(48)燃え盛る砂
──ほぼ同時刻、砂漠地帯の王国駐屯地にて。
静寂が支配する真夜中、砂漠の王国駐屯地は月光の下に広がっていた。昼間の灼熱を吸収した砂漠は、夜になると一気に冷え込み、澄んだ空気が辺りを包み込んでいる。地平線には漆黒の夜空が広がり、無数の星々が瞬いていた。たまに吹き抜ける風が砂粒を舞い上げ、駐屯地のテントや見張り台にわずかな音をもたらしていた。
シオンの兄たち、第一王子と第二王子が指揮する部隊は、夜警の交代を終え、束の間の静寂を享受していた。しかし、その静けさは突如として破られた。
——轟音。
低く響く振動が大地を揺るがし、空気が不気味に震えた。遠く砂漠の彼方、闇の中で突如として天を裂く赤金の閃光が炸裂する。それは雷光のような刹那の輝きではなく、長い尾を引きながら火柱となって夜空を染め上げた。次の瞬間、爆発の余波が荒涼とした大地を駆け抜け、灼熱の風を伴った砂嵐が巻き上がる。
その砂嵐はただの風ではなかった。衝撃で熱せられた砂が巻き上げられ、炎の名残を孕んだ熱風となって駐屯地へと押し寄せた。 冷えていた夜の空気が一気に焼けるように変化し、兵士たちの視界を覆い尽くす。砂塵に煽られた焚き火の炎が揺れ、影が歪んで踊る。駐屯地内の静寂は一瞬にして消え去り、緊迫した空気が張り詰めた。
「さっきのは、何だったんだ?」
第二王子は驚き、目を細めて遠方を見据えた。すぐさま腰の大剣を握る。彼の動きには、いつでも戦闘に移れる戦士の習性がにじんでいた。
駐屯地の兵士たちは一拍の静止の後、次々に持ち場へ駆け出した。誰もが敵襲を疑い、武器を手にし、指揮官の指示を待つ。熱を孕んだ風が皮膚を焼くように吹きつけ、砂嵐の勢いは衰えを見せない。
「敵襲か?」
兵士たちのざわめきが第一王子の耳に届く。彼は表情を変えずに全体を見渡し、落ち着いた声で命じた。
「報告をまとめろ。敵襲の確証はあるか?」
近くにいた参謀が素早く報告をまとめ、第一王子に伝える。その言葉を聞いた王子は頷き、すぐさま兵士たちへと指示を出した。
「皆の者、落ち着け。一筋の光が北東からこの砂漠地帯に向けて飛来した。南国からの攻撃ではないことが明らかだ。」
敵襲ではないと判断され、いったん緊張は和らぐ。しかし、熱風が吹き抜ける中、駐屯地の空気は依然として張り詰めたままだった。砂塵が月光を遮り、視界は不明瞭になる。遠方の地平線には、なおも赤金の残光が揺らめいていた。
「おいおい、東の隣国とドンパチやってる聖天の魔道師団が、魔法の打ち先を間違えたってか?」第二王子は冗談めかして笑うが、その眼差しには油断はなかった。彼の手に握られた大剣が、いつでも振り下ろされる準備が整っている。
第一王子は眉をひそめ、弟に向き直り冷静な声で言った。「弟よ、そんなことがあるわけがない。聖天の魔道師団は父上の指揮下にある。あの部隊が混乱することなどあり得ない。」
「じゃあなんだ?つい先日、王都に死霊の軍勢が押し寄せたって話だ。続きでもやって来たか?」第二王子は軽く肩をすくめ、大剣を肩に担ぎながら言った。
第一王子は冷静さを失わず、状況を分析するように言葉を選んだ。「それも考えにくい。王都を狙うなら、もっと効果的な場所がある。わざわざこの砂漠地帯に攻撃を仕掛ける理由がない。これは何か別の意図があるはずだ。」
第二王子は苛立ちを隠せず、大剣を軽く振り回しながら呟いた。「つまり、何も分からねえってことか。」
第一王子は遠くを見つめる。何かを感じ取ったかのように、表情が引き締まった。「そうだ。ただ─」
「─ただ?」第二王子が即座に問い返した。その軽快な調子とは裏腹に、彼もまた何かを感じ取っていたのだろう。
「報告によると、上級魔法を遥かに凌ぐ莫大なマナが検知されたらしい。特級魔法と言っても過言ではない。そう、我らルーチェリアが建国の伝説にある裁きの円環のような何かだ。人智を超えた何かが放たれた可能性がある。」第一王子はその言葉を鋭く、確信を持って吐き出す。その一言一言が空気を切り裂くかのような重みを持っていた。
その瞬間、第二王子の不満げだった表情が一転し、楽しそうに口元が歪んだ。「そりゃあ、魔法使い共は大騒ぎだろうな。だが、同時に嬉しいに違いねぇ。伝説の特級魔法をこの目で見れるかもしれないなんて、『魔法の深淵』に一歩近づけるんだからな。」彼は興奮を隠しきれない様子でニヤリと笑う。その笑みは、血の匂いを嗅ぎつけた戦士のそれだった。
彼らの対話の後も、駐屯地に漂う空気は重く張り詰め、遠くでは砂嵐が唸り声を上げ続けている。しかし、その緊張感をさらに引き締めるかのように、第一王子は新たな情報を語り出す。
「そして、同時に面倒な報告も上がってきている。」
「んん?」第二王子が首を傾げる。
第一王子はさらに視線を遠方へと向け、慎重に言葉を紡ぎ始めた。
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