(49)砂漠を駆る影
「砂漠に生息するモンスターの大群が、こちらに向かっている。」
第一王子の報告に、第二王子は一瞬黙り込んだ。だが、すぐに冷笑を浮かべ、肩をすくめる。
「モンスターの大群? どうせ、大規模なマナの影響で暴走したんだろう? それとも、何かに怯えて逃げてきたか。」
第一王子は表情を崩さず、淡々と頷く。
「どちらの可能性もある。あるいは、本能的に安息の地を求めて移動しているだけかもしれん。問題は、彼らが何に突き動かされているのか、その原因がまだ分からないことだ。」
第二王子は苦笑し、腕を軽く振り上げた。
「なるほどな。東の隣国との戦争は無機質なゴーレム相手でつまらねぇから、せめてこっちでまともな戦ができるかと思ったが……初陣がモンスターの暴走相手とは、拍子抜けもいいところだ。」
彼の声には苛立ちが滲んでいた。
「南の国には、モンスターを使役する軍や獣人の部隊がいると聞いたから、手強い相手を期待していたんだがな。ふたを開けてみれば、ただの野生の群れの始末か。こんな砂漠で獣狩りをするくらいなら、王都近くのダンジョンで腕試ししたほうがよっぽど楽しめるぜ。」
第一王子は弟の不満を軽く受け流し、冷静な口調で続けた。
「だが、光の筋が落ちたのはさらに西の方角だ。それなのに、モンスターが我々のいる北側にだけ移動するとは考えにくい。南側にも同様の大群が発生している可能性が高い。つまり、近いうちに南国から休戦の提案が届くかもしれん。」
「休戦?」
第二王子が眉をひそめる。第一王子は静かに頷いた。
「ああ。しかし、先程の光の筋は北から放たれ、南西に落ちた。南国がそれを我々の攻撃だと誤認すれば、問題はより複雑になる。」
「厄介だな。こっちが大規模魔法を使ったとでも思われたら、向こうも動かざるを得なくなる。どこの国も自前の切り札は隠してるからな。」
第一王子は淡々とした表情を崩さず、冷静に補足する。
「もし南国が我々の攻撃だと判断すれば、それを口実に軍備増強を進めるだろう。だが、彼らの本当の狙いは戦争の長期化ではなく、有利な条件での和平交渉だ。今回の件をどう解釈するかが、今後の動向を左右する。」
第二王子は鼻を鳴らし、大剣の柄を軽く叩いた。
「つまり、こっちが魔法を放ってないと証明できなきゃ、余計な火種を抱えるってわけか。面倒な話だな。」
彼は肩をすくめ、大剣を担ぎ上げる。
「とはいえ、王都に戻ったら復興作業が待ってるだけだ。面倒事は増えたが、戦場のほうがまだマシってもんだ。」
第一王子はそんな弟の言葉に小さく頷き、静かに告げた。
「その願いはすぐに叶いそうだ。モンスターの第一波がこちらに向かっている。私も休む暇はなさそうだな。」
その言葉に、第二王子の目が輝く。「おいおい、兄貴も戦うのか?」
第一王子は無表情のまま、腰から宝石のような魔石が埋め込まれた輝くレイピアを取り出し、淡々と答えた。「前線の歩兵や騎兵だけでは、この規模のモンスターを抑えるのは難しい。まして、暴走状態にあるとなれば、通常とは異なる動きをする可能性もある。私たち王家の力を示す良い機会でもあるだろう。指揮官が前線で戦えば、兵の士気も上がるものだ。」
「ははっ、兄貴!さすがだな!その冷徹な計算高さ、俺にも少し分けてくれよ!」第二王子は豪快に笑いながら、大剣を肩に担い直した。その表情には戦いへの興奮が見て取れた。
第一王子はその光景を一瞥し、口元にわずかに微笑を浮かべたかに見えた。しかし、その表情はすぐに闇に溶け、彼の視線は再び遠くの地平線へと向けられる。月明かりの下、砂漠の彼方で微かに動く影が揺らめいた。風に舞う砂煙の奥、モンスターの大群が夜の闇に紛れながら、ゆっくりとその輪郭を現し始めていた。
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第四章 解き放たれし影 閉幕
次なる舞台は、氷の静寂に閉ざされた街。
─深淵を追い求めし者は、やがて神と契りを交わす。
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