(30)嵐が裁く咆哮
「ウンディーネを…召喚したのか…!」
ロクスはその神秘的な姿に目を見張り、息を呑んだ。青白い水の光が煌めき、まるで幻想の世界に迷い込んだかのような錯覚を覚える。だが、その一方で、彼の瞳には確かな希望の色が宿っていた。
ゼフィアが鋭く命じる。
「この怪物を沈めろ!」
ウンディーネは静かに頷き、優雅な所作で両腕を広げた。瞬間、彼女の身体から溢れ出した蒼き奔流が戦場全体を包み込む。その水流は単なる液体ではない。純粋なマナそのものであり、周囲の空気すら歪ませるほどの濃密な力を秘めていた。
「なんだ、こいつは…?」
カーライルが低く呟いた。双剣を握る手には、ウンディーネの圧倒的な力が伝わり、その存在が規格外であることを直感的に理解する。
蒼き奔流がミノタウロスの足元へと絡みつく。鋼鉄の車輪が軋みを上げ、駆動を鈍らせた。水はただ絡みつくだけではない──装甲の隙間に浸透し、内部の機構を蝕んでいく。
ウンディーネが静かに手を振ると、空間を裂くように鋭い水の刃が生まれた。刃は音もなく宙を舞い、正確にミノタウロスの右腕を切り裂く。装甲に深い亀裂が走り、内部から赤黒い火花が弾け飛んだ。
ゼフィアの瞳が怒りに燃える。
「古の兵器がなんだ!精霊の裁きの前では、ただの鉄屑に過ぎない!」
彼女の叫びに呼応するように、ウンディーネの水刃が次々と襲いかかる。そのたびに鋼鉄が砕け、響き渡る衝撃音が戦場全体を震わせた。
だが、カーライルはその光景を見つめながら、勝ち誇ったように笑った。
「この俺を差し置いて、派手にやらせると思うなよ。」
そう言うが早いか、彼は水流の中へと踏み込んだ。双剣が黒雷を纏い、弾ける閃光と共にミノタウロスへと突き刺さる。鋼鉄の装甲が焦げつき、青白い水と黒い稲妻が交錯する。
轟音と爆裂する魔力の波動が戦場を飲み込む──。
ロクスは目の前の光景を見据えながら、剣を強く握った。
「加護の天閃…あれを放てば、この巨体を一撃で仕留められるはずだ。」
しかし、同時に彼は理解していた。全力の一撃を放てば、次の攻撃に対応する余力は残らない。外せば、敗北は免れない。
彼は呼吸を整え、戦況を見極める。微かな焦燥を胸に秘めながらも、その瞳には戦士の冷静な意志が宿っていた。
一方、ゼフィアは魔石を強く握りしめ、全身の力を振り絞るようにしてウンディーネへとマナを送り続ける。その瞳には深い決意が宿り、わずかに震える唇から祈りのような言葉が零れる。
「ウンディーネ…力を貸して…!」
ゼフィアの祈りに呼応するかのように、ウンディーネの水流がさらに勢いを増し、ミノタウロスを包み込む。奔流はまるで生き物のように動き、装甲の隙間へと入り込んでいく。その冷たい力が戦場を支配し、絶対的な威圧感を放っていた。
しかし、それでもミノタウロスは倒れない。
圧倒的な力を持ちながらも、赤い瞳はなおも揺らぐことなく、圧倒的な存在感を誇示するように立ちはだかる。その巨体が動くたび、地面が軋み、空間全体が重圧に満ちていく。
「さて、次はどこを削ってやるかな…!」
カーライルはニヤリと笑い、双剣を構え直した。刃先には黒雷が絡みつき、その輝きはまるで飢えた獣の目のように獰猛だった。
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