(31)戦力と困惑
ロクスは剣を握る手に力を込め、冷徹な視線で戦況を見極めていた。目の前には、なおも戦意を失わぬアークミノタウロス。その巨影の向こうで黒雷を纏う双剣を振るうカーライル、そして信用に値するとは言い難いゼフィアと彼女が召喚した水の精霊ウンディーネ──この戦場は、まるで崩壊寸前の均衡を保つ薄氷の上だった。
「まるで悪夢だな…。」
ロクスは低く呟き、カーライルの双剣を覆う黒雷を見据える。その光景は、否応なく十年前の惨劇を思い起こさせた。
「また目にするとはな…あの力を。だが、今のカーライルはまだ"あの頃"には程遠い。」
そう自らに言い聞かせながらも、不安が胸を過る。十年のブランクが彼の剣筋を鈍らせているのは確かだが、それでも彼の狂気じみた戦意は、未だ戦場を圧倒する力を持っていた。
カーライルは果敢に双剣を振るい、ミノタウロスへと次々に斬撃を叩き込む。しかし、その鋼鉄の装甲は驚異的な耐久力を誇り、刃は表面を掠める程度に留まる。
その瞬間――ミノタウロスの背部装甲が突然開いた。
隠されていた噴射口が露わになり、爆音とともに強烈な気流が吹き出す。車輪が高回転し、巨体が異常な加速度で動き出した。
「なんだと…!?」
ロクスが身構えた瞬間、ミノタウロスはまるで弾丸のように戦場を縦横無尽に駆け巡る。
「速ぇな!?」
カーライルの驚きが響く。鋼鉄の巨体は重力を嘲笑うかのごとき速度で疾走し、ついに新たな標的としてロクスに狙いを定めた。
ロクスは刃を構えながら低く呟く。
「直線軌道なら見切れる…!」
ミノタウロスの進行方向を正確に読み取り、回避の動作を開始する。しかし、その巨斧が床に突き刺さった瞬間、凄まじい衝撃波が発生した。
ドォンッ――!
爆発的な衝撃が空間を震わせ、足元の床に深い裂け目が刻まれる。瓦礫と粉塵が巻き上がり、視界が一瞬で奪われる。
「今だ…!」
粉塵の中からロクスの鋭い声が響く。彼の剣が淡い雷の輝きを帯び、狙いを定める。
「雷迅閃!」
剣を振るった刹那、稲妻の刃が放たれる。雷撃は一直線にミノタウロスの巨大な斧を捕え、刃を両断した。
ガギィィィン!
鋼鉄の破片が四方に飛び散り、火花が戦場を照らす。その衝撃により、巨体の装甲に無数の亀裂が走り、ついには膝をつかせた。
「…やったか?」
剥がれた装甲の下から現れたのは、脈動する赤いクリスタルと、まるで生体の筋肉を模した機械的構造物。それは単なる兵器ではなく、マナによって駆動する生体兵器であることを物語っていた。その異様な光景が、戦場の緊張をさらに高める。
ロクスは剣を握り直し、冷徹に言い放つ。
「獲物は奪った。覚悟するがいい。」
その瞬間、遺跡全体に無機質な声が響き渡る。
『アークミノタウロス、武器喪失を確認。格闘形態へ移行。新たな戦闘パターンを構築中…』
巨体が再び立ち上がる。
今度は、武器を持たぬその姿が、より一層恐ろしさを増していた。
「まだやるつもりか…上等だ!」
カーライルが不敵に笑い、双剣を構え直す。その刃先に絡みつく黒雷は、一層荒々しく脈動し、周囲の空気を焼くように揺らめかせていた。
「おい、牛野郎!そろそろ死に場所を選ばせてやるぜ!」
ミノタウロスの赤い瞳がカーライル、ロクス、ゼフィアを順に捉える。その視線は冷徹でありながら、まるで意志を持つかのような威圧感を放つ。
そして――突如、巨体が低く沈み込んだ。
「まずい…!」
次の瞬間、爆発的なスピードでロクスへと突進する。轟音と共に戦場が震え、衝撃波が空気を裂く。ロクスは剣を構え、防御態勢を取る。しかし――ミノタウロスの拳が彼を捉えた。
ドゴォンッ!!
ロクスの体が宙を舞い、背後の壁に叩きつけられる。崩れ落ちる瓦礫の音が戦場に響く。彼は苦痛に耐えながら立ち上がるが、ミノタウロスはすでに間合いを詰めていた。その動きに焦燥を感じつつも、ロクスの目にはまだ冷静な光が宿っている。
一方で、カーライルはニヤリと笑いながら拳を握り込む。
「素手で来るってんなら、俺もその喧嘩に付き合ってやるぜ!」
彼は双剣を背に収め、両拳に黒雷を集中させた。その力はますます荒々しく迸り、周囲の大気を焦がすほどの熱量を放つ。
「雷轟拳撃!」
咆哮と共に拳を振り抜く。黒雷が弾け、爆裂するような衝撃波が戦場を飲み込む。
しかし、ミノタウロスも怯まない。
その巨体が迎撃の拳を放ち、二つの力が激突した瞬間――戦場全体が、まるで空間そのものが軋むような衝撃に包まれた。
「ハッ、もっと楽しませてくれよ…牛野郎!」
戦場に轟く轟音の中、カーライルは挑発的に笑い、さらなる攻撃へと踏み込んでいく。
ゼフィアは鋭い目で戦況を見つめ、ウンディーネへと指示を送る。
「水の力を舐めるな…この刃で断ち切る!」
彼女の言葉と共に、ウンディーネの水流が鋭い刃へと変化し、ミノタウロスの装甲へと襲い掛かる。
戦場は、さらなる激戦へと突き進んでいく。
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