(17)隠された厄災
墓地を包む静寂は、まるで時間が凍りついたかのようだった。監査官は不気味な存在感を漂わせながら、肩を小刻みに震わせている。顔には怒り、憎しみ、深い苦悩が渦巻き、周囲の空気を異様なものへと変えていた。
アルマとカーライルは彼をじっと見つめた。圧倒されながらも、その内面に踏み込もうとする。しかし、彼の感情に触れるたび、底知れぬ不安がじわじわと心を侵食していく。
「あなたは一体、何をしようとしているの?」
アルマの静かな問いが夜の墓地に響く。探求心と警戒が滲んだ声だった。杖を握る手に力を込め、まっすぐ監査官を見据える。その瞳には、彼の本質を見極めようとする鋭い意志が宿っていた。
「何が、そこまでお前を突き動かしているんだ…?」
カーライルが低く呟く。その声には、数多の人の葛藤を見てきた者ならではの鋭さがあった。しかし、目の前の監査官が抱えるものは、彼が知る怒りや悲しみとはどこか異質だった。
監査官はゆっくりと視線を向ける。その瞳には狂気が宿り、荒れ狂う感情が渦巻いていた。
「お前たちには、絶対に理解できない!」
声が墓地の静寂を引き裂いた。怒りだけではない。憎しみ、絶望、そして計り知れない苦しみが滲んでいた。
「エデルハイトの暴走…あれは、私のすべてを奪い去ったんだ!愛する者、故郷、未来、そのすべてを!」
握りしめた拳が白く変色し、抑えきれない感情が体を震わせる。アルマは息を詰まらせながらも、冷静を装った。慎重に言葉を選びながら問いかける。
「でも…それは不幸な事故。誰かを責められるようなものでは…」
彼の苦しみに寄り添おうとする優しさが滲んでいた。だが、その言葉が監査官の怒りをさらに煽る。
「事故だと?」
鋭い視線がアルマを射抜く。その目には、怒りと悲しみが入り混じっていた。
「ああ、もし事故だったなら…私はまだ生きる意味を見つけられたかもしれない。すべてを失っても、運命を呪いながら進むこともできただろう!」
声は荒々しいが、その奥には深い悲しみが隠されていた。冷たい夜風が彼の言葉をさらい、墓地の空気をさらに重くする。
アルマはわずかに顔を曇らせたが、問いを重ねる決意を固めた。
「…じゃあ、事故じゃなかったというの?」
慎重な声に緊張が滲む。
監査官は視線を落とし、拳を震わせながら低く呟いた。
「本当に事故だと思うか?」
沈黙の後、ゆっくりと顔を上げる。冷たい眼差しがアルマを捉え、その瞳には疑念と鋭い追及の光が宿っていた。
「マナの暴走がどういうものか、魔法使いのお前なら分かるはずだ。制御を失ったマナが、他のマナと共鳴し、最終的に爆発を引き起こす。今、お前が見せたようにな。」
一歩前に踏み出す。その声がさらに重く響いた。
「だが、問題はその規模だ。一軒の魔石屋から暴走したマナが、どうして街全体を覆うほどの災害を引き起こせる?」
短く息を吐き、言葉を選びながら続ける。
「超高純度の特級魔石、それも大量に使われなければ不可能だ。そんな代物は、私のような上級監査官ですら手に入らない。それを、あの店主が扱っていたとでも言うのか?」
冷笑が口元に浮かぶ。その声には嘲りが混じっていた。
「もしそんな店が本当に存在するなら、王都どころか全大陸の注目を浴びているはずだ。それでも聞いたことがない。そんな話は荒唐無稽だ。」
墓地の冷たい空気がさらに張り詰め、監査官は再びアルマを睨みつける。冷徹な怒りを宿した視線が、彼の次の言葉をより鋭くした。
「たった一つの魔石の扱いミスで街全体が破壊されるなんて、そんな馬鹿げた話を信じられるほど、私は愚かではない。」
その言葉が空気を震わせ、アルマとカーライルは押し黙った。アルマの胸の奥で、これまで信じてきた公式発表への疑念が、静かに、しかし確実に膨らんでいく。
監査官は静かに、だが確信に満ちた声で言葉を締めくくった。
「雨のように街全体を覆うほどの暴走マナ。それ以外に、あの規模の爆発を説明する方法はない。」
墓地の静寂を打ち破るその声が、冷たい石碑に反響する。彼の鋭い眼差しがアルマとカーライルを貫き、その重々しい真実の重みが二人に深く刻み込まれた。
アルマはゆっくりと目を伏せ、心の中でその言葉の意味を必死に探った。監査官の告げた事実が、国が隠してきた陰謀の一端を暴きつつある――そんな確信が、じわじわと胸の内に広がっていった。
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