表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚痴聞きのカーライル ~女神に捧ぐ誓い~  作者: チョコレ
第四章 解き放たれし影
185/189

(45)亡霊の遺志

 若き日のカーライルは、『ヴァルゼ』と名を名乗ることで、ただの記憶や過去の存在ではなく、現在進行形でカーライルと向き合う独立した存在であることを示した。

「俺はお前が逃げ続け、見ぬふりをしてきた力そのもの。そして、お前がこれから背負う全てだ。」


 現在のカーライルはその名を聞いて一瞬だけ目を見開くが、すぐに肩をすくめる。

「ヴァルゼ、ねぇ…。威厳たっぷりの名前じゃねえか。でも、名前を付けたところで、俺には関係ねえよ。所詮、お前は封印された過去の亡霊だ。」


 ヴァルゼは冷たく微笑む。

「亡霊かどうか、いずれ分かるだろう。だが覚えておけ、お前がこの体を使い続ける限り、俺はいつでもお前の中で息づいている。」

 その言葉には確固たる自信と、いつか主導権を奪い取るという確信が滲んでいた。


 カーライルは軽く鼻で笑いながらも、ヴァルゼの圧倒的な存在感に、どこか背筋が冷えるような感覚を覚えていた。「お前が何を言おうと、俺の体は渡さねえよ。俺は俺のやり方で好きにやらせてもらうさ。」


 ヴァルゼは冷淡に目を細めると、ゆっくりと黒い雷を纏った双剣を取り出し、現在のカーライルに差し出した。その動作には迷いも焦りもなく、まるで儀式の一環のような厳粛さが漂っていた。


「持っていけ。」

 その声には重みがあり、命令でも懇願でもない、ただ確固たる意思が込められていた。


「…これは?」

 カーライルが双剣を見つめ、一瞬驚きの表情を見せる。視線を剣からヴァルゼへと向けながら、低く問いかけた。


「お前に死なれては困る。」

 ヴァルゼは冷たく言い放つ。


「お前が再びここに戻る時は、俺にこの体を譲り渡してもらおう。それまで、この力で生き延びることだ。」

 宣告のようなその言葉が虚空に響き、部屋の冷たい空気をさらに重くする。彼の眼差しには、揺るぎない確信と、何かを見越しているかのような鋭さが宿っていた。


 カーライルは鼻で笑いながらも、内心で微かな震えを覚えた。だが、その感覚を表に出すことなく、余裕を装って皮肉を口にする。


「人の体を物みたいに言うなよ。勝手に未来を決めるんじゃねえ。この体は、俺が好きなように使う。それが、十年前の未熟なお前に対する答えだ。」


 ヴァルゼは一切動じず、その冷たい瞳でじっとカーライルを見据える。その奥には、深い絶望と同時に、未来への淡い期待が混在していた。


 カーライルは双剣を軽く振り、その重みを確かめるように一度大きく息をつく。そして、皮肉な笑みを浮かべながら言った。


「ありがたく借りておくよ。ただし体を譲る気なんてこれっぽっちもないけどな。俺が酒を飲んで幸せそうに笑ってる姿を、特等席からじっくり眺めてろ。」


 軽口を叩きながら扉の向こうへと向かうカーライル。その背中を見送りながら、ヴァルゼは声を低くし、怒りを滲ませた言葉を投げかけた。


「…無駄口を叩くな。いずれ分かるさ、お前が如何に弱く儚い存在かをな…。」


 だが、ヴァルゼは追うこともせず、再び虚無の中に溶け込むように消えていった。その姿は、静かに次の時を待つような不気味な余韻を残しながら。

ページを下にスクロールしていただくと、広告の下に【★★★★★】の評価ボタンがあります。もし「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、評価をいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!


@chocola_carlyle

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ