(45)亡霊の遺志
若き日のカーライルは、『ヴァルゼ』と名を名乗ることで、ただの記憶や過去の存在ではなく、現在進行形でカーライルと向き合う独立した存在であることを示した。
「俺はお前が逃げ続け、見ぬふりをしてきた力そのもの。そして、お前がこれから背負う全てだ。」
現在のカーライルはその名を聞いて一瞬だけ目を見開くが、すぐに肩をすくめる。
「ヴァルゼ、ねぇ…。威厳たっぷりの名前じゃねえか。でも、名前を付けたところで、俺には関係ねえよ。所詮、お前は封印された過去の亡霊だ。」
ヴァルゼは冷たく微笑む。
「亡霊かどうか、いずれ分かるだろう。だが覚えておけ、お前がこの体を使い続ける限り、俺はいつでもお前の中で息づいている。」
その言葉には確固たる自信と、いつか主導権を奪い取るという確信が滲んでいた。
カーライルは軽く鼻で笑いながらも、ヴァルゼの圧倒的な存在感に、どこか背筋が冷えるような感覚を覚えていた。「お前が何を言おうと、俺の体は渡さねえよ。俺は俺のやり方で好きにやらせてもらうさ。」
ヴァルゼは冷淡に目を細めると、ゆっくりと黒い雷を纏った双剣を取り出し、現在のカーライルに差し出した。その動作には迷いも焦りもなく、まるで儀式の一環のような厳粛さが漂っていた。
「持っていけ。」
その声には重みがあり、命令でも懇願でもない、ただ確固たる意思が込められていた。
「…これは?」
カーライルが双剣を見つめ、一瞬驚きの表情を見せる。視線を剣からヴァルゼへと向けながら、低く問いかけた。
「お前に死なれては困る。」
ヴァルゼは冷たく言い放つ。
「お前が再びここに戻る時は、俺にこの体を譲り渡してもらおう。それまで、この力で生き延びることだ。」
宣告のようなその言葉が虚空に響き、部屋の冷たい空気をさらに重くする。彼の眼差しには、揺るぎない確信と、何かを見越しているかのような鋭さが宿っていた。
カーライルは鼻で笑いながらも、内心で微かな震えを覚えた。だが、その感覚を表に出すことなく、余裕を装って皮肉を口にする。
「人の体を物みたいに言うなよ。勝手に未来を決めるんじゃねえ。この体は、俺が好きなように使う。それが、十年前の未熟なお前に対する答えだ。」
ヴァルゼは一切動じず、その冷たい瞳でじっとカーライルを見据える。その奥には、深い絶望と同時に、未来への淡い期待が混在していた。
カーライルは双剣を軽く振り、その重みを確かめるように一度大きく息をつく。そして、皮肉な笑みを浮かべながら言った。
「ありがたく借りておくよ。ただし体を譲る気なんてこれっぽっちもないけどな。俺が酒を飲んで幸せそうに笑ってる姿を、特等席からじっくり眺めてろ。」
軽口を叩きながら扉の向こうへと向かうカーライル。その背中を見送りながら、ヴァルゼは声を低くし、怒りを滲ませた言葉を投げかけた。
「…無駄口を叩くな。いずれ分かるさ、お前が如何に弱く儚い存在かをな…。」
だが、ヴァルゼは追うこともせず、再び虚無の中に溶け込むように消えていった。その姿は、静かに次の時を待つような不気味な余韻を残しながら。
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