(18)消滅の闇
墓地に漂う冷気の中、爆発の余韻がまだ微かに残る。監査官は荒い息を整えながら、静かに口を開いた。
「嘘に気づいたとき、私はその嘘を利用することを決めた。」
低く抑えた声には、怒りと深い絶望が滲んでいた。
「『エデルハイトの再来を防ぐ』――そんな美名のもとで作られた監査官制度。その虚飾に身を投じたのは、真実を探るためだった。」
彼の言葉は墓地の闇を裂くように響く。
「上級監査官に昇進した昨年、ようやく王立魔法研究所の機密資料に触れる権利を得た。そして、膨大な記録を読み漁るうちに、ついに見つけたんだ――『ダンジョンのマナを用いた大規模共鳴』の研究論文を。」
監査官の口元に歪んだ笑みが浮かぶ。
「そこにはこう記されていた――『ダンジョンコアに蓄積されたマナを解放し、周囲の魔石や魔具に干渉して共鳴反応を引き起こす。これにより広範囲に爆発を誘発する』と。つまり、敵対勢力がどんな武装をしていようと、その魔石や魔具すべてを“自滅をもたらす兵器”に変えられるということだ。」
カーライルは眉を寄せ、低く呟いた。
「…魔石や魔具で重武装した軍勢ほど、その爆発の影響で壊滅的な被害を受けるってわけか。」
アルマの声には震えが混じっていたが、それでも問いかける。
「でも…それはあくまで理論よね? 王立魔法研究所は国を守るための機関でしょ? マナを使った防衛技術の研究をしているだけじゃないの?」
監査官は一瞬目を伏せ、苦しみを噛み締めるように息を詰めた。そして、押し殺した声で続ける。
「理屈だけなら、まだ救いはあったかもしれない。」
夜の静寂が、彼の言葉の重みを引き立てる。
「だが、すべてが繋がったのは、亡き妻の最後の手紙を思い出したときだ。エデルハイト消滅の知らせが届いた直後に送られてきた、一通の手紙。」
監査官は拳を握りしめ、深く息をついた。
「そこには、こう記されていた――『王妃様が街外れのダンジョンを訪れたそうよ。護衛の騎士たちと白いローブを纏った方々が同行し、厳重な警戒態勢が敷かれていた。何かただならぬことが起きているようだった』と。」
監査官の指が無意識に震える。その動作は痛みを堪えるようであり、怒りを抑え込んでいるようでもあった。
「そして、息子のことも書かれていた。騎士を見上げ、『僕も大きくなったら天剣の騎士団に入って王妃様を守るんだ!』と誇らしげに話していた、と。」
アルマの胸が強く締め付けられる。白いローブ――それは王妃が長を務める王立魔法研究所の正装。王妃という崇高な存在が、都市の消滅に関与していた可能性。その考えが頭をよぎるたび、心の奥底からざわめきが広がっていく。
「まさか…。」
アルマは震える声で呟いた。
「でも、それでも事故だった可能性は…?」
「王妃様がわざわざ街を滅ぼす必要があるの?」
監査官は深く息を吸い込み、静かに答えた。
「事故であるなら、なぜ王妃がエデルハイトを訪れた記録が研究所に残されていない?」
その言葉が墓地の空気を凍りつかせる。
アルマは言葉を失い、視線を落とした。
「そんな…」
小さな呟きだけが、静寂の中に消えていった。
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