(28)機械仕掛け
カーライルは目の前の鋼鉄の巨体を睨みつけ、唇の端を歪めて不敵に笑った。その表情には恐怖の色は微塵もない。むしろ、目の奥には狩人のような鋭い輝きと、血が沸き立つような昂揚が滲んでいた。
「鋼鉄を纏ったところで、牛は牛だろ?」
嘲るように呟き、双剣を高々と掲げる。
「四つん這いになって、俺の足元にひれ伏す準備はできてるか?」
挑発の言葉とともに、地を蹴る。
――瞬間、黒い雷が爆ぜた。
双剣を纏う稲妻が、戦場に不吉な影を刻む。まるで嵐の化身が駆け抜けるように、彼は一閃の速度でミノタウロスへと突進した。
ミノタウロスは低く唸りながら巨体を揺らし、両腕の筋肉を隆起させて大斧を振り上げる。その刃は青白い光を反射し、空気を震わせるほどの圧倒的な威圧感を放っていた。
「ッ…!」
刹那、轟音。
斧が地面に叩きつけられた瞬間、遺跡全体が震撼する。足元の石床は蜘蛛の巣状に砕け散り、衝撃波が空間を裂いた。
だが――カーライルの姿は、そこにはなかった。
「月影雷斬!!」
黒雷の影が一瞬で死角へと跳躍し、閃光とともに双剣が閃く。十字を描くように鋭く振り下ろされる刃が、装甲の隙間を狙いすましたかのように斬り裂いた。
「どうした、牛野郎!」
嘲笑混じりに黒雷の斬撃を次々と叩き込む。鋼鉄の装甲に火花が散り、雷鳴のごとき轟音が響く。
しかし――手応えは、浅い。
装甲は異様なまでに硬く、刃は表面をかすめるだけだった。
その瞬間、ミノタウロスの眼が赤く輝く。
低くうねるような駆動音。巨体が沈み込み、足元の車輪が猛然と回転する。
「な…!?」
弾丸のような速度で滑る鋼鉄の怪物が、反撃の隙を一切与えず突進する。
ドンッ――!!
轟音とともに、カーライルの体が宙を舞った。
鈍い衝撃が全身を駆け抜け、壁へと激突する。遺跡の構造体が悲鳴を上げるように揺れ、砕けた瓦礫が降り注いだ。
「…クソが…!」
荒い息を吐きながら、瓦礫の中から身を起こす。
間髪を入れず、ミノタウロスの巨体が動いた。
大斧を掲げ、まるで死刑執行人のように振り下ろそうとする。
「牛ごときが…この俺を倒せるとでも思ってんのか…?」
カーライルは唇を噛みしめ、雷光を纏う双剣を強く握る。火花のように弾ける稲妻が、戦士としての闘志の象徴となっていた。
「お前の装甲がどれだけ硬かろうが、ぶち抜いてやるよ……!」
「雷轟月牙!!!」
咆哮とともに、双剣を振り上げる。
その瞬間、雷が地を奔った。
黒き雷撃が稲妻の刃となり、閃光が遺跡の壁に影を落とす。
「グォォォォォォォォ!!!」
苦痛の咆哮が響き渡る。鋼鉄の装甲に傷が刻まれ、黒煙と火花が舞い上がる。しかし、ミノタウロスは怯まない。
巨体が回転し、信じられない速度で大斧を振り抜く。
「ッ――!」
刃が空気を切り裂き、視界を埋め尽くす。
咄嗟に身を翻し、カーライルは間一髪で避けた。だが、巨大な刃は背後の壁を深々と抉り、轟音とともに遺跡全体が揺れる。
「…やるじゃねえか」
勝ち誇ったように笑うカーライルだったが、その言葉を言い切る前に、ミノタウロスが再び車輪を駆動させた。
弾丸のような猛突進。
「ッ――」
視界が揺れる。轟音とともに、再び弾き飛ばされる。
「ぐっ…!」
壁に叩きつけられ、粉塵の中に沈む。
ミノタウロスは、刺さった斧を引き抜くと、咆哮を上げた。
「グォォォォォォォ!!!」
大地を揺るがす咆哮が戦場全体を震わせる。
瓦礫の中から顔を上げたカーライルは、荒い呼吸を整えながら巨体を睨む。その唇の端が再び歪み、不敵な笑みが浮かんだ。
「…上等じゃねぇか」
彼の双剣はなおも雷を帯び、脈動する黒き稲妻が戦意を証明するように弾けていた。
戦場の端でその死闘を見つめるロクスとゼフィアは、それぞれの思惑を胸に抱きながら慎重に状況を分析していた。
この戦いは、ただの一戦ではない――
戦場を引き裂く嵐の中心に、今、カーライルがいた。
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