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愚痴聞きのカーライル ~女神に捧ぐ誓い~  作者: チョコレ
第四章 解き放たれし影
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(39)闇への敬意

 ロクスは相手の動きを冷静に見据え、揺るぎない決意を込めて言葉を紡いだ。

「私は光の力で民を守る盾――天剣の騎士だ。しかし、お前たちダークエルフが宿す闇の力。その崇高さに敬意を示すべき時が来た。この最後の一撃、闇の刃に刻もう。」


 ゼフィアはその言葉に一瞬だけ驚きを見せたものの、すぐに微笑を浮かべ、深い敬意を込めて頷いた。

「深淵を覗き込み、その闇すら己のものとする覚悟…見事だ。確かに見届けよう、その一振りを。」


 ロクスは剣を握り直した。その手には残された全ての力が込められていく。刃は次第に漆黒に染まり、周囲の空間すら飲み込むような気迫を放ち始めた。それは彼がこの一撃に全てを託していることを、誰の目にも明らかにしていた。


「…次の技で終わらせる…!」

 低く響く彼の声には、揺るぎない決意が込められている。彼は一瞬にしてグランスライムの背後へと回り込む。その動きは鋭利な刃そのもののようで、目で追うことさえ困難だった。


 闇の触手に絡め取られ、漆黒の壁に押さえ込まれたグランスライムは、もはや逃れる術を持たない。ロクスは深く息を吸い込み、剣を高く掲げた。その刃先に闇の力が渦巻き、漆黒の光が空間そのものを飲み込むように広がっていく。


冥双断(シャドウクロス)!」


 咆哮のような叫びとともに、第一撃が空を裂いた。漆黒の斬撃が描く軌跡は鋭利な黒い閃光となり、グランスライムの巨体を容赦なく切り裂いた。その斬撃は触れるたびにスライムの粘液を呑み込み、中心部を抉るように進んでいく。巨大な体がその一撃に悲鳴を上げるように振動し、粘液が周囲に飛び散った。


 だが、ロクスの動きは止まらない。彼は間髪を入れず剣を反転させ、再び闇の力を収束させると、逆方向へ二撃目を放つ。第二撃が空間に漆黒の十字を刻みつけ、その力が菱形の遺物に直撃した。


「砕け散れ!」


 ロクスの怒声に応えるかのように、菱形の遺物が砕ける音が響く。遺物の光は細かな粒子となり、闇の中へと消え去った。


 ゼフィアはその光景をじっと見届け、口元に小さな笑みを浮かべた。「ふっ…我らダークエルフの誇る闇には及ばぬが、見事な力だ。さて、残る一つは…私が葬り去ってみせよう。」


 その言葉とともに、彼女は静かに詠唱を始める。その声は凛としながらも、重厚で荘厳な響きを持っていた。


「影の深淵に眠る力よ、漆黒の闇より刃を生み出せ。絶望の一閃、我が意志に応えよ──闇影刃(シャドウエッジ)!」


 ゼフィアの詠唱が終わると、空間に漆黒の刃が具現化した。その刃は鋭く輝きながらグランスライムの巨体を貫き、その中心に潜む球体の遺物を正確に射抜いた。


「終わりだ…!」


 ゼフィアの冷静な声とともに、球体の遺物が脈動を止める。抵抗する間もなく遺物は砕け散り、光の粒子が虚空へと溶け込んでいく。それに伴い、グランスライムの巨体も形を保つ力を失った。膨大だったジェル状の体は、まるで糸が切れた人形のように崩れ落ち、その場に液体となって溶けていく。


「…これで終わりか。」

 ロクスは肩で息をしながら剣を地面に突き立てた。息遣いは荒いが、その顔には確かな安堵が浮かんでいる。


「片付いたか…」

 ゼフィアもまた呟くように言葉を漏らした。その声は掠れていたが、そこには達成感と誇りが込められていた。


 ロクスは剣を支えに立ち尽くし、視線を前方に向けたまま立ち続けていた。彼の体は限界に近い状態だったが、鋭い目はなおも戦いの終焉を見届けようとしていた。


 静寂が部屋を支配していた。だが、それは束の間の安息だった。冷たく無機質な機械音がその静けさを切り裂くように響き渡った。


『グランスライムの稼働停止を確認』


 その声は感情の欠片も感じさせず、淡々と続けられる。


『兵器稼働に回せるマナの残量はゼロ、及び本塔内の侵入者排除用のトラップの稼働に必要なマナもゼロになりました…。マナ抽出庫に新たな素材の投入を開始してください。マナ抽出庫に新たな素材の投入を開始してください…』


 響き渡るその音声は、まるで塔そのものが生命を持つような不気味さを醸し出していた。言葉が何度も繰り返されるたび、異様な空虚感が部屋の中に漂う。この機構は、もはや自身の力を失い、最後の命令だけを反芻しているようだった。


 ロクスは剣を握り直し、その刃先に一瞬光を宿す。彼の目には未だに揺るぎない意志が灯っていた。低く、だが力強く呟く。


「屋上へ向かうぞ。」


 その言葉にゼフィアも頷いた。深く息を吸い込み、疲労に覆われた体を震わせながら、ゆっくりと立ち上がる。


「…何がどうなったのか、確かめなくては。」


 二人は互いに無言で頷き合うと、瓦礫が散乱する部屋の床を踏みしめながら階段へと向かう。足音が床を擦るたびに、崩れた石片が微かに響き、二人の存在を遺跡に刻み込んでいった。

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@chocola_carlyle

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