表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚痴聞きのカーライル ~女神に捧ぐ誓い~  作者: チョコレ
第一章 霊草不足のポーション
19/189

(17)隠された厄災

 墓地を包む静寂は、まるで時間が凍りついたかのようだった。監査官は不気味な存在感を漂わせながら、肩を小刻みに震わせている。顔には怒り、憎しみ、深い苦悩が渦巻き、周囲の空気を異様なものへと変えていた。


 アルマとカーライルは彼をじっと見つめた。圧倒されながらも、その内面に踏み込もうとする。しかし、彼の感情に触れるたび、底知れぬ不安がじわじわと心を侵食していく。


「あなたは一体、何をしようとしているの?」


 アルマの静かな問いが夜の墓地に響く。探求心と警戒が滲んだ声だった。杖を握る手に力を込め、まっすぐ監査官を見据える。その瞳には、彼の本質を見極めようとする鋭い意志が宿っていた。


「何が、そこまでお前を突き動かしているんだ…?」


 カーライルが低く呟く。その声には、数多の人の葛藤を見てきた者ならではの鋭さがあった。しかし、目の前の監査官が抱えるものは、彼が知る怒りや悲しみとはどこか異質だった。


 監査官はゆっくりと視線を向ける。その瞳には狂気が宿り、荒れ狂う感情が渦巻いていた。


「お前たちには、絶対に理解できない!」


 声が墓地の静寂を引き裂いた。怒りだけではない。憎しみ、絶望、そして計り知れない苦しみが滲んでいた。


「エデルハイトの暴走…あれは、私のすべてを奪い去ったんだ!愛する者、故郷、未来、そのすべてを!」


 握りしめた拳が白く変色し、抑えきれない感情が体を震わせる。アルマは息を詰まらせながらも、冷静を装った。慎重に言葉を選びながら問いかける。


「でも…それは不幸な事故。誰かを責められるようなものでは…」


 彼の苦しみに寄り添おうとする優しさが滲んでいた。だが、その言葉が監査官の怒りをさらに煽る。


「事故だと?」


 鋭い視線がアルマを射抜く。その目には、怒りと悲しみが入り混じっていた。


「ああ、もし事故だったなら…私はまだ生きる意味を見つけられたかもしれない。すべてを失っても、運命を呪いながら進むこともできただろう!」


 声は荒々しいが、その奥には深い悲しみが隠されていた。冷たい夜風が彼の言葉をさらい、墓地の空気をさらに重くする。


 アルマはわずかに顔を曇らせたが、問いを重ねる決意を固めた。


「…じゃあ、事故じゃなかったというの?」


 慎重な声に緊張が滲む。

 監査官は視線を落とし、拳を震わせながら低く呟いた。


「本当に事故だと思うか?」


 沈黙の後、ゆっくりと顔を上げる。冷たい眼差しがアルマを捉え、その瞳には疑念と鋭い追及の光が宿っていた。


「マナの暴走がどういうものか、魔法使いのお前なら分かるはずだ。制御を失ったマナが、他のマナと共鳴し、最終的に爆発を引き起こす。今、お前が見せたようにな。」


 一歩前に踏み出す。その声がさらに重く響いた。


「だが、問題はその規模だ。一軒の魔石屋から暴走したマナが、どうして街全体を覆うほどの災害を引き起こせる?」


 短く息を吐き、言葉を選びながら続ける。


「超高純度の特級魔石、それも大量に使われなければ不可能だ。そんな代物は、私のような上級監査官ですら手に入らない。それを、あの店主が扱っていたとでも言うのか?」


 冷笑が口元に浮かぶ。その声には嘲りが混じっていた。


「もしそんな店が本当に存在するなら、王都どころか全大陸の注目を浴びているはずだ。それでも聞いたことがない。そんな話は荒唐無稽だ。」


 墓地の冷たい空気がさらに張り詰め、監査官は再びアルマを睨みつける。冷徹な怒りを宿した視線が、彼の次の言葉をより鋭くした。


「たった一つの魔石の扱いミスで街全体が破壊されるなんて、そんな馬鹿げた話を信じられるほど、私は愚かではない。」


 その言葉が空気を震わせ、アルマとカーライルは押し黙った。アルマの胸の奥で、これまで信じてきた公式発表への疑念が、静かに、しかし確実に膨らんでいく。


 監査官は静かに、だが確信に満ちた声で言葉を締めくくった。


「雨のように街全体を覆うほどの暴走マナ。それ以外に、あの規模の爆発を説明する方法はない。」


 墓地の静寂を打ち破るその声が、冷たい石碑に反響する。彼の鋭い眼差しがアルマとカーライルを貫き、その重々しい真実の重みが二人に深く刻み込まれた。


 アルマはゆっくりと目を伏せ、心の中でその言葉の意味を必死に探った。監査官の告げた事実が、国が隠してきた陰謀の一端を暴きつつある――そんな確信が、じわじわと胸の内に広がっていった。

ページを下にスクロールしていただくと、広告の下に【★★★★★】の評価ボタンがあります。もし「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、評価をいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!


@chocola_carlyle

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ