(16)魔石の共鳴
「ジリ貧だな…」
カーライルが低く呟いた。
その声には焦燥と苛立ちが滲み、状況の厳しさを物語る。
監査官は次々と魔石を取り出し、上級魔法と組み合わせた圧倒的な攻撃を繰り出していた。その精密さ、マナの練度、速度――熟練の冒険者ですら怯むほどの戦闘技術。さらに、コートの内側に仕込まれた膨大な魔石のストックは、底が見えない。
一方、アルマの体力は限界に近づいていた。彼女の魔法が戦局を支えてはいるものの、額には汗が滲み、呼吸も乱れがち。長引けば隙が生まれ、敗北は時間の問題だった。
「何かがある…必ず打開策が。」
カーライルは焦りを押し殺し、冷静に状況を見つめる。
監査官の動きを注視しつつ、記憶の中から可能性を探る。
そして――
「嬢ちゃん、耳を貸せ。」
低く抑えた声には、静かな確信が滲んでいた。
アルマは即座に反応し、カーライルを振り返る。
その瞳には、冷静な思考と、彼への信頼が宿っていた。
「エデルハイトの暴走事故、覚えてるか?」
カーライルの言葉に、アルマの目がわずかに見開かれる。
「もちろん。でも、今それがどう関係するの?」
「この墓地には、ゴースト対策用の光属性魔石が埋められてる。その魔石にマナを注ぎ込んで共鳴を起こすんだ。共鳴が起これば、監査官の魔石が暴走する。」
アルマはその言葉の意味を即座に理解し、瞳が鋭く輝いた。
「…魔石を暴発させる…!」
「そういうことだ。」
カーライルは監査官を見据えながら、言葉を続ける。
「ただし、タイミングが重要だ。奴に悟られる前に仕掛けなければ、失敗する。」
その時――監査官が不敵な笑みを浮かべた。月光を浴びた顔には、自信と威圧感が満ちている。彼はゆっくりと両手を上げ、コートの内側から魔石を取り出した。その動作には、余裕と冷徹な殺意が漂っていた。
「何をコソコソ企んでいるか知らんが――無駄だ。」
監査官の声が広場の静寂を切り裂いた。
「この私を止められると思うのか?愚かだな。」
見下す冷笑。
圧倒的な自信。
「嬢ちゃん、今だ。」
カーライルの押し殺した声が、鋭くアルマに届いた。
その言葉には、全てを託す覚悟が込められていた。
アルマの瞳に、迷いはなかった。
「…分かったわ。」
深呼吸。杖を握り直す指先に、マナが漲る。
決意が、戦場に満ちる。
「…あとは私に任せて。」
静かだが力強い宣言。
監査官が嘲るように笑いながら、妖しく輝く魔石を取り出す。
「消えろ。」
短い詠唱とともに、空間が歪む。空気が震え、強烈なマナの波動が墓地を揺るがす。アルマは即座にしゃがみ込み、迷うことなく杖を地面に突き立てた。
杖から放たれる光のマナが大地へと流れ込み、墓地全体に波紋のように広がる。 埋められた光属性の魔石が共鳴を始め、震えながらその輝きを増していった。
「な、なんだこれは…!」
監査官が驚愕する。
手の中の魔石が震え始め、制御不能の兆候を示していた。
「足元の光に気を配るべきだったな。」
カーライルの皮肉めいた言葉が、監査官の焦りを煽る。
「馬鹿な…!こんなことが…!」
監査官は血走った目で手元の魔石を見つめ、必死に打開策を探す。
しかし――
魔石の共鳴反応は止まらず、次第に激しさを増していく。
「監査官さんよ、どうする?そのまま魔石と一緒に吹っ飛ぶのかい?」
カーライルの冷たい挑発が、墓地に響く。
監査官の焦燥が、場の緊張をさらに引き締めた。
「くっ…!」
監査官は即座に次の詠唱に移る。
「風よ、天高く舞い上がれ――!」
風の渦が墓地を包み込み、監査官のコートが裂けるように舞い上がる。
仕込まれていた魔石が、一斉に爆発を始めた。
閃光。
轟音。
墓地を揺るがす大爆発。
空を埋め尽くす光の奔流が、一瞬の昼を生み出す。
アルマとカーライルは反射的に顔を背け、衝撃波に身を屈めた。
「…見事な花火だな。」
カーライルが呟いた。
その声には、皮肉と安堵が滲んでいた。
閃光が収まる。墓地には、再び静寂が訪れた。
しかし、その静けさには――
不吉な冷気が漂っていた。
「魔石の共鳴反応だと…!」
監査官は肩を震わせながら、血走った目で二人を睨む。
「エデルハイトを再現するとは…!」
「この私に最も屈辱的な方法で抗おうとするとはな…!」
その声には怒り、絶望、狂気が絡み合っていた。アルマとカーライルは、監査官の動きを注視しながら、静かに次の一手を見極めていた。
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