空気を凍りつかせる。


「私を裁くつもりか?」


 その声には、嘲笑と威圧、そして絶対的な自信が滲んでいた。監査官はマントを翻しながら一歩踏み出し、光を押し返すように影が広がる。


 アルマは息を詰まらせた。光の魔法が通じない――いや、すべてを吸収されていく。その現実が彼女の胸に重くのしかかった。しかし、それでも彼女の瞳に宿る闘志は揺るがない。


「お前の光は、私には届かないようだな。」


 監査官は指を軽く振るうと、闇の波紋が地面に広がる。それと同時に、無数の氷の剣が音もなく出現し、アルマへと殺到した。


 アルマは咄嗟に炎の壁を作り出し迎え撃つ。しかし、氷の刃はそれを容易く貫き、冷たい鋭刃が彼女の肩をかすめた。


「…っ!」


 鋭い痛みに歯を食いしばる。監査官は冷淡にその様子を眺めながら、ゆっくりと手を掲げた。


「では、次はこちらの番だ。空に眠りし風の精霊よ、我が声に応え、その力を嵐として解き放て。風の輪舞よ、今ここに顕現せよ――天嵐舞踏(ストーム・リヴァリエ)!」


 詠唱が終わると、大気が震え、墓地に轟音が響き渡る。突如として現れた巨大な竜巻が、墓地の地面を抉りながら猛然と迫る。風は石碑をなぎ倒し、あらゆるものを巻き上げていく。


 アルマは即座に幾重もの光の障壁を展開する。しかし、その防壁は監査官の竜巻の前にあまりにも脆く、瞬く間に粉砕された。


 次の瞬間、アルマの身体は激しい突風に巻き込まれ、制御を失ったまま宙へと放り投げられる。


「くっ…!」


 強烈な勢いで地面へ叩きつけられ、激痛が全身を駆け抜けた。視界が揺らぎ、意識が遠のきそうになるが、彼女は必死に耐える。


 足に走る鋭い痛みが現実を引き戻す。氷の剣による切り裂き傷から、赤い血が静かに地面に滴り落ちる。その音がやけに遠く聞こえた。


 荒い息をつきながら、アルマは震える身体を奮い立たせる。膝をつきながらも、彼女の瞳には消えぬ闘志が宿っていた。


 監査官は冷ややかにアルマを見下ろし、口元に不敵な笑みを浮かべる。


「理想を掲げるだけで世界が救えるなら、誰も苦しみはしない。」」


 再び闇が渦巻き、彼の背後に漆黒の槍がいくつも形成されていく。


 アルマは奥歯を噛みしめ、かすれた声で仲間の名を呼んだ。


「カーライル…」


 その声には疲労と痛みが滲んでいたが、不屈の決意もまた込められていた。


「私…とっておきを使うわ。」


 彼女は荒い息を整えながら静かに言葉を紡ぐ。


「反動が大きいから…多分、しばらく動けなくなる。あとは…お願い。」


 カーライルは険しい表情で彼女を見つめ、その言葉に込められた覚悟を感じ取ると、静かに頷いた。


「嬢ちゃん、無茶だけはするなよ。」


 アルマは微かに笑みを浮かべる。


「大丈夫…負けないから。」


 彼女は杖をしっかりと握りしめると、全身から溢れ出すマナが次第に輝きを増していく。その光景に、監査官の表情が僅かに曇った。


「何を…しようとしている?」


 監査官の低い声が響く。しかし、アルマはその問いには答えず、ただ静かに目を閉じる。彼女の中で湧き上がる力は、風すらも飲み込むほどに増大していった。

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@chocola_carlyle

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